俺はもっとやれる…50代半数は転職で給料ダウン! 安定を捨てた大企業部長の転落ジャンプと中高年2大転職”瞬殺”理由

ジョブ型雇用が想像以上のスピードで日本経済に浸透したと感じるビジネスパースンは多いのではないだろうか。しかし、そうなるとメンバーシップ型で、組織ファーストで働いてきた高齢社員たちの行き場も少なくなってくる。
職場がホワイトでも「飛び出してみたい」と思ってしまう人間
入社して10年目にはもう仕事に飽きていたのに、まさか50代まで勤めることになろうとは――。そんな思いで仕事をしている人も多いだろう。職場がホワイトで、自分にとって居心地のよい場所であったとしても、いつかは飛び出してみたい、と思うのは自然のことだ。
筆者も、2つ前の職場で約10年弱、1つ前の職場で約10年ちょっとというタイミングで、その仕事をやめた。直接的なきっかけはそれぞれにあったものの、今になって振り返れば「飽き」というものがあったのではないかと思う。私にしてみれば、20年、30年と働いていた職場から、新たな刺激を求めて新天地へという気持ちに(実際に転職するかは別にして)ならないほうがおかしいのではと思う。
私が大手経済誌の編集長という立場を辞めて、どこの組織にも所属せずに「書く」という仕事を選択したとき、ひじょうに心配をしていただいた人の1人に、大手メーカーの部長さん(52歳)がいた。その人は、2年ほど前に、小さな手術のために6週間ほど休みをとった。その休暇は入社以来はじめて、本格的に仕事から離れた日々であったという。
「私は大学卒業以来、ずっと同じ企業に勤めてきた。素晴らしい会社で仕事も充実していたが、生活は不規則で、ストレスが溜まることも多かった。現在、私の会社の経営方針の一つに『健康経営』を掲げているが、私のようなワーカホリックは、健康診断の数値や休暇でなく、評価で報われるものと信じていた。ただ、胃にがんが見つかり、会社側の理解もあって、長めの休暇をとることになった。家族や友人と過ごす時間を増やすことができ、本当に楽しかった。リラックスして活力が湧いてきた」
“メーカー一筋”52歳のモーレツリーマン…決断の時
彼は休暇後、再び、職場に戻った。メンタルや体調を維持するため、夜は2次会には出ない、昼間の仕事を一生懸命やる、手を抜くことは手を抜く、ゴルフに行く、など以前とはまったく違った生活を始めた。すると、気力が充実し、モチベーションが高まっていることを発見したという。
「現場を離れることができたということもあるのか、不思議なことに、完璧を捨て、目の前にある出来事に集中した結果、どんどん仕事が楽になり、時間ができるようになった。すると、人生が今のままでいいのか考えるようになった。転職や起業をしたいという気持ちに傾いていった」
52歳。定年まであと8年というタイミングで、彼の関心の第一は、今のまま、心身の健康を保てるかということだった。業界独特の習慣が根強く残る業務にいた私が、他の会社へ果たして移れるのか。しかし、心身の消耗が激しく、業務量も多いかつての現場へ戻れと言われることが何より怖い――。
では今、彼は、転職を決断すべきなのだろうか。
ベゾスの言葉「私たちの人生は、選択の積み重ね」
アマゾンの創業者のジェフ・ベゾス氏が、2010年にプリンストン大学を卒業する学生に向けて行ったスピーチでは、「あなたが80歳になって、それまでのあなた自身の人生を静かに振り返った時、最も簡潔で鮮明に思い出せる人生の物語は、あなたが決断した選択の積み重ねの結果であることが分かるでしょう。結局のところ、私たちの人生は選択の積み重ねなのです。素晴らしい人生を作り上げてください」と述べている。とはいうものの、はっきり言って、転職は、人生最大にして、もっとも困難な挑戦だ。20代、30代ではそうは感じなかったとしても、40代、50代と年齢を重ねれば重ねるほど、その困難さは増す。他方、フルタイムで働く人は、一生のうちの8万時間を職場で過ごすことになる。目が覚めてから寝るまで、起きている時間の大半をどう過ごすかを日頃から考えておくべきだろう。もし、今のキャリアが間違ったものであったなら、人生の何万時間という時間を、興味もなく、情熱も感じないことに費やすことになる。
