「弱いチーム」ほど可愛い?阪神タイガースがファンを幸せにする理由

「阪神ファンは良くも悪くも、明らかに他チームのファンとは違う」。そう話すのは、立教大学大学院客員教授で世代・トレンド評論家の牛窪恵氏だ。そして牛窪氏によると、そんな阪神ファンだからこそ「幸福感」を得やすいという。なぜ阪神ファンは幸福実感が強いのかを紐解く、全3回中の1回目。
※本稿は牛窪恵著『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』(集英社)から抜粋、再構成したものです。
第2回:なぜ阪神ファンはユニフォームを着続けるのか?アドラー理論にも通じる独特な「心の持ちよう」とは
第3回:阪神ファンに学べ!「熱狂」こそが人生の質を高める
目次
阪神ファンは幸福度トップ
まずは、こんなデータからご紹介しましょう。慶應義塾大学・鈴木秀男教授が2024年に発表した、「プロ野球のサービスに関する満足度調査」。この中で、阪神タイガースのファンは「チーム応援を通じた、生活満足度および幸福感」の、幸福感スコア(総合生活満足度部門)において、12球団中で堂々のトップ。
また、「そのチームを応援することで、自分はいまよりも幸せになっていく(と思うか?)」と「未来の幸せ」について聞いた設問でも、やはり1位に輝きました。
つまり、本人が応援によって「自分は幸せだ」や「幸せになれそうだ」と感じている阪神ファンの割合は、イメージだけでなく現実にも多いようです。
ではなぜ、彼らは幸福実感が強いのか。「そりゃ、優勝するほどチームが強いからでしょう」との声も聞こえてきそうですが……。じつは、行動経済学の観点から見ると、むしろ「逆」。すなわち、強者より「弱者や劣勢な人々」を応援する人のほうが幸福度が高まる可能性が高い、のをご存じですか?
半面、好成績でもなお、彼ら阪神ファンが高い幸福度を感じられるのはなぜか。その理由にこそ、「明日への幸せに繋がるヒント」が隠れているのです。
期待値が低いほど喜びも大きい
私牛窪が「阪神ファン」になったのは、2003年の優勝当日でした。一方で、私の夫は関西出身で、物心ついたころから筋金入りの阪神ファン。私がタイガースの勝敗に一喜一憂するのを見て、「君は本当の阪神ファンじゃない」「僕らは『暗黒時代』を知ってるから、多少負けたぐらいでは動じない」などと言います。
暗黒時代とは何か、阪神ファンの皆さんはご存じですよね。「バース・掛布(雅之)・岡田(彰布)」という夢の「クリーンナップ」(打順が三番、四番、五番の3人)を擁し、見事に日本一に輝いたのが、1985年。ここからしばらく、黄金期が続くと思われました。
ところが、その2年後(87年)以降は、主力選手の相次ぐケガやトラブル、引退も重なり、01年までの15シーズン中で14回が「Bクラス(リーグ6球団中の4位以下)」、さらにそのうち10回がリーグ最下位という、どん底のシーズンが続きました(暗黒時代)。
途中、90年代には、現・北海道日本ハムファイターズ監督である新庄剛志さんなど、スター選手も複数現れましたが、なかなかBクラスから這い上がれなかった。そんな暗黒時代がようやく終わりを告げたのが、まさに私がタイガースに魅せられた、03年だったのです。
夫のように暗黒時代を知る阪神ファンは、いまだに「阪神=弱くて当たり前」との開き直りと、「もしかしたら(優勝できる?)」との淡い期待が共存しているように見えます。その裏では、「期待しすぎると裏切られる」や「ダメな子ほど可愛いんだから(ダメでも仕方がない)」との予防線を張っているかのよう。
かくいう私も、同じような思いがどこかにあります。08年、シーズン中盤まで独走態勢だったタイガースが、ジャイアンツに「13ゲーム差」をひっくり返されて、まさかのセ・リーグ大逆転優勝を許した(メークレジェンド)という、苦い経験があるからです。
じつは、いざ勝ったときの喜びが大きいのは、対象を「ダメな子」と考えるなど事前の期待値が「低い」人であることが、研究でわかっています。それが報酬の予測誤差。「あらかじめ期待した報酬」と「実際に得られた報酬」の差分(誤差)が大きいほど、人は喜びを感じやすいという理論です(『ニューロテクノロジー』茨木拓也/技術評論社)。
人に期待しすぎないほうが健康でいられる?
たとえば、株式投資や宝くじ。初めから「きっと儲かる」と思って臨んだ人(A)と「損するかも」や「儲かればラッキー」と不安視、あるいは「淡い期待」程度で臨んだ人(B)では、利益が同じでも、通常はBの人たちのほうが喜びが大きい。なぜなら、予測の報酬と得られた報酬のギャップが大きいほうが、いわゆるサプライズの効果によって、快楽に繫がるドーパミンがより多く分泌されるからです。
「ダメな子ほど可愛い」の心理自体にも、よく言われる「母性」に近い感情のほか、こうしたサプライズ効果があるのでは、とも見られています。親は、本人には「期待しているよ」と言いつつ、内心では「テストに弱い子だから」など期待しすぎないで待つほうが、同じ100点を取ったときでも、喜びが大きいわけですね。
同じように皆さんも、株価や宝くじなど、「自分の力では、どうにもならないこと」については、暗黒時代や08年の大逆転V逸(優勝を逃す)を知る阪神ファンのように、頭のどこかで「損するかも」や「ダメかもしれない」と思っていたほうがいいと言えます。
ちなみに、健康の面からも、自分以外にはあまり期待しすぎないほうがいいかもしれません。順天堂大学の小林弘幸教授によれば、「他人に期待すると、人は健康を大きく乱すことがある」とのこと。中でも自律神経を乱すストレスの9割が、(自分の頑張りではどうにもできない)「他人への期待」から生まれるといいます(『「期待しない」健康法』小林弘幸/祥伝社新書)。
そうだとすれば、目指すべきは「他力本願」ではなく「自力本願」。自分には期待しても、他人にはなるべく期待しすぎない。そのほうが、予想外に好結果だったときの喜びが、きっと大きくなるはずです。
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