阪神ファンに学べ!「熱狂」こそが人生の質を高める

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 立教大学大学院客員教授で世代・トレンド評論家の牛窪恵氏は、「熱狂的なファンになることが幸福につながる」と話す。自身も熱狂的な阪神ファンである牛窪氏が語る、熱狂が幸せをもたらす仕組みとは。全3回中の3回目。

※本稿は牛窪恵著『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』(集英社)から抜粋、再構成したものです。

第1回:「弱いチーム」ほど可愛い?阪神タイガースがファンを幸せにする理由

第2回:なぜ阪神ファンはユニフォームを着続けるのか?アドラー理論にも通じる独特な「心の持ちよう」とは

目次

「あしたのジョー」実験とは

 私の阪神ファン歴は、まだ20数年程度。わが夫のように「暗黒時代」の前から阪神を推す方々から見れば、まだ「ひよっこ」でしょう。

 それでも、この10年ほどは「他チームファンの皆さんに、ぜひタイガースの素晴らしさを知ってもらいたい!」と強く感じるようになりました。古参の阪神ファンの方々は、私以上に「もっと若いファンを増やしたい」などとおっしゃいます。

 彼らの頭には、「自分の味方(阪神ファン)を増やしたい」との思いと共に、「タイガースの未来のために、ファンを増やして奉仕したい」といった貢献欲求もあるのでしょう。もちろん、私もその一人です。そんな方々にお薦めしたいのが、私があしたのジョー効果と呼ぶ、行動や概念。

 名古屋大学の研究員・三浦慎司氏らは、「応援」に関する認知科学の実験を行ないました。具体的には、大学生を対象にアニメ「あしたのジョー」の試合シーンに登場する4人のキャラクターを応援してもらい、その対象への好みや魅力度、強さを評価してもらうというものです。

 このとき、大学生たちは一人を除き、「あしたのジョー」のアニメを観たことはなかったといいます(世代の違いを感じますね)。

 ただ彼らは、試合シーンが映し出された大型モニターに向かって、大きな太鼓を叩くような前に振る動きと、後ろに振って肩を叩くような動きの2種類でペンライトを振るように指示されました。その際、「キャラクターを応援してくれ」とは告げず、「ペンライトの振り方のズレを見るための実験だ」と伝えてあったといいます。

 つまり、彼らは初見のアニメやキャラを観せられ、かつ「応援している」という自覚もなく、ただペンライトを振らされていたわけです。

「応援行動」だけで魅力が高まる?

 ところが、結果は意外なものでした。彼らは、自分がペンライトを前向きに振ったシーンで活躍していたキャラにだけ、実験後に「魅力度」を突出して高く評価していたのです(三浦ほか,(2020),「応援に伴う身体運動は映像作品の登場人物の魅力を高めるか」,日本認知科学会第37回大会,pp.532-537)。

 この研究からわかるのは、たとえ応援している自覚はなくても、自分がとった応援行動そのものが、その後の評価、すなわち「この対象は魅力的だ」との感情に繋がる可能性があるということ。

 これを応用すれば、たとえば皆さんが、スポーツ大会やプレゼンテーションコンテストに出場する際、仲間や職場の同僚に、小旗などを振りながら応援してもらうことで、「あの人は魅力的だ」と感じさせることができるかもしれない。仮にその仲間や同僚が、初めは皆さんに無関心でも、「応援する」という行動起点によって、ファンや味方を増やせる可能性が高まるわけです。

 ちなみに、私は甲子園に阪神戦を観に行く際、よく「野球はよくわからない」や「阪神の試合を観たことがない」といった女性を誘います。彼女たちは、最初はスタンドの熱狂にとまどいますが、たいていは勝ち負けにかかわらずメガホンを叩き、「めちゃめちゃ楽しかった!」と目を輝かせてくれます(私への社交辞令もあるでしょうが)。そして、「次、いつ誘ってくれますか?」など、うれしそうに聞いてくれる。

 私が陰で「やった!」と小さくガッツポーズしているのは、言うまでもありません。

熱狂が幸福感への近道

 次にご紹介したいのは、そんなファンの「熱狂」が、ビジネスにおいて、あるいはその人自身の幸福にとっても、いい影響を与えるという事実です。

 まずはビジネスにおいて。皆さんは近年、おもに販促や市場戦略で話題の、ファンベースマーケティングという言葉を聞いたことがありますか? 

 文字どおり、ファンをベース(基盤)にしたマーケティングで、そのキーワードこそが「熱狂」。「推し活」とも関係が深い概念です。

 日本は人口減少が著しいうえ、令和は情報過多な時代です。マスメディアに巨額を投じて「一見さん」(新規顧客)を狙うべく広告を出しても、なかなか広く情報は届かない。それなら、新規より従来の限られたファン(既存顧客)をベースにしよう、そうすれば彼らファンが熱心にリアルSNSで口コミし、どんどん新たな顧客を連れてきてくれるはずだ、との考えが含まれます。

 ただし、クールなファンはそこまで口コミしてくれませんよね。既存のファンにあと押ししてもらうには、彼らに日々共感や愛着を抱いてもらい、「ガチ」で「熱狂的」なファンへと育ってもらう必要があります。つまり、ビジネスの世界でリピーターや自然発生的な口コミを狙うには、「熱狂」がキーワードになるわけです。

 一方で、なぜ「熱狂」的であることが、その人自身の幸福に繋がるのでしょうか。それを示したのが、文教大学大学院の今井有里紗氏(2010年当時)らです。今井氏らは、ファン心理を「四つの因子(共感・熱狂・応援・自覚)」に分け、それぞれがどう影響し合い、どのような感情を生んでいるのかなどを研究・分析しました。

 その結果、ファンが企業やチームなどの対象に、強い共感や目標、尊敬の念などを抱くことで、1・阪神ファンに代表される「熱狂的なファン」が生まれる→2・その「熱狂」が彼らファンにとって、人生における推しの「幸福への重要度」を高める→3・そしてそのことが、ファン自身の幸福や「QOL(Quality of Life /生活の質)」を高める、との可能性が示されています(今井ほか,(2010),「ファン心理と心理的健康に関する検討」,「生活科学研究」第32号,pp.67-79)。

 ちなみに、QOLは「どれだけ人間らしく、自分らしく生活を送り、人生に幸福を見出しているか」の尺度のこと。

 もちろん応援の対象は、タイガースでなくてもいい。皆さんが好きなアパレルやクルマのブランド、あるいはスイーツショップやラーメン店、好きな都道府県でもいいのです。ただし、幸福に繋がる鍵は「熱狂」ですから、中途半端なファンでいるよりは、阪神ファンのように「熱狂的なファン」になるほうが、皆さんの生活の質や幸福感は高まるでしょう。

牛窪恵著『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』(集英社)

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この記事の著者
牛窪恵

世代・トレンド評論家/立教大学大学院客員教授/修士(MBA) マーケティング会社インフィニティを20 余年経営し、大手企業各社と数千人の消費者を取材。その知見から、財務省 財政制度等審議会専門委員や内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターなど、数多くの政府委員や研究会メンバーを歴任してきた。マーケティング関連の著書を通じて「おひとりさま」「草食系(男子)」「年の差婚」などの流行語を世に広める。阪神タイガースの大ファンで、毎年40試合前後を現地(球場)にて観戦。阪神ファンへの取材経験も多い。推しは森下翔太選手。

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