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戦士の休息…もっと観たい、もっと見せてくれ、それでも。羽生結弦と共にあり続ける「未来」想えば

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

銀盤で戦った者だけが知る世界

 正直、心から安堵している。

 でも、残念な気持ちがないと言えば嘘になる。

 次々と繰り出される革新、アイスストーリーを始めとするプロアスリート宣言からの疾走(まさしく「疾走」だろう、「歩み」では足りない)を思えば、もっと観たい、もっと見せてくれ、と勝手な思いが先走る。

 それでも、心から安堵している。

 羽生結弦と共にある人々もそうだろう。フィギュアスケートを知るなら誰でもわかる話。優勝劣敗、過酷な競技である。

 歴史上、多くのスケーターが競技生活の途中で躰だけでなく心までやられた。引退後すら、その後遺症で苦しむ者があった。怪我のみならず摂食障害やアルコール障害、その重圧たるや、私ごときが量ることなどとうてい無理だ。銀盤で戦った(あえて「戦」を使う)者だけが知る世界だと思う。

 まして羽生結弦は創作者であり、芸術的感性とアスリート的発想を以てアイスストーリーを誕生させてきた。

『GIFT』『RE_PRAY』『Echoes of Life』というアイスストーリー初期三部作(以前も書いたがあくまで後世に向けた比較史としての私的な括りである)がそうそう簡単に生まれようはずもない。

 それも自らが表現者として、単独の人として氷上に立つ。

「単独者」(The Single Individual)とは実存主義の父、哲学者のセーレン・キルケゴールが『二つの建徳的講話』(1843年)から用いた言葉だが、自分の心に誠実に、情熱的に、内的意志のままに自律性と主体的真理を以て「神の前に立つ」行為であり、それを実践できる人を指す。その先にあるのがキルケゴールの有名な言葉「超越」である。

 本旨ではないため措くが、つまり羽生結弦という存在のことである。

 キルケゴールの言う「超越」とは戦いでもある。内在する自己との戦いだ。

 人間はそのまま人間ではなく、人間になるための戦いをしている。だからこそ人間には休息が必要だ。

 安息日とは人間を恢復するための行為だ。

 かつて(古代ユダヤ教など)安息日は人のためでなく神のためにあった。それをキリストは「安息日は人のためにある。人が安息日のためにあるのではない」(『マルコによる福音書』2:27-28)とした。人のための宗教の誕生だった。

 安息=休息とは人が人でいるために必要な行為である。「くつろぐのも寝るのも兵士の仕事」といった言葉があちこちの軍隊にあるように、戦士には休息が求められる。休息がなければ戦えない、当たり前の話のように思うがそれがなかなかできないことは旧日本軍の失策を見ても明らかだ。

それほどまでに「苛烈な日々」

 恢復=メンテナンスもしかり。

 進化するためにメンテナンス期間を設ける、まさに戦士の休息である。「休養します」や「お休みをいただいます」でなく「メンテナンス期間」としたのは羽生結弦ならではの表現だろう。これまでにない「この先の人」である証左に思う。

 そんな理屈以前に、羽生結弦の走り続けた肉体そのものも厳しい状態にあることは確かだろう。私的には足(足首)の心配がある。一度やるとなかなか難しい箇所だ。とくにフィギュアスケーターにとっての足首は生命線であり弱点でもあることは、フィギュアスケートを好む多くの知るところだろう。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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