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種も仕掛けもない、真夏の桜は空に還った・・・櫻井智と90年代、その熱き「僕たちの時代」追想(2)

(c) AdobeStock

目次

声優企画いけるじゃん

 櫻井智ーー智さんは当時の角川書店、HJK市ヶ谷ビルの一角を使って特集のグラビア撮影に望んだ。

 なるべくパソコンやパソコンゲームに囲まれた絵面が欲しいと倉庫から山ほど引っ張り出していざ撮影、いまその写真を観れば『シムタウン』、『メルティーランサー』、『バイブルマスター2』、『シュヴァルツシルトEX 鉄鎖の星群』、『VETTE!』が確認できる。その他Macintosh(Quadra)にIBM-PC/AT互換機、そしてブラウン管ディスプレイとネオジオのバカでかいコントローラーに囲まれたセットの中、ハイアングルの画角で微笑む彼女はまさに新しい時代のアイドル声優だった。

 実のところ、コンプの大々的なパソコンゲーム声優企画は1995年5月号の拙筆『巷のメディアミックス』が最初である。

 しかしこの企画案と取材、執筆そのものは私だが、会議での企画の承認と進行そのものは当時の担当編集のO女史であった。まだ私が先の上崎よーいちでなく猿一号というペンネームのころである。『ポリスノーツ』(PC-9821・1994年)の井上喜久子、『誕生 〜Debut〜』(PC-9821・1994年)のかないみか、『ゆみみみっくす』(FM TOWNS・1993年)の篠原恵美(以下、恵美さん)に取材をしている(この稿すべて、専門誌でないため個々の詳細は略す)。

 これが読者の人気を集め「声優企画いけるじゃん」となったことがまず櫻井智の起用にあった。当該記事に私は「現在最もその成長が顕著で、それが認められている声優」と書いている。1993年のドラゴンリーグのウィナ姫から始まり赤ずきんチャチャのマリン、マクロス7のミレーヌ・ジーナス、神秘の世界エルハザードのシェーラ・シェーラといった時期だ。そして主役を演じた怪盗セイント・テール、一連の櫻井智の企画はその前後ということになる。

声優を使うことの相乗効果

 ところで、先にパソコンゲームには声優の起用が少なかったと書いたが、物理的な問題とともに予算の問題があった。小規模な企業の多かった当時のパソコンゲームにおいて、家庭用ゲーム機のような莫大な予算をかけた作品はそれほど多くなかった。また売上におい

「声なんかいらない」というユーザーの声があったほどに(それはパソコン通信や読者アンケート、それこそ実際に会うゲーマーといった小さな「声」でしかなかったが)、声優を使うことの相乗効果もいまと比べれば未知数だった。

 しかし『美少女戦士セーラームーン』や90年代OVAがきっかけとされる第3次声優ブーム(便宜上の定義だが私も過去原稿で使っていることを確認できる)から、遅まきながらパソコンゲームにも多くの声優が使われだした。営業面でもイケるとなった。

 もっとも先のポリスノーツはコナミ、誕生はNECアベニュー、ゆみみはCSKおよびゲームアーツと大手企業かその傘下、もしくは協力下にはあるのだが、当時の主流であったPC98シリーズ(PC-9821)におけるCD-ROMドライブの普及もあったように思う。もちろんWindows95もそうだ。

「これ、収録後初めて観るんです。楽しみにしてたんですよ」

 智ちゃんの大きな眼の前に映るミレーヌ、『マクロス7 ミレーヌバーチャルポケット』であった。これはWindows95用のデスクトップアクセサリー集であった。壁紙やスクリーンセイバー、ミレーヌの声(WAV)でパソコンの起動音などをカスタマイズすることができる。いっしょに撮影となったが智ちゃんはパソコンを使うのが初めてだった。

 当時はなんにも珍しくない話で先の恵美さんは「パソコンは持ってませんが(私のゲーム中の声を)、ファンのみなさんがカセットテープに録音して送ってくれます」と語っていた。スマホも無ければ携帯電話もようやく第2世代(デジタル化)、パソコンもまた一般家庭に完全に普及する前の話である。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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