「全株売り抜けハワイへ逃亡」シリコンバレー銀CEOら…米国知識労働者ら”金融屋への底しれぬ怒り”

シリコンバレー銀行破綻はアメリカとハゲタカによる「人災」

「戦争にも戦争裁判があるなら、経済にも経済裁判があるべきだと思います。金融の親玉ばかりが保護されて逃げる。やりたい放題のアメリカと、金融屋ばかりが得をする」

 日本企業に勤めるアジア系アメリカ人の知人は、そうしたアメリカと、悪しき金融屋が野放しの世界経済に否定的だ。それが現実であるとしても、声は上げるべきだと。

「日本人も、もっと怒るべきだと思います。これは天災ではなくアメリカとハゲタカによる『人災』なのですから。それでも彼らは罪に問われない」

 2023年に入ってからのアメリカ発の金融不安、とくに3月のシリコンバレーバンク破綻とその影響のことだ。日本でも「第2のリーマン・ショック」につながるのではと危惧されている。本当にそうなるかはともかく、今回も破綻させて焼け太る経営者があぶり出され、世界中から批判されている。今回のきっかけとなったシリコンバレーバンクの最高経営責任者(CEO)グレゴリー・ベッカーはシリコンバレーバンクの破綻前に全株を売却していた。

 ちなみに彼の言う「ハゲタカ」とは、本来、主に安値で株式や債券を買い叩き利益を得る投資ファンドを指すが、本稿では「悪しき金融屋」全体を指す侮蔑の言葉として便宜上使わせていただく。

金融で監獄に入るのは小物ばっかりだ

「金融で監獄に入るのは小物ばかりですし、金融で死刑になった者は(現代社会かつ先進国では)いないでしょう。多くの人類はその不平等なゲームの責任だけをとらされて、死ぬしかない人もたくさん出る。それなのにまた繰り返す。あの「ファイナンシャルクライシス」に懲りないどころか「あの夢よ、ふたたび」とばかり今回も無茶な投機を繰り返して、自分たちは儲けておいて、他人に後始末を押しつけようとしています」

 ファイナンシャルクライシス(The Financial Crisis)とは、日本では「リーマン・ショック」と呼ばれる2007年から2010年ごろにかけての世界的な金融危機のことである。「シャドーバンク」「サブプライムローン」など懐かしい単語を覚えている方も多いだろう。たしかに当時、破綻したリーマン・ブラザーズのリチャード・ファルドも、ベアー・スターンズのジェームズ・ケインも、メリルリンチのスタンレー・オニールもCEOを辞めただけだった。それどころか保有株を売り抜けたり、不透明かつ莫大な報酬を受け取ったりで辞めたとされる。

 結果論ではなく、他の役員たちも含め、ほぼ確信犯だったのに罪にはならなかった。そして金融システム救済による負担とその責任は、アメリカのみならず世界中の「一般人」がとらされた。

「おそらく今回も同じですよ、膨大な報酬を受け取って、自分の保有株を破綻前に売っぱらって、全部世界に押しつけてプライベートジェットやクルーザーを乗り回しているのですから」

シリコンバレー銀行CEOら幹部の重大疑惑

 破綻前に自社株を売り払ったのはシリコンバレーバンクのCEO、グレゴリー・ベッカーだけでなく、CFO(最高財務責任者)のダニエル・ベックら他の幹部も同様だという。2022年12月に規制が強化されたにもかかわらず、その規制の発効日前の売買計画なので対象外。プライベートジェットやクルーザーを乗り回しているかどうかはともかく、米政府の調査が事実なら、今回も「まんまと逃げて焼け太り」が成功していることになる。ちなみに報道によれば、ベッカーは現在ハワイにいる。

