高市早苗「悪魔の証明」と小西洋之の意味不明「文章が本物か作成者になぜ聞かない」「本物でも責める理由ない」

 放送法に基づくテレビ局の「政治的公平性」をめぐり、総務省で作成された行政文書が注目されている。立憲民主党など野党は当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が2015年に法解釈を変更したと批判し、その経緯が行政文書で明らかになったと閣僚辞任を要求。対する高市氏は自身に関する文書内容は「捏造(ねつぞう)だ」「事実なら議員辞職する」と反論し、新年度予算案を審議する国会は堂々巡りが続いている。だが、ここで2つの疑問が浮かび上がる。1つ目は「誰が、何のために」文書を作成したのかという点、そして2つ目は「一体、高市氏の何が問題なのか」という点だ。魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する政界で出口の見えない論争が繰り返されようとしている。

小西氏公開の内部文書を「行政文書」と認めた総務省

 今回の騒動は、3月2日に立憲民主党の小西洋之参院議員が公開した総務省の内部文書に端を発する。小西氏は約80枚の文書を「総務省職員から提供を受けた」と説明し、安倍晋三政権時代の2014~15年に首相官邸と総務省が放送法の解釈変更を試みた可能性を指摘。「政治目的で解釈を特定の権力者だけでつくってしまうことが文書で明らかになった」と追及する考えを強調した。

 小西氏の公開を受けて、高市氏は自らに関する文書内容について「捏造だ」と語気を強めて否定し、仮に事実であれば議員辞職するとまで言い切った。だが、3月7日に総務省が小西氏公開の内部文書を「行政文書」であると認め、文書全体を公表したことで高市氏は国会で集中砲火を浴びている。

 ただ、公表された行政文書を読んで見ると「なぜ高市氏が追及されているのか」という点がよくわからない。たしかに約80枚の文書を眺めると、当時の礒崎陽輔首相補佐官が放送法の定める政治的公平性について「放送事業者の番組全体をみて判断する」という従来の政府解釈や、特定番組のスタンスを疑問視していた点は伝わってくる。

 2014年11月、礒崎氏はTBS番組「サンデーモーニング」のコメンテーターの主張が偏っているのではないかとの問題意識を持ち、「これまで積み上げてきた解釈をおかしいというものではないが、①番組を全体で見るときの基準が不明確ではないか、②1つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか、という点について検討するよう指示」していたと記載されている。礒崎氏は年明けに国会で取り上げたい意向を示したとされ、総務省側と高市氏や山田真貴子首相秘書官らとの解釈変更をめぐるやりとりも文書に記されている。

「なぜ高市氏が今頃になって追及されるのか」

 こうした文書について、礒崎氏は3月3日に「首相補佐官在任中に、政治的公平性の解釈について、総務省と意見交換したのは事実だ。政府解釈では分かりにくいので、補充的説明をしてはどうかと意見した」と説明。松本剛明総務相も3月6日の参院予算委員会で、礒崎氏からの問い合わせが野党の言うところの「解釈変更」につながったことは認めている。

 ただ、2015年5月に「1つの番組のみでも極端な場合は放送事業者が政治的公平を確保しているとは認められない」と当時総務相だった高市氏が国会答弁したのは「従来の解釈を補充的に説明し、明確にしたものだ」(岸田文雄首相)というのが岸田政権の立場だ。解釈の変更ではなく「補充的説明」であって問題はないということである。

 こうした点を見れば「なぜ高市氏が今頃になって追及されるのか」という疑問を抱く人は少なくないだろう。総務省作成の行政文書を読み進めると、疑問は増幅するばかりだ。その理由は、文書に登場する高市氏はそもそも「解釈変更」に慎重な姿勢を示している点にある。たとえば、2015年3月6日夕の「大臣レクの結果について安藤局長からのデブリ模様」と題した文書には、高市氏から「これから安保法制とかやるのに大丈夫か」「民放と全面戦争になるのではないか」「総理が『慎重に』と仰るときはやる気がない場合もある」との意向が示された、と記載されている。

 高市氏は自身の関与が記された4枚の文書について「内容が正確ではない」とするが、総務省は「捏造ではない」とし、職員への調査結果でも「放送法の解釈という重大な案件を大臣に全く報告していないのはありえない」「大臣レクがなかったとは考えにくい」と説明している。

 先の文書の約1カ月前の2月13日と記された「高市大臣レク結果」との文書には、高市氏が担当局長に対して「『1つの番組の極端な場合』の部分について、この答弁は苦しいのではないか?」「官邸には『総務大臣は準備をしておきます』と伝えてください」と言った、との記載もある。つまり、これらの文書が仮に総務省が説明するように「捏造ではない」とすれば、逆に高市氏が「解釈変更」に慎重だったことを裏付けることになるのではないか。そうであれば「解釈変更」なのか、「補充的説明」なのかという論点はあるにせよ、追及されるべきは少なくとも高市氏ではないように映る。

行政文書の配布先に偏りが…旧3省の「権力闘争説」も有力に

 では、逆に「捏造だった」場合はどうなのか。巷(ちまた)では、旧総務庁・旧自治省・旧郵政省が合体して誕生した総務省内の権力闘争や、3月23日に公示された高市氏の地元・奈良の県知事選をめぐる攻撃材料に使われているとの見方まで飛び出している。真偽はともかく、前者の総務省におけるガバナンス問題は政界や霞が関で知らない者はいないものだ。

