長州力は、なぜボロボロにならないのかーー船木誠勝が分析する「受身の技術」。そして棚橋弘至のルーツとなった“一本のビデオ”とは
「プロレスとは何なのか」。この問いに対し、現役選手でありながら誰よりも客観的に、かつ冷徹にその構造を語れる男がいる。船木誠勝ーー昭和の新日本プロレスからUWF、そして格闘技を経て現代プロレスに辿り着いた稀代の格闘家は、今、自らが身を置く世界をどう見ているのか。プロインタビュアー・吉田豪氏が、船木氏との対話から「虚構と現実」が交錯するプロレス界の深淵をひもといていく。
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現役選手でありながら「構造」を語れる、船木誠勝という特異点
年末年始は自分史上最大のイベントラッシュだったんですけど、先日のロフトプラスワンWESTでの赤井英和さん、船木誠勝さんとのトーク2デイズ(1月18、19日開催)がホント面白かったんですよ。二日目にやった船木さんの話からまず始めると、イベントのちょうど1週間前に試合で怪我をして(1月10日、GLEAT大阪大会。セミファイナルの伊藤貴則戦で、船木がハーフネルソンスープレックスを受けたまま動けなくなり、10カウントが数えられてKO負け。試合後も船木が後頭部を押さえたまま動けず病院に搬送された)病院送りになったばかりで、その映像をボクも確認したんですけど、相手の投げ方がちょっと危険で。
最初にその危なっかしいスープレックスで投げられた後から船木さんがずっと後頭部を押さえながら試合してたりで、昔の船木さんならキレて大変なことになってもおかしくなかったはずなのに、ちゃんとプロレスの枠内に収めて椅子攻撃とかした後、動けなくなって担架で運ばれた、と。だから、その話題から「プロレスとは何なのか」みたいな話ができると思っていたんですね。結果としては想像以上でした。
船木さんが特殊なのは、昭和の新日本プロレスからUWF、そこから黎明期の総合格闘技から引退〜復帰を経てからの総合の世界も現代のプロレスも全部経験しているおそらく唯一の現役選手なのに、自分がやってることを信じられないくらい客観的に分析できること。「船木さんが復帰したとき、プロレスが全然違う競技になってたってよく言ってるじゃないですか」ってボクが言ったら、船木さんが「…競技ではないんじゃないですかね?」って返してくれたことで、そこまで踏み込んだ話をしていいってことだと理解しました。ボクが普段、仲間内と話しているような「プロレスの構造」とか「団体によるリングの柔らかさの違い」みたいな話を当事者なのに普通に語り合えるレスラーなんて、他にいないんですよ。
「レスラーの妻はどこまで知っているのか」問題
だから、せっかくなのでボクがずっと気になっていることを聞いてみたりしました。たとえば「レスラーの奥さんは、どこまでプロレスの仕組みを理解しているのか?」。船木さんの奥さんは舞台女優をやっていた人なんですが、プロレスのことはあまりよくわかっていないから二人のYouTubeチャンネルがとにかくスリリングなんですよ。奥さんが「え、あの試合、八百長なの?」なんて話を平気で言い出して、それに対して船木さんが淡々と対応していく(笑)。プロレスラーの身内で「八百長」というフレーズを使う人も珍しければ、そこをカットすらしない船木さんもかなり珍しいタイプだと思います。
アントニオ猪木が最後まで秘密を守り抜いて死んでいったことが称賛されてたりもするんですけど、プロレスラーが家族や会社のスタッフに対しても秘密を守り抜いていた時代があったんですよね。プロレスを、いわゆるシュートファイトだと身内に信じさせることも仕事のうちだった、と。ボクは「あの選手は奥さんも事情を知ってそうだな」とか昔から勝手に推測していたんですけど、そういう意味で重要なのが高田延彦さんの妻・向井亜紀さんなんです。
高田さんがエースだったUWFインターナショナルは、第二次UWFと比べたらプロレスに原点回帰していると思われていたけれど、桜庭和志さんを筆頭に格闘技対応できる選手も多かったし、高田さんが「最強」をアピールしていたからこそ、それを信じるファンを集めていました。向井さんは、高田さんがやっていることをシュートファイトだと信じて、「Uインターは本物だから!」って感じで芸能界の仲間たちを会場に呼んでいました。だから、萩原聖人さんや草野仁さん、赤井英和さんなんかが常連になってたんですよね。腕っぷしの強さで幻想があった草野さんのみならず、ボクシングという競技の世界で実績を残した赤井さんまで「高田さんは本物や!」と言うまでになっていた。それだけの説得力がある試合をやっていたし、会場に集まるファンも本気で信じた結果、それだけの熱が生まれていたんですよね。
赤井英和と高田延彦による「カラオケボックス破壊」バトル
そうやって「高田延彦は世界一強い」とピュアに信じきった赤井さんと、高田さんの友情エピソードがまた最高なんですよ。