「400字1000円」の衝撃がSNSで拡散──吉田豪が語る“ユリイカ原稿料問題” AI時代におけるライターの勝ち筋とは

文芸誌『ユリイカ』の原稿料が「400字で1000円(税込)」だという投稿がSNSで拡散され、局地的な盛り上がりを見せた。「これでどうやって食えるのか」というライターの嘆きは多くの共感を呼び、出版業界の厳しい現実をあらためて浮き彫りにしたのである。この「ユリイカ原稿料問題」をどう捉えるべきか。長年メディアの現場に身を置いてきた吉田豪氏が、自身の経験を交えながら語る。
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『ユリイカ』はもともと売れている雑誌じゃない
最近「ユリイカの原稿料安すぎ問題」がTwitter(現:X)で話題になってましたね。とあるベテランライターが「400字で1000円」と具体的な額を書いていて、さらに2023年の時点では「税別」だったのが、2024年には「税込」になったと。源泉徴収や消費税の処理を考えたら実際の手取りはいくらになるんだろう、っていう内容で、そこから「ライターは食えない」という話が同業を中心に盛り上がっていました。
ただ、ボクの感覚からすると、それは「まあ、そうだよね」で終わる話なんですよ。だって『ユリイカ』なんて、もともと売れている雑誌じゃないんですから(笑)。『現代思想』とかを出している出版社のマニアに向けた少部数の雑誌が出版不況な世の中でどうにか生き延びているのは、原稿料が安い前提で書きたい人が書いているからなんですよ。ちゃんと売れていたり広告がバンバン入っていたりする雑誌が原稿料をピンハネしてるとか、編集者が高給取りなのにライターには還元されていないとか、構造上の問題があるんだったら文句も言うべきですけど、これは単なる需要と供給の話なんですよ。90年代の音楽誌とか映画誌が、広告がバンバン入っていて部数もそれなりに出ていたはずなのに原稿料が安かったことはボクもずっと疑問視しているんですけど、『ユリイカ』はそういうのじゃないですからね。
しかもこの業界は未払いすら珍しくないので、「お金が出るだけマシ」という発想すらあったりする。実際、原稿料が安くてもページ数が稼げて単行本にもしやすい文芸誌みたいな世界ならまだ成立するけど、それ以外だといまはライターが食べていくのは本当に厳しい。最近パラパラとボクも連載している『実話BUNKAタブー』を見ていたら、コアマガジンの自社広告がけっこう怖いことになっていたんですよ。これまでだったら『まんが実録悪い人』みたいなコンビニ置きの邪悪なムックの広告が入ってたのに、『メルカリ超入門ガイド』みたいな広告ばかりになったんですよね。あからさまに何かの方向転換というか、悪意だけでは食べていけない時代になってきたんだなと実感しました。他にも『75歳からの運転免許認知機能検査攻略術!』とか『大谷翔平にはなれないが考え方は真似できる-遊びも仕事もうまくいく大谷マインド100-』とか、いまも雑誌を買っている層がどういうものなのかがわかりますよね。情弱ビジネスだし「今さらメルカリ?」みたいな(笑)。ホント、そんな状況下で雑誌の連載をやらせてもらってるだけでもありがたいなと思う時代になっちゃいましたね。
稼げる仕事で生活を支えながら、好きなことをやるべき
ちなみにボク自身も安い原稿料の現場をたくさん経験してきました。90年代半ば、編集プロダクション時代に担当していた『女子プロレスグランプリ』(ソニーマガジンズ)も原稿料は激安でしたね。音楽系の版元だから音楽誌基準みたいで、たしか400字で2500円とかだったかな。ユリイカよりは高いけど、頼まれる原稿が800字ぐらいのインタビューとかなんですよ。つまり、下調べして取材に行ってテープ起こしして原稿を書いても5,000円にしかならない。だから「会社の仕事」としては認められなくて、上司から「取材に行くのは平日でいいけど原稿は土日にやれ」って言われて、休日出勤で原稿を書くしかなかったんです。
ただ、それでもボクは喜んで続けてました。なぜなら好きなプロレスに絡めるし、プロレスラーに話を聞けるし、横のつながりもできるし、自分にとってメリットしかないと思ったからです。だから結局はシンプルな話で、メリット・デメリットを天秤にかけて、やる意味があるならやればいい。それだけなんですよね。以前ある俳優さんも言っていたんですけど、「お金にはならないけれど攻めた企画の芸術作品と、そこそこ稼げるけれど評価されにくいテレビドラマ、バランスを取ってどっちもやりたい」と。まさにそれと同じで、稼げる仕事で生活を支えながら好きなことをやる。そのバランスが大事なんです。