 省庁再編に伴い2001年1月に誕生した総務省は、かつての出身省庁によるバラバラ感が否めない。現在の山下哲夫事務次官は旧総理府(後の総務庁、内閣府)出身で、ナンバー2の内藤尚志総務審議官は旧自治省、吉田博史総務審議官は旧郵政省、竹内芳明総務審議官は旧郵政省の出身だ。山下氏までの歴代事務次官を見ても、旧自治省出身者が10人、旧郵政省が5人、旧行政管理庁(後の総務省行政管理局・行政評価局)は2人となっている。残念ながら旧体制が温存され、省の中に「縦割り」がなおも生じていると言える。

 この点は今回の騒動と何か関係があるのか。先ほどの総務省内の「権力闘争説」を見るにあたり「おや?」と思うことがある。それは、行政文書の「配布先」が偏っていることだ。「取扱厳重注意」などとスタンプが押された文書には、左上に配布先として桜井俊総務審議官(当時、のちに事務次官)らの名前が記されているのだが、桜井氏にしても福岡徹官房長(当時)にしても旧郵政省出身者に配布先が絞られている。たしかに放送法にまつわるテーマであれば旧郵政省の担当になるが、「重大な案件」と言いながら桜井氏以外の総務審議官2人や事務次官にも共有していなかったことになる。ちなみに、2014年7月から1年間、総務事務次官を務めた大石利雄氏は旧自治省の出身だ。

 礒崎氏は旧自治省の官僚から自民党が公募した参院選候補者に合格して参院議員を務めた人物で、当時の山田首相秘書官は旧郵政省出身である。総務省内の「権力闘争説」は、旧自治省出身の礒崎氏が放送行政に関与しようとしてきたため、旧郵政省出身者が抵抗。それに当時の高市総務相が巻き込まれたというものである。

 その場合、高市氏への「レク」自体はあったかもしれないが、旧郵政省組のみに配布している点を考えれば、高市氏の発言部分の記載は「不正確」だった可能性も捨てきれない。実際、総務省は高市氏以外にもレクがあったことを否定する職員がおり「内容の正確性は確認できない」との結論を出している。

 ただ、仮に記載内容が「捏造だった」場合には行政文書である以上、大きな問題だろう。総務省は「担当者に捏造した認識はない」と説明し、立憲民主党の岸真紀子参院議員は「官僚が文書を捏造したというのであれば、その官僚の皆さんが刑法犯罪を犯し、かつ国家公務員法違反をしたことになるが、それでも高市大臣は捏造されたというのか」と国会で追及している。これに高市経済安保担当相は「ありもしないことをあったかのように作ること、という意味で私は捏造と発言した。不正確な文書であるという私の考えは変わらない」と答弁し、議論は堂々巡りのままだ。

 それならば、なぜ文書を作成した「担当者」に国会で真偽を質さないのか。当時の桜井総務審議官を含め「捏造した認識はない」という総務省側は、説明する責任があるだろう。なかったことを証明する「悪魔の証明」は高市氏にはできないからだ。

 あえて言えば、もし「レク」が存在し、記載通りの発言を高市氏が実際にしていたとして、何か問題なのだろうか。文書を読む限り、高市氏は何ら法令違反を犯しているようには見えない。放送局の姿勢に疑問を抱いているような発言内容はあるものの、先ほども触れたように解釈を変えることには慎重だったからだ。逆に文書が「捏造」であれば違反であるのは言うまでもない。

「煙たい存在」…そもそも行政文書の外部漏洩はなぜ起きた

 もう1つ付け加えれば、行政文書を小西氏に提供した職員は問題にならないのか、という疑問も残る。たしかに違反行為を通報する「公益通報」であれば保護される。ただ、高市氏の発言が実際に行われていたとしても、それが「違反行為」であると言えるかは疑問だ。むしろ、行政文書という内部文書・情報を外部に漏洩することの問題はないのか気になる。

 高市氏を知る人には「仕事を一人で抱え込む」「何かあると『安倍首相が……』と言う癖がある」ことは知られている。煙たい存在だったという人も存在することは否定できない。自民党が2014年総裁選の際、放送局に「報道の公平中立、公正の確保」を求める要請をしたことも気になるところだろう。

 それにしても、今回の騒動に限れば「高市氏の何が問題だったのか」を理解することはできない。文書内容の真贋(しんがん)はともかく、それが事実であれば議員辞職や閣僚辞任をしなければならないというのも意味がわからないのである。

 レクがあったか否か、文書にあるような高市氏の発言があったのか、それともなかったのかは問題ではない。2015年の高市氏の見解によって放送局はプレッシャーと感じたのかもしれないが、今から8年前のことを経緯を記した行政文書が出てきたからといって騒ぐ理由がわからないのである。

 法令違反でもないものに延々と国会で時間を割くことはやめてもらいたいと思う人は少なくないのではないか。「モリカケ」問題のような、出口が見えない論争がまた始まったように映る。

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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