その求人票、正しく読めてますか?入社後に「こんなはずじゃなかった」と思わないために必要な知識

就職活動中、「この企業だ!」と運命を感じた企業であっても、実際に入社してみると、「思っていたのと違った……」となることは決して珍しくない。「人材定着マイスター」として多くの転職希望者の転職を支えてきた川野智己氏は、「事前に基本的な知識を身に着けておくことが必要」だと話す。「求人票」の見方について、川野氏が語る。全3回中の2回目。
※本稿は川野智己著『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』(東洋経済新報社)から抜粋・再構成したものです。
第1回:転職前に一番大事な「自分軸」を見つけるためのステップ…心の奥に眠る「好き」との出会い方
第3回:なぜあなたは「書類選考」で落とされてしまうのか……時に必要な「自信」と「ハッタリ」
目次
求人票の“裏側”を見抜くには
転職活動において、自分自身を深く理解し、揺るぎない「自分軸」を確立したら、次のステップは、「自分軸」という羅針盤を手に、数ある求人情報や企業情報の中から、あなたにとって本当に価値のある「宝の地図」を見つけ出すことです。
そのためには、情報の表面だけをなぞるのではなく、その裏に隠された意味や実態までも見抜く「眼力」が不可欠となります。
まずは、求人票の言葉の解釈を誤り、キャリアの遠回りをしてしまった伊東涼子さん(仮名:33歳)の事例から見ていきましょう。
「理想の職場に出会えた」と意気揚々も……
大手外食チェーンに勤務する伊東さんは、フランチャイズ店舗に対するスーパーバイザーとして、経営指導を担当していました。しかし、その実態は本部が作成したマニュアルに沿って経営指標の数値を伝えるだけの仕事で、個々の店舗の特性を活かした提案ができる環境ではありませんでした。
「もっと深く経営に関わり、店舗の売上向上に貢献したい」
向上心の高い伊東さんは、中小企業診断士の資格取得を目指して財務やマーケティングの勉強を始めるほど、現在の仕事内容に物足りなさを感じていました。
そんなある日、ある求人広告が彼女の目に留まります。それは、外食店舗のプロモーションをウェブ上で展開する広告会社の求人でした。地域の個性的な店舗を紹介し、売上向上に貢献するという事業内容に伊東さんは惹かれました。
特に、仕事内容欄に記載されていた「ソリューション営業:店舗の経営力向上のための提案をお任せします」という一文に、彼女の心は躍りました。
「これだ! 私がやりたかった経営指導ができる!」
これまで勉強してきたマーケティング知識を活かし、個々の店舗の経営に深く貢献できる仕事に違いない。そう確信した伊東さんはさっそく応募し、面接の場でも「個店の経営に深く関与し、課題解決に貢献したい」という熱い思いを語りました。その熱意が評価され、見事内定を勝ち取ることができました。
後悔、退職……「身勝手な解釈」の末路
しかし、入社して初めて、自分のイメージしていた仕事内容と現実が大きくかけ離れていることに気づかされます。任されたのは、実質的には単なる広告枠の営業だったのです。
しかも、厳しいノルマに追われ、時には「ライバル店はうちの広告を出していますよ。(うちから)広告を出さないと、おたくは不利になりますがいいのですか?」と、半ば脅しに近いような営業トークをせざるを得ない状況もありました。
これでは、店舗の経営指導どころか、単なる押し売りにすぎないではないか─伊東さんは愕然としました。
求人広告に記載されていた「ソリューション」という言葉には、彼女が期待したような深い意味はなく、上司からは「うちの会社の広告を買ってもらうこと自体が、クライアントの経営改善につながるという意味だよ」と説明される始末。
「採用面接の際に、私が『店舗の経営に深く関与したい』と熱く語った時点で、面接官が『うちの会社では、そこまで踏み込んだ活動は期待していない』とはっきり言ってくれていれば……」と、伊東さんは悔しい思いでいっぱいになりました。
後で聞くところによると、その会社の採用担当者自身も採用人数のノルマに追われており、応募者の意向と実際の仕事内容との間にミスマッチがあることを認識しつつも、入社させてしまうケースがあったというのです。
「求人票に書かれている言葉の表面だけを見て、勝手な解釈をせずに、もっとしっかりと仕事内容の確認をすれば良かった……」
いまさらながら後悔の念に駆られた伊東さん。意に沿わない押し売りのような営業活動と厳しいノルマに精神的に追い詰められ、けっきょく退職。今は、新たな就職先を探すため、ふたたび転職活動を始めています。
「週休2日制」に騙される人は要注意
伊東さんの事例、あなたはどう感じましたか?
