サムソン高橋「2025年にもなって同性愛はまだ日本でオールドスクールのタブーであり続けている」「日本でも世界でも、かつての戦前のような雰囲気になってしまうのではないか」

トランプ政権成立以降、「多様性を認めよう」という主張に何かと逆風が起きている世の中だ。ゲイライターのサムソン高橋氏は「日本でも世界でも、かつての戦前のような雰囲気になってしまうのではないか」とゲイカルチャーだけでなく、世界の将来を危惧する。LQBTQ当事者として、2025年はどんな年に見えたのか。そして2026年以降、どんな世界になっていくのか。同氏が読み解くーー。
目次
ゲイと言っても千差万別
ひさしぶりにみんかぶから原稿の依頼を受けた。年末年始恒例、各業界の2025年のまとめと2026年への展望というお題である。もちろん、ゲイライターという名の無職である私にはゲイ業界について語ってほしいとのご依頼だ。
何度か言ってるが、ゲイと言っても千差万別である。東京では年に一度プライドパレードがありLGBTQどもが仲良く盛り上がっているが、逆に言うと普段全く関わり合いがないからせめて年に一度くらいは仲良いフリでもしましょうね、ということだ。
ゲイの中では若専・フケ専・野郎専・デブ専・前髪専(かつてジャニ系と呼ばれていた若者は現在前髪系と呼ばれている。必要以上に短髪が多いゲイ特有の呼称)・オケ専(棺桶に片足突っ込んでる年齢を好むハードコアなフケ専。ちなみにハードコアなデブ専は100kg=三桁からミケ専と呼ばれる)という具合に業界は細分化されて、二丁目の前髪系の若者と浅草のオケ専のおじいちゃんの間には決して交流は生まれない。介護の職場なら別だが。
そもそも令和の普通の若者たちを見ればわかるように、同世代ですら共通言語は生まれにくい。
さらに言えば、私のゲイ活動とは場末のハッテン場の汚泥でイトミミズのように蠢く程度であり、「今、二丁目で人気のディーバは?」みたいな質問にも「…マドンナとか?」と蚊の鳴く返答しかできない。これは40年古い。
前置きを長々書いたが、つまり「そんなデカいジャンルを無力なライターがざっくりとまとめられねえよ」という言い訳である。ごめんなさい。
それでもとりあえず思い出すものからつらつらあげてみよう。すべては小銭欲しさのためである。
あの有名芸能人が銭湯で起こした不祥事でざわついた2025
2025年のゲイシーン、というか一般社会において同性愛に関するホットな話題といえば、やはり複数の有名芸能人が起こした不祥事ではないだろうか。
まずは3月、歌手の中孝介氏が都内の銭湯にて逮捕された(後に不起訴)。容疑は強制わいせつ。いわゆるハッテン行為、だった可能性がある。ゲイの世界では基本的に暖かくなる≒心がウキウキする≒脱ぎたがる≒ハッテンしたがるという図式ができており、これも梅や桜の開花やウグイスの初鳴きとともに春の訪れを告げる季節のニュースのひとつと言っていいだろう。
強制わいせつと聞いて、ノンケの皆さんは「銭湯でレイプ!? ホモって怖い!」と短絡的に思われたかもしれない。ホモを代表してご心配をおかけしたことを心よりお詫びするが、それは全く違うのである。
他誌の連載でも同じことを書いたが、ここでもノンケの皆さんにゲイの真実を知ってもらいたいという老婆心、そしてできるだけ楽に文字数を稼ぎたいという一心で繰り返したい。
以下は単なる私の妄想である。ハッテンホモとしては目の前にありありと光景が浮かぶのである。
銭湯の休憩室で、湯上がりに若者がついうたた寝をしてしまった。健康な若者とうたた寝。多くの男性諸君には身に覚えがあると思うが、この組み合わせで誘発されるのは、意図していない勃起である。
他に人気のない休憩室にふたりきりで相手はフル勃起。これは分別が揺らぐというか、「ひょっとして俺を誘っているのかな?」という邪な考えがもたげても不思議ではない。思わずそっと触れてしまったのだろう。それでも相手に反応がなかったとすれば、お口でパックンチョしても仕方ない。いや、仕方なくはないか。
そこで目を覚ました若者が驚き、「何してんだてめえ!」という流れである(以上、繰り返しますがすべては私の想像です)。他人事ながら背筋が凍る思いだ。
もちろん一般人もいるところでハッテンしてしまうゲイが悪い。「専用のそういったところに行けばいいじゃないか」というご意見もごもっともである。しかし、同性愛者は、古くからこういう方法でしか相手を見つけることが叶わなかった哀しい人種なのである。ハッテン行為はゲイのDNAに刻み込まれた運命(さだめ)なのだ。
何よりも、そういう「専用のハッテン場」も現代においては減少傾向なのである。これは後ほど触れよう。
