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「出汁のないラーメン」に行列ができる街の正体…「月島もんじゃストリート」という人工テーマパークと資本主義に侵食されるスラムの魂

「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」

 書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第12回は、月島を歩く。

目次

「もんじゃストリート」という名の巨大な人工テーマパーク

 月島といえば、もんじゃ焼き。東京に残された数少ない下町エリア……。

 どちらも、間違いではないが、そのイメージはもう古い。なにしろ、月島も湾岸エリアの一角、隣接する勝どき・晴海と同じく大規模なタワマンがニョキニョキと生えている真っ最中なのだ。

 そもそも「月島はもんじゃ焼き」と聞いて、色々と想像を巡らせて出かけた人は驚くのではなかろうか。もんじゃ焼き屋がズラリと並ぶ「月島もんじゃストリート」を前に「なんか思っていたのとは違う」と考えるだろう。なにしろ、店の多くは老舗感などまったくない真新しい建物。そして、すでに完成したタワマンの1階部分に入居しているスタイルの店がめちゃくちゃ目立つ。2階建ての古い商店街の造りを残している建物のほうが珍しい。

タワマンの一部になった結果。観光地のはずなのに情緒という要素は皆無に

特に「どこが美味しい」とか教えるわけでもなく。なんの既得権益なのだろうか

 そして、有楽町線月島駅から来れば目に飛び込んでくる、観光案内所。このストリートが人工的につくられたテーマパークであることを教えてくれる。

 もともと、月島は造船所を中心とした工場と、その労働者たちが住まうスラム同然の街だったところ。その中で、もんじゃ焼きは、レバーフライと並ぶ労働者向けの下世話な食べ物として売られていたに過ぎない。だから最古を名乗る店や元祖を名乗る店が入り乱れ発祥も明らかではない。

 たしかなのは、もんじゃ焼きが地域の名物になったのは1980年代になってからのこと。この頃、もんじゃ焼きは子供のおやつから脱却し、大人が酒のつまみに楽しむスタイルが生まれていた。

伝統ではなく「生き残り」。激安スーパーが生んだ“もんじゃの街”

 そんな時代に事件が起きる。

 清澄通り沿いに激安スーパー「フジマート」がオープンしたのだ。客は一気にそちらへ流れ、現在、もんじゃストリート沿いの商店は軒並み客足が途絶えた。売上は右肩下がり。このままでは廃業だ。

フジマートの500円弁当に人々が行列する。これも月島の真実である

 追い詰められた商店主たちが目をつけたのが、数少ない繁盛店であるもんじゃ焼き屋だった。「ならば、うちも」と雑貨屋がもんじゃ屋に。文房具店がもんじゃ屋に。八百屋までもんじゃ屋に。次々と業態転換していった結果が、現在の「月島もんじゃストリート」である。つまり、伝統でもなんでもない。単なる生き残り戦略だ。

 信じられないほどに軽いし、ドライである。そんなドライな風潮ゆえに、この街の人々は下町情緒など求めていない。今、もんじゃストリート沿いではタワマン工事が進んでいる。観光客や外部の人間は、この光景を見て「また情緒がなくなる」と残念がるだろう。ところが、当の店主たちの反応はまったく逆である。地元民に話を聞くと例外なくこういうのだ。

「店が綺麗になる。工事中の仮店舗も家賃はいらない。だから、みんな大喜びでタワマンに賛成した」

こちらもタワマン建設工事が進行中。この区画が全部一緒なのが奇妙なんだよ

 下町情緒を惜しむのは、よそ者だけ。住んでいる当人たちは、さっさと快適な環境を選ぶ。それが月島の本音である。

情緒を惜しむのは“よそ者”だけ。地元民がタワマンを歓迎する理由

 たしかに、いま完成まもない58階建てのグランドシティタワー月島の周囲では、消防団の倉庫や、公衆トイレ、さらにガラス張りになった町内の神輿の展示を兼ねた保管庫まで整備されている。地域のほうがタワマンを建てるならと、相当な要求をデベロッパー側に呑ませたことが見て取れる。下町の人情とは人のよさばかりではないことを、月島は教えてくれるのだ。

地元のパワーでタワマン建設の代わりに立派な神輿保管庫を得ることには成功している

 さて、もんじゃ焼き屋だけは腐るほどある月島。人がひしめき合う土地の割に、それ以外の店はなかなか厳しい。まず、多くの飲食店があるにも関わらず、牛丼屋は皆無。勝どきは駅周辺に、なか卯、松屋、すき家と3店舗あるというのに月島はゼロ。立ち食い蕎麦屋も勝どきにあるのに、月島にはない(立ち飲み屋が日中だけ蕎麦屋をやっているが、これは除外)。でも、これ以外ならバラエティに富んでいる。

 むしろ、月島の飲食店の本領は、もんじゃ焼き屋よりも飲食店のバラエティといっても過言ではない。

 街中華だけでも複数店舗、カフェも昔ながらの純喫茶から、オシャレカフェやシーシャの店まで多種多様。居酒屋やエスニック系の店なども多種多様だ。これは、タワマンによる再開発が進んでいる一方で、開発から外れたエリアは昔ながらの長屋や狭小な建物群が多数残っているためである。勝どきの回でも記したが、建物も古く、陽当たりも悪く、住むには適さない空き家が次々と店舗に転換しているかっこうだ。

ランチタイム、にぎり一人前1200円。こんな破格の老舗があるのも月島のポイントだ

「出汁のないラーメン」に行列ができる、月島の異様な食事情

 ただし、ここで重要な注意点がある。

 月島では、店が多い=美味い店が多い、ではない。

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この記事の著者
昼間たかし

1975年岡山県岡山市生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。X(https://x.com/quadrumviro)

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