「浮気する金もないから妻とするしかない」「アンタそれレイプだから」コンプラ全盛に放つ剥き出しの本音。情けない夫と冷酷な妻の“実録”を描く足立紳作品に表現者として抱いた嫉妬
地上波からNetflix、さらにはAbema、U-NEXTまで――。コンテンツが乱立する今、人を真に熱狂させるのは「面白い」の先にある「ヤバい」番組だ。1000人以上の剥き出しの人生を記録し続けてきた『街録ch』ディレクター・三谷三四郎が、エッジの効いた一作を独自のバイアスで読み解く。
連載「今、ヤバい番組」第4回は、日本の多くの夫婦が抱えているだろうあの問題を生々しく描いた作品だ。
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セックスレスに直面する42歳、無収入の夫
今回取り上げるヤバい作品は、ドラマ『それでも、俺は妻としたい』(※現在Netflixなどのサブスクでも視聴可能)。脚本・監督を務める足立紳氏が、自身の妻や子供たちとのリアルな生活をモデルに作り上げた物語である。
無収入でヒモ同然の売れない脚本家・柳田豪太(42歳)と、コールセンターで働きながら家計を支える妻・チカ。この夫婦の「セックスレス」が大テーマとなっている。
度肝を抜かれたのは、第1話冒頭における主人公・豪太の心の声だ。
「浮気をするような金もなければ風俗に行くような金もない。だからセックスをしたければ妻とするしかないのだが、なぜか妻とすることが空よりも高いハードルになっている」
この剥き出しすぎて、情けなさすぎる嘘のない本音。コンプライアンス全盛の今の時代に、いくらフィクションとはいえ、こんなことを言っていいのか。誰が聞いても嬉しくないし、何より本人だって周囲に知られたくないであろう心情を、脚本家が自分をモデルにした主人公に吐露させている。そのクレイジーさと度胸に圧倒された。
僕もアラフォーで結婚しており妻がいる身だが、自分たち夫婦の性生活を描くことなど絶対に妻には許してもらえないだろうし、怖くてとてもできない(念のため言っておくが、現在うちの夫婦がドラマの柳田夫妻と同じ状況というわけではない)。
世の既婚男性を震え上がらせる、妻の拒絶
心の中では「こんなブヨブヨの身体、俺以外の誰も抱きたいと思わないくせに、セックスさせないなんて何様だ」「俺が脚本家として売れたら絶対に愛人を作って、そうなった時にはお前なんか抱いてやるもんか」などと毒づいている。
それなのに、いざ妻の前に出ると、なんとかセックスさせてもらおうと彼女の好きな晩飯を作ったり、子供の寝かしつけをしたり、猫撫で声で近づいたりする。そして案の定、「気持ち悪い、どけ」と一蹴される。その姿がどこまでも切なく、滑稽で面白い。
多少のデフォルメはあるにせよ、自分が夫からセックスを迫られて冷たい言葉で断ったり、時には罵倒したりする姿。あるいは、強引にプレイを試みる夫を「アンタそれレイプだから」という一言で制止し、完全に心を折りにいく姿。世間の多くの妻なら、こんなにも赤裸々でリアルすぎるやりとりをドラマ化することに絶対OKを出さないのではないか。それほどまでにリアリティのあるセリフや展開の連続で、セックスができない40代既婚・弱者男性の「辛すぎる現実」が丁寧に表現されている。
主人公の豪太が勇気を振り絞って「今晩セックスしませんか?」とLINEを送るも既読無視され、帰宅後に再度直談判して「今のあんたに魅力ない、愛情なんてない。別に、セックスしないと別れるって言うならそれでいい」と痛烈な言葉を投げつけられるシーンは、自分も一人の夫であるからこそ、見ていて気が気ではない。「いつか自分もこうなってしまうのではないか」と恐ろしくなる。