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世界に羽ばたいたBTSの礎・・・わかっている。それでも、これ以上、彼らを傷つけないで(後)

(c) AdobeStock

連載『BTS第2章 新たな旅へ。』

目次

リリックとして深く、この魂が流れている

 だからこそのBTSという21世紀唯一のグループが誕生した。

 RMの「ヒョン(パン・シヒョク)を信じているから」はずっとそうだったのだろう。この言葉を思えば我が事のように苦しい。

 RMが芸術や文学、思想にも造詣が深いことはよく知られている。

 風がどこから吹いて

 どこへ吹かれていくのか

 風が吹いているのに

 私の苦しみに理由がない 

 韓国の国民的詩人、尹東柱の詩『風が吹いて』の一節である(拙訳)。

 RMだけでなく彼を、尹東柱を成人で知らない韓国人はおそらくいまい。歴史的背景はともかく、尹東柱の魂は言葉を綴る民族としての極致であるように思う。

 私も尹東柱が好きだ。韓国と書いたが国すら関係なく、いまや人としての心がそこにあるように思う。

 BTSにもまたリリックとして深く、深くこの魂が流れている。

BTSが世界に羽ばたく礎

 韓国は詩の国だ。私が芸術修士(MFA)であり詩人、俳人であるからかもしれないが、韓族の詩に対する情熱と想いは世界的にも知られている。金素月や鄭芝溶、李箱など日本統治下の詩人がよく知られるが、やはり尹東柱はとくに知られた国民的詩人である。

 日本の同志社大学構内にこの鄭芝溶と尹東柱の詩碑があるので訪れた際はぜひ見て欲しいのだが、共に同志社大学を卒業後、尹東柱は日本の刑務所で拷問死(1945年、27歳)、鄭芝溶は李承晩独裁体制下で収監されて行方不明(1950年、48歳)となった。

 歴史と人の業とに翻弄された人生だったが、彼らの詩とその生きようは韓国のみならず世界の文学界に刻まれている。

 BTSが世界に羽ばたくその礎は韓流とかメディアが呼ぶずっとずっと前から存在する。その源流は確かだ。

 なくしてしまいました。

 どこでなくしたか知らないまま

 両ポケットをまさぐって

 道に出たのです。

 石、石、石がどこまでも続き

 道は石垣にそってのびています。

 石垣を手で探れば涙ばかり

 空見上げれば恥ずかしいばかりの青。

 わたしに命あるのは、ただ、

 なくしたものを

 探さなければならないからです。

 尹東柱の詩『道』から抄訳したが、私はこの詩の果てにたとえばーーそう、RMの『Still Life』を思う。

 尹東柱の詩の魅力は単なる抒情詩にとどまらないリアリズムとしての「わたし」であり、感情の先にある極めて写実的な思考表現にある。それが抗日運動へと繋がり、現実世界を変えようという動きにも繋がった。もちろん、それ故の悲劇もまた、ある。

リアリズムとしてのRM

 愛憎そして絶望、人に対してか、世に対してか、RMは愛の人だ。愛以上の何かを探すラッパーという現代の吟遊詩人だ。憎しみは何も生まない。

 しかし愛と憎しみは二律背反の関係にある。リアリズムとしてのRMは『Still Life』にこの言葉を込める。

〈ただ今を生きて、前に進む〉

〈ただひたすらに堂々と、生きる〉

〈死ぬより生きたほうがマシと証明してやる〉

 尹東柱は27歳で拷問死だった。李箱もまた27歳で獄中にあり、釈放後に衰弱死した。金素月は32歳で服毒自殺ーー彼らが時代を憎んだか、人を憎んだか、国を憎んだか、敵を憎んだか、それはわからない。ラッパーならノトーリアス・B.I.G.も24歳、2パックも25歳で射殺された。

 みな伝説となり、その詩が、リリックが残った。

 RMも彼らと同じ苦しみを、それ以上の苦しみを経ているだろう、それでも彼の言葉通り愛は手放さない。そこに憎が内包されてしまう宿命があったとしても、RMは生きる。生きて証明する、それがRMだ。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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