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昭和の街並みが消失すると思いきや…滅びそうなのはタワマンのほうという異常事態「2階にケバブ屋爆誕予定」庶民派プロレタリアートが住む「ザ・タワー十条」の衝撃

「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」

 書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第3回は庶民派タウンに場違いなタワマンが建つ「十条」周辺を歩く。

目次

消費され尽くした街「赤羽」の隣にある街

 東京都北区十条、そこは2010年代のデフレが生んだ北区の理想郷。

 この町が北区の最強タウンとして区内で地位を向上させたのは、2010年代からだ。それまで、北区の中心的な地位を占めていたのは赤羽であった。しかし、巨大な飲み屋街を有する北区は、清野とおるのマンガ『東京北区赤羽』、その映像化『山田孝之の東京都北区赤羽』などを通じて、盛んにメディアに登場。「おとなの隠れ家」的な飲み屋が密集する地域として、消費し尽くされた。

プロレタリアートな街に馴染む風景(2015年・筆者撮影)

『孤独のグルメ』に登場した、朝からオッサンが酒を飲んでいた店・「まるます家」が、観光客が行列する名物店に。ほかの店も同様で地元民が楽しく飲める風景は失われてしまった。当時、行き場を失った地元民たちはどこにいったのかを尋ねたところ、言われたのがこの一言。

「もはや、地元民は十条に避難している」

 それから十数年、十条はほぼ姿を変えずに下町を維持し続けている。いったい、このパワーはなんなのだろう。

ついに現れた「異物」――「ザ・タワー十条」の衝撃

 そんな十条に起きた前代未聞の変化が、駅前にタワマンができたこと。2024年9月に竣工した「ザ・タワー十条」が、それだ。地上39階建て。下層階には店舗や公共施設の入居する巨大マンションは建設前から、十条の街を大きく変えるのではないかと危惧された。実際、駅前のロータリーは大きく変化している。小規模な建物に囲まれた、共産党の宣伝カーが似合う(実際、よく演説していた)風景は、小洒落た郊外都市の体裁に。

 ああ、きっとこれを契機に再開発も進んで、昭和そのままの十条も姿を消してしまうに違いない。多くの人は、そう考えたのではなかろうか。ところが、それから1年弱。滅びそうなのはタワマンのほうという異常事態が起きている。

かつての雑然とした駅前も今となっては懐かしい(2015年・筆者撮影)

 JR埼京線・十条駅は池袋駅から2駅目。ラッシュ時は激烈に混雑する埼京線だが、わずかな時間なのでまったくの許容範囲。それが、十条を都心で働くサラリーマンにも住みたい街にしている要因だろう。埼京線は、りんかい線方面に直通しているし、池袋駅は複数路線と接続するターミナルなので、使い勝手が非常によい。さらに、京浜東北線の東十条駅、地下鉄南北線の王子神谷駅も含めれば、都心のほとんどのエリアに30分ほどで到達できる交通至便なエリアなのだ。

 にもかかわらず、再開発の歩みは遅かった。

 もともと、住宅が密集し災害に脆弱な土地柄ゆえに、立体交差や再開発の構想自体は古くから存在していた。

 1997年には東京都が「防災都市づくり推進計画」を策定。以降、整備構想は立てられていくが、財政難もあり計画は長らく停滞していた。2004年には北区が「十条地区まちづくり基本構想」をまとめ、2012年には「十条駅西口地区第一種市街地再開発事業」が都市計画決定。2017年に市街地再開発組合が設立され、ようやく2024年、当初予定から2年遅れで再開発ビルが完成した。

 だが、街は簡単には変わらない。

再開発反対運動は正しかったのか。まあ駅前は綺麗になったけど(2015年・筆者撮影)

 今から10年ほど前、タワマン計画と並んで、埼京線の連続立体交差化、環状七号線と接続する補助73号線の整備といった話題も盛んに取り上げられていた。だが今、その話題はあまり聞かなくなった。

 昔は「再開発反対」ののぼりや貼り紙がいたるところに掲げられていたが、今ではその姿もあまり見かけない。ただし、それは賛成に転じたのではなく、あきらめか、慣れか、あるいは無関心か。いや、そもそも再開発に対するリアリティがないのかもしれない。

 北区が公表している最新版の「十条地区まちづくり基本構想」では、連続立体交差事業の完了目標は2030年とされている。しかし、国土交通省の資料によれば、2022年時点で用地取得率0%、事業進捗率0.1%。投資効果(費用対効果)こそ確保されているが、実質的には動いていないに等しい。

 他地域の道路計画に比べても、著しく進捗が悪い。災害リスクが高いことは分かっていながらも、それでも街が大きく変わることを拒み続けている……。それが十条という街なのである。

商業フロアの惨状――「見えない2階」のケバブ屋(予定)

 そんな街に、はからずも建設されてしまった「ザ・タワー十条」は悲惨の極みの一言に尽きる。

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この記事の著者
昼間たかし

1975年岡山県岡山市生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。X(https://x.com/quadrumviro)

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