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シリコンバレー銀行破綻「最悪の犠牲者は太陽光発電業者だ」連鎖するパニック、怒る従業員

 世界のマーケットに、米シリコンバレー銀行破綻の余波がくすぶっている。3月15日には欧州の名門、クレディ・スイスの経営危機が顕在化するなど、リーマン・ショック以来の金融危機に発展するのではないかと、世界中の金融関係者、投資家が固唾(かたず)をのんで推移を見守っている。果たして今後、どのように事態は動いていくのか。

「銀行システムは安全」のバイデン発言は信じられるか

 米シリコンバレー銀行(SVB)は、3月10日に恐るべきスピードで破綻した。「銀行システムは安全なので安心してほしい」「このような事態に対処するため、必要なことは何でもするつもりだ」とジョー・バイデン米大統領は、3月13日に話した。事実、米国政府は、シリコンバレー銀行、そしてシグネチャー銀行の預金の全額保護に踏み切った。しかし、シリコンバレー銀行の破綻は、世界の金融市場に連鎖的な脅威をもたらし続けている。

 1983年に設立されたシリコンバレー銀行は、破綻する直前までアメリカで16番目に大きな商業銀行だった。米国のベンチャー企業やライフサイエンス企業の約半数に銀行サービスを提供していた。米国だけでなく、カナダ、中国、デンマーク、ドイツ、アイルランド、イスラエル、スウェーデン、英国でも営業をしていた。コロナ禍における世界的な超低金利とデジタル産業への需要が高まりとともに、テック分野を根城とする同銀行は、高い成長を誇っていたのだ。融資を含む同行の資産は、2019年末の710億ドルから、2022年3月末のピーク時の2200億ドルへと3倍以上に膨らんでいる。預金も同様の増え方をしていて、同期間に、620億ドルから1980億ドルに膨らんだ。

 なぜ破綻したのか。それも、水曜日(3月8日)にバランスシートを補強するために株を売り出すと発表してから金曜日(3月10日)まで、わずか48時間足らずの脅威的なスピードでの破綻は何故に起きたのだろうか。

史上初の「ツイッターによる銀行破綻劇」の舞台裏

 破綻のそもそもの原因は、シリコンバレー銀行がゼロ金利(もしくはゼロ金利に近い)時代に、何十億ドルというお金で米国債を買っていたことにある。

 2022年にFRB(米連邦準備制度理事会)が行った「インフレ抑制のための急激な利上げ」によって、金利が上昇。それにともない債券価格が下落し、シリコンバレー銀行の保有していた国債の価値はみるみる下がっていった。他方、金利の上昇は、借入コストも上昇させた。借入コストの上昇で、ハイテク新興企業の多くは、シリコンバレー銀行の預金を取り崩すことになった。

 シリコンバレー銀行は、水曜日(3月8日)に、こうしてできた財務の穴をふさぐために、22億5000万ドルの資本調達を発表した。その発表が顧客のパニックを引き起こし、大量に預金を引き出されてしまった。それをみた投資家は、リーマン・ショックの再来を懸念、シリコンバレー銀行の株価は木曜日(3月9日)に60%急落した。金曜日(3月10日)の朝までに、シリコンバレー銀行の株は取引を停止され、万事休すとなった。シリコンバレー銀行は破綻し、カリフォルニア州の規制当局が介入し、銀行を閉鎖し、連邦預金保険公社の下で管財人となったのだ。リーマンショック以来、最大規模の銀行破綻となった。

 シリコンバレー銀行の顧客であるテクノロジー系スタートアップ企業とその経営者は、保険に加入していない大口の預金者が多く、こうした投資家は、波乱の予兆があるとすぐに資金を引き出してしまう傾向にある。「シリコンバレー銀行による資本調達のプレスリリースが素っ気なかった」というそれだけの理由から大騒ぎになったという指摘もある。Twitter上では、そうしたプレスリリースへの不満や、著名なベンチャーキャピタリストによる「現金の保管場所を変えろ!」という警鐘が投稿され続けた。新興企業のリーダーたちがオンラインで資金を引き出そうと競い合ったのだ。

 米国下院・金融サービス委員長のパトリック・マクヘンリー氏は、声明で「初のTwitterを利用したバンクラン(取り付け騒ぎ)」と表現している。逃げ足の速い顧客を多く抱えている、それ自体がリスクになるということだ。

シリコンバレー銀行従業員の詳言「高い透明性と素直さが仇になった」

 米イェール大学経営大学院のリーダーシップ研究所(CELI)のジェフ・ソネンフェルドCEOは、「シリコンバレー銀行には規制要件をはるかに上回る十分な資本があるため、水曜日(3月8日)の夜に22億5000万ドルの資本調達を発表することは『不要』であるだけでなく、18億ドルの損失を同時に公表する必要もなかった」と指摘している。シリコンバレー銀行のある従業員(資産運用部門)は、匿名で、CNNの取材(3月13日)にこう答えている。

「あれは絶対にバカバカしいことだ。シリコンバレー銀行は非常に透明性を保っていた。通常スキャンダルで見られるようなこととは正反対です。しかし、その透明性と率直さがシリコンバレー銀行を追い詰めたのです」

 シリコンバレー銀行が破綻すると、続けてシグネチャー銀行が経営破綻した。こちらも(規制当局への提出書類によると)昨年末時点でシグネチャー銀行の約880億ドルの預金のうち、10分の9近くが無保険であったという。シリコンバレー銀行の問題が広まり始めると、シグネチャー銀行の顧客の多くがパニックに陥り、自分の預金が危険にさらされるのではないかと心配し、預金を引き上げた。株価は大暴落を始めたのだった。そして、シリコンバレー銀行破綻の48時間後には、シグネチャー銀行が破綻した。

今度はクレディ・スイスにも経営破綻の危機が

 さらに、経営難に陥ってる米国外の銀行にも、パニックは連鎖した。クレディ・スイスだ。シリコンバレー銀行破綻の原因とは、違う要因であるが、同じタイミングでの破綻危機に市場が動揺している。世界金融危機以来最悪の年間業績を受け、経営トップの賞与を廃止し、財務報告における「重大な弱点」を認めた。最大の支援者であるサウジ・ナショナル・バンクのアンマル・フダリ会長がさらなる資金提供を断念したため、株価は過去最低水準に急落しているのだ。この暴落は、世界経済にあまり大きな影響を与えないとされていたシリコンバレー銀行破綻とは意味合いが違うのでないかと、世界中の金融当局者が大きな懸念を持っているところだ。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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