「実績だせなければまた辞めさせられる」大企業管理職、早期退職後の再就職先もやっぱり地獄だった…私はいらない人材なのか

溝上憲文
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 インフレが進行する中、大企業を中心に「賃上げ」のニュースが続いているが、その陰で、今でも毎年5000人以上がリストラによる退職を余儀なくされている。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が、前職で「戦力外通告」を受けた人たちの再就職事情と、再就職に臨む際の心構えについて伝える。

続く企業のリストラ…ヘッドハンターが声をかけるのは1割のみという現実

 今では恒常的に早期退職者募集(希望退職者募集)という名のリストラが実施されている。コロナ禍の2020~21年には(上場企業で)毎年1万人超がリストラされたが、22年も5780人(東京商工リサーチ)が会社を去るなど一定数の人員削減が続いている。

 希望退職者募集には、業績悪化時に臨時的に実施される募集と「セカンドキャリア支援制度」や「転身支援制度」などの名目で会社が常備している募集の2つに分かれる。いずれも「希望する人」が手を挙げる募集であるが、実際は会社から「あなたが活躍できるポジションはありません」という「戦力外通告」による退職勧奨を受けるのが一般的だ。

 しかし退職勧奨を受ける人たち以外にも、割増退職金を目当てに退職しようとする人たちもいる。上場企業の希望退職者募集がリリースで対外的に告知されると、素早く動き出すのが人材紹介会社やヘッドハンターだ。優秀な人材を狙い、積極的にアプローチする。とくに有名企業でリストラが実施されると、ヘッドハンターの草刈り場の様相を呈する。

 ヘッドハンターに声をかけられる人は、少なくとも複数の企業が欲しがる特定のスキルを持つ人である。しかし「戦力外通告」された人を含めて、多くの人は退職後に再就職活動を始めることになる。

 どういうルートで転職していくのか。転職市場全体ではハローワーク経由が最も多く、次いで縁故などのリファーラル採用だ。友人やかつての上司や知人の紹介であり、ハローワークとリファーラル経由での転職が全体の約60%を占め、求人広告や求人サイト経由が30%。最近急成長を遂げているヘッドハンターを含む人材紹介会社経由は、増えてはいるが、それでもまだ10%程度と言われている。

前職で「戦力外通告」を受けても、実績さえ出せば65歳まで働ける

 いずれかのルートを通じて転職することになるが、もちろん「戦力外通告」を受けた人でも、今の会社では事業の縮小やビジネスモデルの転換などで必要とされなくなっても、他の会社からは必要とされる、という人材も少なくない。

 流通業の人事担当者は「需要拡大を見込んで店舗開発の設計者やデザイナーを増やしたが、コロナ禍の需要減少で希望退職者を募集した。建築士等の資格を持つ人やデザイナーなど、特定の技術やスキルを持つ人は45歳や50代でも、退職後、間を置かずに他の企業に転職しているようだ」と語る。

 他の企業でも欲しがるスキルを持つ人は、同程度の年収で同業他社に転職が可能だが、大企業出身者の場合、立ちはだかるのが「年収のカベ」だ。前職の給与が高い人が異業種や中堅・中小企業に転職すると年収減は避けられない。

 また、ある程度妥協すれば、事務系でも受け入れられる職場もある。

 超低金利下で苦境に直面する銀行業界は、地銀をはじめ再編を余儀なくされており、希望退職者募集を実施するところも多い。しかし、地銀出身者は、意外な業種で受け入れられている。ある建設関連会社では「支店長経験者」を中心に受け入れていると語る。

「地銀を中心に元支店長を毎年受け入れている。当社の法人営業部に所属し、銀行での経験を生かし、各銀行の支店を回り、銀行の顧客の店舗などの建設計画の情報を収集し、成約につなげる仕事だ。銀行経験者だけに横のつながりでの情報収集能力があり、成約率も高い。年齢的には53歳から55歳の人が結構多い」