「大きすぎて潰せない、を逆手にとって儲ける連中ばかりが世界の金融市場を蝕(むしば)んでいます。また世界中の人々が少数のハゲタカどものために負担を強いられる」

 彼の憤りはもっともだが、今回もバイデン大統領は「議会は経営陣を罰すべきだ」と訴えるばかりで実効性は伴わない。制度上の欠陥と、金融を牛耳る「お友だち」のコネのおかげかインサイダーにも問われない。そしてこの「口だけ」は歴代大統領にも共通している。悪しき金融屋は「破綻するぞ」「救済しないとどうなると思う?」を人質にする。安易に経営責任を問うのは危険だが、こうした金融トップの多くが確信犯であったことは歴史も証明している。

少数の金融屋によって世界が腹切り

 もうひとり、別の日本企業に勤めるアジア系エンジニアも「納得いかない」と語ってくれた。

「個人投資家は守られないのに幹部は抜け駆けで大金を手にする。ギャンブルでうまくいけば自分の手柄、失敗したら他人に責任を押しつける、これで済む世界はおかしいですよ」

 これで済むなら弱肉強食ではなく、単なる「ペテン」である。出来レースと言ってもいいだろう。金融の専門家の中には「そういうものだ」と言う向きもあるかもしれないが、そういう世界が間違っている。またも少数の金融屋によって世界が詰め腹を切らされる、それを「そういうものだ」で済ませることは、金融の界隈(かいわい)だけで通じる話だろう。私利私欲で破綻させて世界を不安に陥れ、自分たちは保有株を売り抜ける。その後始末は世界中の一般人がとらされる。はっきり言って迷惑だ。

リーマンのときと被る、いつものアメリカらしい強弁

 本稿で語ってくれた彼らは、金融関係者でもなければアナリストでもない。しかし、だからこそ彼らの「怒り」はもっともで、グローバリズムのまやかしに敏感だ。日本人として筆者も同感で、結局のところ少数の悪しき金融屋と結託したアメリカを始めとする一部の政治屋によって、日本もまた迷惑をかけられるどころか、負担(しりぬぐい)をさせられることを思えばうんざりする。追加で武器を買うことになるかもしれないし、これからもアメリカに都合のいい「出来レース」のような条件下で商売をさせられるのだろう。戦勝国の金が減ったら日本の負担、80年近くを経ても、いまだに敗戦国扱いだ。

 イエレン財務長官は17日、「アメリカの銀行システムは健全」「今回は流動的なリスクがあった」と上院財政委員会の公聴会で訴えた。リーマンのときと被る、いつものアメリカらしい強弁だ。もちろん、リーマンの二の舞いは勘弁というのは世界の総意かもしれないが、繰り返されるアメリカ発のマネーゲームとその被害、それもまた少数のハゲタカどものせいとなると本当に許しがたいように思う。金融業とは多くの人々の成長や夢の実現を手助けする仕事のはずなのに、多くの人々を苦しめ、夢を潰して抜け駆けする連中がいる。まっとうな金融屋や一般投資家もまた、この出来レースの被害者だ。

戦争にも戦争裁判があるなら、経済にも経済裁判があるべき

「戦争にも戦争裁判があるなら、経済にも経済裁判があるべきだと思います」

「日本人も、もっと怒るべき」

 今回、この彼の言葉に感銘を受けて起こした記事だが、筆者が付け加えるとするなら、かつて日本を「平和に対する罪」で裁いたのなら、アメリカおよびその尻尾のハゲタカもまた、金融と経済をオモチャにして世界中の人々を苦しめ、あるいは死に至らしめる「平和に対する罪」で裁くべきだとすら思う。金融とは戦争より多くの人を殺めかねない恐ろしい「兵器」でもある。それほどの「罪」だと思う。

 グローバリズムの潮流は「金だけ今だけ自分だけ」なのかもしれないが、その潮流にほとんど世界の人々は入れてもらえない。陰謀論でなく、これは現実だ。ごく少数の「上級地球人」が不当に結果を知った上で巨万の富を得る、仮に失敗しても世界中の一般市民に後始末を押しつける。そして「ハゲタカ」は今回も、裁かれないどころか莫大な富を得て去っていく。

この記事の著者
日野百草

1972年、千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。国内外における社会問題、社会倫理のノンフィクションを中心に執筆。ロジスティクスや食料安全保障に関するルポルタージュ、コラムも手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。

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