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「あのように吊るされたら…」俺は不吉な予感に震えた。検索すれば親分の名が出るボード、8のゾロ目。歌舞伎町「ヤ○ザマンション」の深淵。浄化された街の不気味な裏側

 今、「新宿・歌舞伎町」はここ50年でもっとも人であふれかえっている。その理由は、かつての無法地帯がなりを潜め、誰もが訪れる「安全な場所」へと陳腐化したと思われているからだ。だが、喧騒の裏側に目を向ければ、そこには今も狂騒と不条理が渦を巻いている――。ルポライター國友公司氏による連載「新宿歌舞伎町 東洋一の歓楽街裏ガイド」第1回。

目次

「ヤクザマンションに住んでほしい」

 2019年、とある写真週刊誌でスクープ記者をしていた私は、連日、芸能人の尾行と張り込みに明け暮れていた。わずか7年前のことであるが、現在と比べれば週刊誌記者に対する風当たりもそこまで強くはなく、コンプライアンス意識もはるかに薄かった。その職はたったの半年で辞めることにはなったが、どこかのインフルエンサーに吊るし上げられていたかもしれない。そんなギリギリの綱を渡ることも珍しくはなかった。

 当時は埼玉県の大宮に住んでいたので、週刊誌記者をしていれば終電で帰れないことは日常茶飯事だった。週刊誌記者の収入は歩合も合わせて月に40万円ほどだった。ただ、当然ボーナスもないので、日々タクシーで帰る余裕もない。都内に泊まるといえば決まって歌舞伎町のカプセルホテルであり、そこは身分証を持っているのかも定かではない――さらには足の裏から豚骨の臭いを漂わせている――中年男性の巣窟となっていた。

週刊誌記者時代、よく泊まっていた歌舞伎町の安宿

 そんな折、都内に新居を探していると、彩図社という出版社の編集長である草下シンヤ氏(現在は退社)から、こんな電話が入った。

「都内で家を探しているなら、歌舞伎町のヤクザマンションに住んで本を書いてほしい」

 通常、本の企画というのはいくつかの段階をクリアしてようやく通るものだ。だが、社員数人の零細出版社かつ編集長の一声で翌日には正式に企画が決まっていた。その報告も「じゃあ、よろしく」といった15秒足らずの電話で終わってしまった。

ヤクザマンションの契約手続き

 「ヤクザマンション」とは、歌舞伎町の住人たちが呼ぶ通称である。竣工は1980年。15階建てのSRC構造で総戸数は270戸。分譲オーナーの多くが投資目的の中国人だったため審査が緩く、歌舞伎町という立地も相まって、気づけば入居者は暴力団関係者ばかりになっていた…といういわくつきの物件だ。

新宿駅東南口にある雑居ビルの一室では、現実感のないままヤクザマンションの賃貸契約が進んでいた。

「このマンションはアクセスもいいし、家賃も低めなので人気なんですよ。すでに問い合わせが複数来ていますから、お客さんラッキーでしたね」

担当者の若い男はつくり笑いを浮かべながらそう言った。私としては取材のためにもこの物件の所感を彼の口から聞いておきたいところだったが、ついにはヤクザの「ヤ」の字も出ることはなかった。私の隣の席では、MCMのリュックを背負った若い女性が契約手続きをしていた。このときの私はまだ知る由もなかったが、新宿でこのリュックを背負っている女性はかなりの高確率で風俗嬢だと思っていい。

女性はこの日が契約日だというのに、必要書類をまるっと忘れてきたらしく、向かいに座る店長らしき元ラグビー部風の大柄な男に「お前、こんなこともできないならこの先何もできねえぞ。俺が手取り足取りやってあげなきゃ、君は何一つできないんだな」と、部活の居残り練習のように詰められていた。

外壁

 私が入居を決めた物件はどんな部屋だったかというと――

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この記事の著者
國友公司

1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。東南アジアでの「沈没生活」などを経て、7年間かけて大学を卒業し、フリーライターに。日本有数の日雇い労働者街での人々との交流を描いた著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)は社会派のルポルタージュとしては異例の累計7万部のヒットとなる。

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