ここで、転職のリスクについて考えみよう。まずはタイミングだ。
フロリダ州フォートローダーデール市で「TOP3の心理学者」(Three Best Rated)に選ばれている臨床心理士、ジェイミー・ロング博士は、「人は ”燃え尽きた” と感じると、もう少し衝動的になりたい、早く決断したいと思うようになってしまうが、自分のこうした感情を意識できることができれば、意識的により良い行動を選ぶことができる」とワシントン・ポスト紙(2019年11月4日)の取材に答えている。
下調べをしっかりしなかった50代は基本転職で給料下がる
ハーバード・ビジネス・スクールが行った、日本を含む世界40カ国のヘッドハンターや人事部門の責任者1000人超へのインタビュー調査を見てみると「就職と転職の失敗は、およそ7割が『視野狭窄』によって引き起こされる。『視野狭窄』とは、物事の一面にしか注目できなくなり、その他の可能性をまったく考えられない状態を意味します。一例を挙げれば、調査の中で最も多かった失敗は『下調べをしっかりしなかった』というものでした」(東洋経済オンライン・2019年12月13日)という。
次のリスクは、年収減だ。転職で年収が下がるケースとして、リクルートエージェント『転職で年収が下がるケースとは? 年収ダウン転職の判断軸』(2022年8月2日)では、異業界・異職種へのキャリアチェンジ、大手企業から中小企業への転職、都市部から地方の企業に転職の3つを挙げている。
また、厚生労働省『令和2年転職者実態調査の概況』によれば、転職者における給料と労働時間の増減は以下の通りだ。
- 35〜39歳の、給料は、40.6%が増加、37.7%が減少。労働時間は、26.8%が増加、41.6%が減少
- 40〜44歳の、給料は、41.7%が増加、37.4%が減少。労働時間は、33.9%が増加、32.2%が減少
- 45〜49歳の、給料は、39.7%が増加、32.5%が減少。労働時間は、22.9%が増加、31.9%が減少
- 50〜54歳の、給料は、27.0%が増加、53.2%が減少。労働時間は、26.3%が増加、41.1%が減少
- 55〜59歳の、給料は、32.1%が増加、49.9%が減少。労働時間は、25.0%が増加、33.9%が減少
どうせ会社にしがみついたって給料は下がる
転職すると、労働時間はどの年代でも減少する傾向があるのに対して、給料面では50歳を境にして減っている。50歳以降の転職のジャンプは、転落ジャンプということだ。しかし、これも一面の見方であろう。「雇用の現状では、50歳を超えて年収がスムーズに上がる会社は少ない」(転職エージェント)のだ。留まっていても良いことがないなら、さっさとジャンプすべきだろう。
少なくとも、労働時間が総じて短くなることが予測されるのであり、転職は真剣に検討されて然るべきだろう。
雇用問題が専門のアレクサンドラ・ハーウィン弁護士(ブルームバーグで2021年に「40歳以下の40人」に選出される)は「転職しようと考えている人は、自分の仕事上のネットワークを調べ、そこで働いている人を知っているかどうかを確認し、自分が実現しようとしているワーク・ライフ・バランスをサポートしてくれる場所かどうかを下調べするのがよいでしょう。起業口コミサイトのランキングやレビューは必ずしも信頼できるものではありませんから、おおらかに見る必要があります」(前出のワシントン・ポスト紙)という。さきの引用が指摘したように、メンタルのおかしなときや、視野狭窄に陥ったようなシーンで転職を決断するというよりも、日頃からのリサーチが大事だということだろう。
私たちは皆、人生の中で決断を迫られる瞬間に直面している。ジャンプするか、しないか。そのジャンプは、かつて自分が最大限の情熱を傾けて取り組んだプロジェクトから離れることになる。ジャンプした先の職場でさらに重い責任を負うことになるかもしれない。怖いこともあるし、うまくいくとは限らない。しかし、そうやって新天地へと進む困難こそが、私たちをより強くさせるのではないだろうか。