現役と浪人、どちらが東大に入りやすい?数学のプロが警鐘「暗記数学はなぜ行き詰まるのか」

算数、数学の学習でつまずいてしまった、中学や高校でわからなくなって進路を変えた、今でもこの分野には苦手意識がある。そんなビジネスパーソンは多いはずだ。
教育の世界では「七五三現象」という言葉がある。算数、数学の授業についていけているのは、小学校で7割、中学で5割、高校では3割しかいないという意味だ。
「多くの人が算数、数学の正しい学び方を身に着けていません。量をこなして解法を覚えるという力技で乗り切ろうとし、中学・高校で壁にぶつかった人も多いのではないでしょうか」
そう語るのは永野数学塾の塾長、永野裕之氏だ。つまずかない算数、数学学習法とは何か、中学受験をさせる場合は何に注意すべきか、つまずいた際のリカバリー方法とは―。全3回の第2回。
目次
割り算が「算数苦手」の分水嶺
第1回では「算数・数学でつまずきやすい単元」として、割合や場合の数、関数、整数の性質、確率などを挙げました。
しかし、それ以上に多くの人がつまずいている単元があります。それは小学校3年生で習う「割り算」です。中学受験で「割合」「速さ」につまずいている子から、社会人でデータの扱いや理解に苦戦している人まで、ぼんやりとした理解しかできていない人が非常に多い。
しかも多くの人は、自分が割り算でつまずいていることにすら気づいていないのです。
「割り算なんて簡単だろう」なんて安易に考える人もいるかもしれません。では、下記の問題を解いてみてください。
<問題1>
10Lの水を20人で分けます。一人あたりの量を答えなさい。
<問題2>
Aさんは880円の本を買ったところ、所持金の4/7が残りました。はじめの所持金は何円でしたか?
<問題3>
7.2mの長さで重さ3.6kgの棒があります。この棒の1メートルあたりの重さを答えなさい。
すんなり解けましたか。文章を式にする際に手間取ったりした人も多いのではないでしょうか。「とりあえず大きい数字を小さい数字で割ってみよう」と計算から入ったり、「いったん計算をしてみて不自然だったら計算し直す」という人もいるはずです。
割り算は「等しく分ける」という意味の場合と「何個分か」を求める場合とがあるので、ケースバイケースでどちらの意味の計算をするべきかを考える必要があります。この点が、計算の意味がわかりやすい足し算、引き算、かけ算と異なります。この3問に手間取った人は、割り算を正しく理解せずに、暗記で乗り切ってきた可能性があります。
「公式はとにかく覚えるもの」という誤った学習観
先ほどの問題で立式に手間取った人は、割り算の本質を理解していない可能性があります。
割り算の本質とは「何を何で割るのかを、問題文から正確に読み取る能力」です。問題文に「10L」「20人」と数字が出てきても、どちらを分子に、どちらを分母にするかは文章の意味次第で決まります。
ところが多くの学校では、この読み取り能力を育てる代わりに「公式の丸暗記」で教えてしまいます。速さの問題なら「速さ=距離÷時間」、濃度の問題なら「濃度=溶質÷溶液×100」といったように、問題のタイプごとに公式を覚えさせるのです。
この指導法では、子どもたちは「なぜその計算になるのか」を考えなくなります。問題文を読んで式の意味を理解する代わりに、「この問題はあのパターンだから、あの公式を使う」という機械的な判断に頼るようになってしまいます。
結果として「公式は意味を考えるものではない、とにかく覚えるもの」という誤った学習観が形成されます。これが算数・数学における暗記学習の始まりです。
この暗記学習は小学校のうちは通用するかもしれません。しかし中学、高校と進むにつれて抽象的な問題や初見の問題に対応する機会が増えると、覚えただけの公式では対応できなくなり、一気につまずいてしまいます。