職業安定法によって、求人広告に虚偽の内容を記載することは禁じられています。しかし、仕事内容について詳細に書かれていなかったり、業界特有の言葉遣いがされていたりすることで、求人側と求職者の間で理解に齟齬が生じるケースは決して少なくありません。
たとえば、求人広告で「週休2日制」という記載を見たとき、皆さんはどのように理解されるでしょうか。「平日は勤務で、毎週土曜日と日曜日は必ず休みを満喫できる」というイメージを持たれるかもしれません。
しかし、それは「完全週休2日制」の場合であり、「週休2日制」とは、「年間を通じて1カ月の間に、2日休みの週が少なくとも1回あり、それ以外の週は1日以上の休みがある」という意味なのです。つまり、「完全週休2日制」と比較して、毎月の休日が3~4日ほど少ない可能性があるということです。
このように、求人広告独特の言葉遣いや表現を誤って解釈してしまうことのないように、事前に基本的な知識を身につけておくことが大切です。不明な点があれば、応募前や面接の段階で必ず確認するようにしましょう。
その業界はあなたの市場価値を下げていないか
陸上競技・十種競技の元日本チャンピオンであり、現在はタレントとしても活躍されている武井壮さんをご存じでしょうか。彼は講演活動の中で、「その人の価値は、その人を求めている人の数によって決まる」という、非常に示唆に富んだ話をされています。
ご自身が情熱を注いできた陸上競技は、世界選手権であってもスタジアムを満員にすることが難しい現状を挙げ、観客動員の多い野球やサッカーとの市場価値の違いに言及し、「陸上では食べていけないという現実に、もっと早く気づくべきだった」と語っています。
もちろん、これは世の中の価値がお金だけであるという意味ではなく、あくまで現実的な金銭的価値や市場性についてのお話ですが、業界の将来性を見極める上で非常に興味深い視点です。
斜陽産業と呼ばれる業界に身を置き続けることは、あなた自身の市場価値を徐々に下げてしまうことにつながりかねません。
たとえば、EC(電子商取引)が主流となった現在の小売業界において、「対面販売の経験しかない人材」を積極的に求める求人は、残念ながら減少傾向にあります。年齢を重ねるほど、その傾向は顕著になり、気づいたときには転職の選択肢がほとんど残されていない、という事態も起こり得るのです。
また、これから転職しようとする際に、将来性の乏しい業界の企業を選ぶことは、まるで沈みかかった「泥船」に自ら乗り込むようなものです。
多くの人が気にする給与額は、個々の企業の規模や業績だけでなく、その企業が属する業界や、その業界内での職種によって大きく左右されます。そもそも、業界全体の生産性が低ければ、個々の企業の努力だけでは賃金を大幅に上げることは難しいのです。たとえば、逼迫する介護保険制度を主な収入源としている介護業界は、その典型的な例と言えるかもしれません。
サービス業の事務職、調理師、ITエンジニアなど、職種ごとの平均年収を比較してみると、そのベースが業界によって大きく異なることがわかります。これは、仕事そのものに貴賤があるわけではなく、各業界の生産性の違いが賃金に反映されている結果だと言えるのです。
だからこそ、業界研究は絶対に必要なのです。
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