 収入的には前職の3割減になるという。ただし「実績を出せない人は60歳定年前に辞めていただく場合もある。ある程度実績を上げていれば、65歳まで働いてもらう」と語る。中高年世代が転職を勝ち取るには「何をしてきたか」ではなく「どんな貢献ができるか」が問われる。その典型的事例だろう。

年功型賃金企業からの転職は年収減を覚悟せよ

 中高年の転職を支援する転職エージェントの社長は「早期退職者募集で会社を退職した中高年は、どんな人でも長年の経験と知識を含めて、世の中に必要とされるスキルを持っている。自分のスキルを必要とする会社を知人・友人など人脈に当たり、同時に求人サイトから探し出すことが必要になる」と指摘する。

 ただし、自分にふさわしい求人の需要が常にあるわけではない。例えば、ある企業で突然、人事部長が退職し、それが務まる人を求めている場合もあれば、同じ人事部門でも、人事制度を変えたいので制度設計ができる人を求めている場合もある。あるいは採用がうまくいかないので、採用経験のある人を求める企業もある。また若手の育成を強化したい企業は、人材育成や能力開発の研修業務に従事してきた人を採用したいと思う。同じ人事部出身者でも企業が求めるスペックは多様だ。どんな企業がどんなスペックを求めているのか、常にウォッチしている必要がある。

 また「戦力外通告」を受けた人の場合、多くの人は転職すれば年収が下がるというのが一般的な常識だ。年功型賃金制度の企業出身者ほど減収幅は大きい。年功型賃金体系は、若いときに給与を抑制し、40代以降にその分の給与を手厚くする後払い賃金の性格を持つ。当然、転職した企業にとっては後払い分を払う義理もなく、現在の能力と成果で処遇するので下がるのは必然と言える。

転職前に業務委託契約のシミュレーションで自分の市場価値を知るのも有効

 問題はどの程度の減収を許容できるかだ。そのためには自分の市場価値を知ることで、それを知るためには以下の2つの方法がある。1つは、転職サイトに登録し、自分の持つスキルがどのくらいの金額で “売買” されているのか、その傾向を知ることだ。

 もう1つの方法は、仮に年収800万円を欲しいのであれば、いろいろな企業と業務委託契約を結ぶプランを試してみること。例えば、長年、経理業務を担当してきた人であれば、1年間に何社と契約できるのかシミュレーションをしてみる。仮に100万円なら8社と契約できれば800万円になる。100万円ではなく50万円ぐらいなら出してもよいという中小企業もあるかもしれない。年間に10社としか契約できないとすれば500万円。年収500万円ぐらいの価値しかないということになる。

 ネット上には、フリーランスのプロ人材を登録するサイトもある。そこに登録すれば何社からオファーがあるのかを知る手がかりになる。お勧めなのが、副業でこうした業務委託を実践してみることだ。近年は大手企業でも副業を解禁する企業が増えている。もちろん、会社が解禁していなくても業務時間外に他の仕事をするのは憲法上も許されている権利であり、会社に義理立てする必要はない。

 業務委託契約による副業で、実際に企業の業務を請け負うことで、契約金額がいくらになるかだけではなく、実際の業務量や自分のスキルがどこまで通用するのかを知ることができるし、さらに自社と違う職場風土を知ることも勉強になる。とくに中小企業に転職する場合、社風や経営者とフィットするか、相性が大事になる。大企業に多い「雇われ社長」と違い、中小企業にはアクの強いオーナー経営者も少なくない。転職しても、経営者と相性が合わずに辞めていく大企業出身者もいるのだ。

 副業で働くことで中小企業の職場風土を知ることができる一方、経営者とどう接していくべきかについても大体わかるだろう。中高年は、いつ早期退職者募集が始まって退職勧奨に遭うかわからない。あるいは役職定年で仕事がなくなる可能性もある。事前に再就職の準備をしておいたほうが得策であることは間違いない。

溝上憲文

人事ジャーナリスト。1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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