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「Rosso Ancora」それはグッチの原点であり赤い深淵・・・私の思う羽生結弦の色「赤」

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

グッチの「赤」

 グッチの赤はイタリア語でロッソアンコーラ(Rosso Ancora)と呼ばれる。

 日本語では多く「深い赤」と訳されているが、私としてはそれでは足りない。

 「赤い深淵」とでも呼ぼうか。

 同じくイタリア出身の巨匠、ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア PART2』(邦題、ひどい)のDVD版のサブタイトル「紅い深淵」からの拝借だが、イタリア本国の原題は『Profondo Rosso』(深紅)なので悪くないだろう。ちなみに英語版は『Deep Red』。あかん、邦題並にあかん。

 19世紀、グッチ創業者のグッチオ・グッチは16歳でイタリアからイギリスのロンドンに渡り、ホテルのポーターとして就職した。そのホテルが五つ星ホテルで名高いザ サヴォイ(日本の表記ではサヴォイ・ホテルとも)。近代ホテル史の原点ともされるこの高級ホテルのエレベーター内は赤に彩られていた。

 それはグッチオ・グッチにとっても原点の「赤」だった。緑をまじえた配色「シェリーライン」がよく知られるが、赤はグッチ創業以来の色だ。

人類史における「赤」

 そのブランドアンバサダーを務める羽生結弦の「赤」といえばいわゆる「赤マグマ」と呼ばれる衣装が知られるだろう。他にも「破滅への使者」、「阿修羅ちゃん」、遡ればロッテのCMも「ガーナ」の色で真っ赤だった。「GLAMOROUS SKY」もNANAの衣装のオマージュなので上着(ナポレオンジャケット的な)もそうか。私の想いの中の赤とするなら完全な赤ではないが「火の鳥」もそうだ。好きすぎる、白もそうだが「赤い子」の羽生結弦も好きすぎる。

 人類史における「赤」という色は「血」を象徴する。

 太古、人が自分の生きている証と、死に対する畏怖とを初めて思い知ったのが「赤」という色だろう。世界中多くの宗教で赤は血を象徴する。キリスト教ならキリストの血であり、イスラム教ならジハードに流れる血である。

 しかし逆説的に赤は破邪退魔の色ともされる。聖職者の衣装や紋章に赤が使われる意味はそこにある。日本でも神社の鳥居は赤だ。血をもって魔を制す。

 さらに言えば聖母マリアは赤を纏う。赤は神の愛であると同時に当時の未婚女性が身につける服の色であり処女の象徴とされる。赤は愛と純潔の色、ということだ。

クジャは羽生結弦に憑依した

 人類は赤にこうした想いを抱いてきた。ヒンズー教なら赤は再生だ。破壊神シヴァの妻、パールヴァティーもまた赤を纏う。シヴァの肌は青、パールヴァティーの服は赤、破壊があれば再生がある、この調和が世界を創る。

 そう考えるならどうだろう、まず「破滅への使者」だろうか。

 原作ゲーム中のクジャもまた破壊と自身の再生(ネタバレになるので措く)であった。怒りと衝動ゆえの苦悩、あくまでアイスストーリー上の話とはいえクジャは羽生結弦に憑依した。赤は血であった。それも他者の血ばかりでなく、そう、自身の血も。

 赤なら「阿修羅ちゃん」の赤もまた大好物だ。シャツの赤だが阿修羅を象徴する赤でもある。阿修羅は赤くなければならず、赤くない古い阿修羅像(興福寺所蔵など)は顔料が落ちただけである。

 元になったインドのアスラ神は正義の神だ。しかし宿敵であるインドラ神(日本では帝釈天)に最愛の娘を奪われ、取り戻すために何度も闘うが負け続ける。「修羅場」という言葉はそのひたすら闘うアスラ神=阿修羅の喩えだが、この正義もまた闇落ちすれば災いとなることを指す。阿修羅の赤はまさに冒頭の「赤い深淵」と呼ぶにふさわしい赤である。

羽生結弦のエッジは正義のエッジ

 私の想いとするなら羽生結弦もまた正義の闘争神、阿修羅そのものであった。それがAdoのポップな曲と、寺田てらの愛らしいキャラクターで「阿修羅ちゃん」になってしまうのも微笑ましいことこの上ないが、やはり氷上芸術としての表現、その革新を象徴する赤でもあったように思う。

 それも伝統的な正しいエッジを以て、そう、羽生結弦のエッジは正義のエッジでもある。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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