転職前に一番大事な「自分軸」を見つけるためのステップ…心の奥に眠る「好き」との出会い方

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 日本でも「転職」は珍しくなくなったが、「人材定着マイスター」として多くの転職希望者の転職を支えてきた川野智己氏は、「転職に必要な資質=『転職適性』が欠けている人が多い」と話す。後悔しない転職のための、最も重要な「自分軸」の定め方について、川野氏が語る。全3回中の1回目。

※本稿は川野智己著『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』(東洋経済新報社)から抜粋・再構成したものです。

第2回:その求人票、正しく読めてますか?入社後に「こんなはずじゃなかった」と思わないために必要な知識

第3回:なぜあなたは「書類選考」で落とされてしまうのか……時に必要な「自信」と「ハッタリ」

目次

自分軸は自分の人生を歩むためのコンパス

 転職で後悔しないためには、転職先を決めるにあたり、誰の意見でもない、あなた自身の「自分軸」を明確に定める必要があります。この自分軸こそが、無数の選択肢の中から本当に進むべき道を示してくれる、信頼できるコンパスとなるのです。

 では、どうすれば「自分軸」を見つけられるのでしょうか。あなたのキャリアを考える上で、以下の3つの要素から、今後の進むべき道筋を明らかにしていきましょう。

①Want(心からやりたいこと、好きなこと)
 あなたが情熱を注げること、時間を忘れて没頭できることは何ですか?

②Can(今のあなたにできること、得意なこと)
 これまでの経験や学びを通じて培ってきたスキルや能力、実績は何ですか?

③Must(社会や他者から求められること、そして自分が譲れない価値観・こだわり)
 あなたが仕事を通じて社会に貢献したいこと、あるいは仕事をする上で「これだけは譲れない」と考える信念や価値観は何ですか?

 この3つの要素(Want・Can・Must)が重なり合う領域こそが、あなたが本当に目指すべき仕事、つまりあなたの「適職」と言えるでしょう。

「できること」は「してきたこと」ではない

 この自分軸を明確にすることは、「内面の整理不足タイプ」の方々、特に「自分をわかりやすく表現できない人」や「転職すべきかどうか決断できない人」にとって、現状を打破するための非常に重要なプロセスです。また、「自己評価がズレているタイプ」の「自分の中の『凄い』が見つけられていない人」にとっては、自身の「Can」を客観的に把握する良い機会となります。

 ここで言う「Can(できること)」とは、過去に経験した仕事内容そのものを指しているのではありません。その仕事を通じて培ってきた汎用的な能力や姿勢を指します。これまでの仕事を細かく分解し、要素に分けてみることで、客観的に洗い出すことができます。

 たとえば、厚生労働省が提供している職業情報提供サイト「jobtag(ジョブタグ)」などを活用すると、自分の職務経験からどのようなスキルや知識が一般的に身につくのかを把握するのに役立ちます。もちろん、そこにあなた独自の経験や取り組みがあれば、それも付け加えていきましょう。

 このように、これまでの仕事を具体的な能力レベルまで掘り下げてみることで、一見まったく異なる分野の仕事であっても、同じような能力が求められるのであれば、そこで活躍できる可能性があると判断できるようになります。

 また、「Must(志・こだわり)」は、「こうでなければならない」という強い決意を伴う、仕事をする上でのあなたの価値観、信念、そして譲れないポイントを指します。

 たとえば「逐一指示命令を受けたり、同じことの繰り返し作業は避けたい。自分で考えて主体的に仕事を進めていきたい」という強い信念があれば、それはここで言う「志・こだわり」です。

 そのような方は、工場の生産工程管理やルーティンワークの多い経理事務よりも、個人の裁量が大きいコンサルタントのような仕事のほうが向いているかもしれません。

心の奥に眠る「好き」を掘り起こす

 この「Want・Can・Must」の中でも、私が皆さんに最も意識して掘り起こしていただきたいのが、あなたの中に深く眠り、忘れかけているかもしれない「Want(心からやりたいこと、好きなこと)」です。