中孝介氏は事件以降表立っては活躍していない。当時発掘された裏アカで語られていた事実が本当なら、歌手と並行して仕事をしていた配達員として現在は地道に暮らしていらっしゃるのだろうか。それも素敵だと思うが、今こそ彼が歌う代表曲『サンサーラ』を聴いてみたい…その哀愁に満ちた歌声は、以前よりも心に染みるはずだ。
新宿二丁目の雑居ビル前で下半身露出…あの有名アイドルはなぜそんなことをしたのか
中孝介氏が銭湯を賑わせた半年後、再び有名芸能人が世間を騒がせた。草間リチャード敬太氏である。
当時Aぇ!groupのメンバーでありSTARTOエンターテイメント所属。ということは元ジャニーズであり、売り出し中の現役アイドルだ。汚泥のイトミミズホモとしてはあんまり知らなかったわけだが。
彼がやらかしたのは同じく草の付くかつての事務所先輩と同じ行為。街なかで下半身露出をしたとして逮捕・書類送検されたのだ(ハッテン行為の中孝介氏よりも重罪。解せない)。ただ都心の公園ででんぐり返しをしたおおらかで開放的な先輩とは違い、草間リチャード敬太氏(以下めんどくさいのでリチャ)は新宿二丁目の雑居ビル前という致命的な場所だった。
現役アイドルが下半身露出もなかなかだが、その場所が二丁目なのはさらになかなかである。結果、リチャはグループを脱退し、その際に一年前から心の病を抱えていて酒量も増えていたという事実も伝えられた。
この経緯を聞くとふと思い出すのが2018年に女子高生への強制わいせつ容疑で書類送検された山口達也メンバー。それにしては同じ書類送検ではあるが、比較したら罪の重大さは比べものにならない気がする。リチャが犯した罪は、誰にも迷惑をかけてはいない。むしろ、現場ではラッキーと思った人がいたかもしれない。
色々と不可解な事件であった。ハメられたのでは、という推測もあった。
現場となった雑居ビルは、有名なゲイショップやハッテン場、そして老舗ゲイバーも入っている二丁目を代表するランドマークであった。おそらくリチャが泥酔したと思われるそのゲイバーは、20世紀は私のような汚泥イトミミズブスは足を踏み入れにくい野郎系を代表するバーだったが、最近はノンケや女性も気軽に入店できて人気を集めている観光バー。つまり、きわめて特殊なケースではあるが、二丁目で下半身露出したからとはいって、ゲイであると確定したわけではないのである。ただストレスが溜まっていたノンケが脱いだ可能性も微粒子レベルで存在する。
だが、ゲイを含む世間はこの報道を勝手にアウティング(ゲイである事実を本人の了解なく広める行為)ととらえ、そのこと自体に憤っている人もいた。二丁目で下半身露出しただけで、ゲイと思い込むほうがいささか暴力的ではないだろうか。
仮にリチャをゲイとしよう。多くの私たちゲイから見ても、彼がゲイだとは誰もほとんど見破ることができなかった。そもそも元ジャニーズでゲイ的なタレントはほとんどいなかった。悪名高きジャニー喜多川は生粋のノンケ好きで、それっぽい子は採用しなかったからだ。
もし彼が実際にゲイで、泥酔し下半身露出するほどのストレスを抱えていたとしたら、その事実を完璧に隠さなければいけないというプレッシャーからだったのかもしれない。
釈放された彼の顔は、相当に悲痛な表情だった。ゲイであることが疑われるだけで、今後の芸能活動が苦難を極めると想像される辛さからだろう。今の日本では、槇◯敬之や平◯堅という丸出しかつアーティスト寄りの人たちですら表立っては公言できていないのだ。日本の芸能界においてのゲイ事情は、それを売りにする以外は黙して触れずという、実に旧態依然としたものなのだ。
リチャがゲイかどうかはあくまで不明だが、2025年にもなって同性愛はまだこの国ではオールドスクールのタブーであるということが明らかになってしまった。
そもそも、何度か書いているうちに「二丁目で下半身露出」のいったい何が悪いのか、という気分になってきた。二丁目といえばゲイ、マッチョ、ガチムチ、オネエ、女装、というふうに滑らかに続く単語はいろいろあるが、下半身露出もそれらに引けを取らないしっくりさ加減である。明け方の二丁目ならなおさらだ。陰部はともかく尻丸出しは日常茶飯事で、路上ファックで多少眉をひそめられるレベルだ。自分にも路上フェラ程度なら二丁目ではないが浅草と那覇で身に覚えがある。ごめんなさい。
ハメられたのでなかったとしたら、リチャ、君は単に運がとてつもなく無かっただけだ。強く生きてほしい。
2025年にゲイカルチャーが「後退」してしまった理由
2025年は、日本におけるゲイにとっては受難とは言わないまでも、後退を感じる年になった気がしている。