 Appleの共同創業者の1人であるスティーブ・ジョブズ氏は、「仕事は人生の大部分を占める。満足する唯一の方法は、自分の行っていることが素晴らしい仕事だと思えることだ。そして素晴らしい仕事をする唯一の方法は、自分の好きなことをすることだ」と語りました。

 また、ソニーの創業者である井深大氏も「人生でいちばんの幸福は、仕事と趣味が一致することだ」と言っています。

 私たちは、大人になる過程で、知らず知らずのうちに多くの夢を心の奥にしまい込んできたのかもしれません。その大きなきっかけの1つが、新卒での就職活動だったのではないでしょうか。

 漠然と抱いていた夢や憧れが、限られた情報の中で、ウェブサイトに掲載されている求人企業への就職という、非常に具体的な選択肢へと形を変えてしまった経験を持つ方も少なくないでしょう。

 そして就職後も、会社の方針に従って異動を受け入れ、どちらかと言えば受動的にキャリアを積んできた結果、「振り返ってみれば、自分にはこれといった専門性が身についていないのではないか」と漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、今こそ、千載一遇のリベンジのチャンスが訪れているのです。

 空前の人手不足と言われる現在の転職市場は、これまで「自分には無理だ」と諦めていた選択肢が、大きく開かれた門としてあなたの目の前に広がっている状況とも言えます。

 たとえ未経験の分野であっても、あなたのこれまでの仕事で培った能力が高く評価され、憧れていた職業に就ける可能性が、以前よりも格段に高まっているのです。

 この好機を、みすみす見逃す手はありません。

 今こそ、心の奥底にしまい込んでいた「好き」という感情をもう一度ていねいに拾い集め、これから先の仕事に反映させてみませんか。

「好き」を増やせば満足度も高まる

「Want(好き)」×「Can(できる)」×「Must(志・こだわり)」という方程式において、「好き」の値を大きくすればするほど、導き出される解、つまり「理想の仕事」の満足度も大きくなり、3つの輪が重なる領域も大きくなります。

 この重なり合う部分こそが、あなたの転職活動における確固たる「自分軸」となるのです。

 かの孔子も「好きなことを仕事にすれば、一生働かなくてすむ」と言いました。

 あなたの「好き」は、心の引き出しの奥深くに、大切にしまい込まれているだけかもしれません。

 忘却の彼方からそれを引き戻し、ふたたび陽の光を当てるときがきたのです。自分自身にじっくりと問いかけることで、心の底から湧き上がる「好き」を見つけ出し、諦めていた夢の実現に向けて一歩を踏み出しましょう。

 問いかける質問例は、図表2をご覧ください。

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この記事の著者
川野智己

転職定着マイスター/組織づくりLABO代表 1962年生まれ。(株)伊藤忠アカデミーの教育マネジャーを経て、大手人材紹介会社の教育研修部長として従事。斡旋した転職者の多くが早々に離職し、労働市場での価値を自ら下げている人(ジョブホッパー)が多く生まれている惨状に強い問題意識を持つ。そこで、転職定着・離職防止に取り組み、8年間にわたり転職予備軍に対して「転職先での働き方・人間関係構築のノウハウ」を伝え、転職後のミスマッチ退職率を1年間で44.0%から9.1%にまで劇的に引き下げた。 その経験を活かし、2006年に組織づくりLABOを設立、代表に就任。日本初の転職定着マイスターとして、転職者および予備軍のべ約2000人に対して個別カウンセリングやセミナーを行っている。併せて、採用側の企業が取り組むべきリテンション(離職防止)策を普及させるべく、全国での講演登壇や主要経済誌への執筆、TV出演などの幅広い活動を行っており、労使両面からの「職場と働き手の最適解」を発信している。

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