阪神ファンが異常に熱狂をする理由…欧州の論文で解説「ある状況下でファンは『負け犬を応援』傾向」幼少期に原因、”弱いほど忠誠心”

小倉健一
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 阪神タイガースの優勝で関西、いや日本が沸いている。何せ18年ぶりの優勝だからだ。しかし、なぜ阪神タイガースのファンは弱くても応援を続けてきたのだろうか。ヤクルトファンで元経済誌プレジデント編集長の小倉健一氏が欧州の論文と一緒に解説するーー。

セ・リーグの実態は5球団の優勝争い

 阪神タイガースが優勝した。2005年以来のリーグ優勝というから、阪神ファンの喜びはひとしおだろう。

 長らく優勝していないといえばDeNAベイスターズだ。1998年以降優勝はなく、前身の大洋時代から数えてもプロ野球の歴史で2度しか優勝をしていないDeNAベイスターズが優勝することはほぼないので、セ・リーグは実態上5球団で優勝が争われている。極端な言い方と感じる人もいるのかもしれないが、40歳代で亡くなった、私の親友であり、ある航空会社の広報マンでもあったベイスターズファンは、末期がんが進行している最中の私との最後になるかもしれない死の淵の病床で、「1998年の優勝をみることができて本当によかった。私は息子たちをベイスターズファンにしてしまったものの、彼らは死ぬまでベイスターズの優勝を観ることができないかもしれない。それが本当に心残りで、この前、息子たちを前にして、もしベイスターズが優勝したら、一生に一度のことだと思って大いに喜べと伝えておいた」と言っていた。

 となると、阪神は、5年に1度は優勝してもおかしくないのだが、2005年から18年もの間、優勝することができなかったのだ。

弱いチームをなぜ応援するのか

 今年、阪神関係者や大阪府民が「阪神優勝」ということばを使うと、優勝が逃げてしまうのではないかとおそれ、「アレ」ということばで、優勝という表現をしていたが、やはり18年もの間、苦杯を舐め続けたファン心理というものは、優勝の常連である「ヤクルトスワローズ」ファンの私からは想像を絶するものだと思う。

 そんな弱いチームをなぜ応援するのか、不思議でしょうがない人もいるだろう。かつて、巨人が強いというただそれだけの理由で、巨人ファンという人も多かったと聞く。チーム成績が弱ければ観客動員が落ちる球団がある一方で、弱くても、いや、弱ければ弱いほどに熱狂して応援するファンというものは存在している。その数が、抜群に多いのが阪神ファンであろう。この一見不可解な「チームへの忠誠心」を分析した研究論文がある。現在は西イングランド大学ブリストル校教授のアラン・タップ氏が2000年代に出した論文で、サッカーやメジャーリーグのサポーターやファンについての調査だが、そのまま日本の阪神ファンにも当てはめられるので紹介したい(2003年『The loyalty of football fans— We’ll support you evermore?』)。

チームの勝敗はファンの忠誠心にわずかな影響のみ

 まず、「特定のスポーツチームに忠誠を誓うファンにとって、チームの勝敗は、自分自身の忠誠心にわずかな影響しか与えない」というのは一般的には間違った「説」なのだという。第2次世界大戦が終わった直後からの観客動員を調べても、観客数はリーグにおけるチームの順位と関係があり、順位が下がればチームは支持を失うことが議論の余地なく示されているという。

 しかし、セ・リーグでもトップクラスの観客動員数を誇る阪神は、勝っても負けても多少の増減はあるものの、お客さんが入っている。こうした「例外」は海外でも稀に起こるようで、論文では「シカゴ・カブス」のファンが、阪神のように負けても球場へ足を運ぶとして研究の対象となっている。

 それは『負け犬(アンダードッグ)理論』と呼ばれるものだ。

ファンが「負け犬」を応援する心理

 「ある状況下では、ファンは『負け犬を応援する』傾向がある」のだという。つまり、不成功に終わったクラブ(優勝を逃す、下位低迷)のファンの一部は、「チームの成績」に対する期待値を下げる傾向にある。むしろ、チームの成績が悪ければ悪いほど、彼らは互いに、そしてチームとの絆を深めていくことが発見されている。(調査当時成績が低迷を続けていた)シカゴ・カブスのファンは、”ダメ人間 “のチームを応援することで、「部外者にはよくわからない特別な何かに属していると感じていた」と調査に話している回答があったのだという。そして、忠誠心の低いカジュアルなファンに比べて、熱狂的なシカゴ・カブス・ファンは、子供時代にシカゴ・カブスの野球の試合を観戦したり、聴いたりしたと報告する数が多いことがわかっている。

自発的に苦しめば苦しむほど、集団や目的を肯定的に評価

 ある集団に参加するため(あるいはある目的を達成するため)に、人が自発的に苦しめば苦しむほど、その人は、その集団や目的をより肯定的に評価するようになる。まるで、社員を洗脳するどこぞのブラック企業のような有様だが、阪神ファンは「自発的に苦しむ」のであるから、もはや止めることはできないのかもしれない。

 これらのクラブとの長い関係を非常に誇りに思っている「熱狂的な」回答者の中に、「子供時代」に原因があったという証拠が多くの研究で示されているのだという。

 反対に、よりカジュアルなファン(そこまで熱狂していないファン)は、大人になってから、そのチームの地元へ引っ越してきたことが多いこともわかっている。

 プロスポーツは他の「一般的な商品」とは異なる性質を持っている。ファンのグループごとに異なるニーズや背景があり、マーケティング戦略はそれを反映したものでなければならないだろう。球団やクラブは地域を基盤としており、その地域の文化や社会的要因がファンの忠誠心に影響を与えている。

熱狂的なファンがいることによる負の影響

 とはいえ、熱狂的なファンがいることで負の影響があることも確かだ。

 論文ではこんな例をあげて警鐘を鳴らす。「例えば、ワールドカップでイングランドが好成績を収めると、イングランドのクラブへの関心も増える。1970年代から80年代にかけて、フーリガンが問題となり、2002-03シーズンに再び増加した。これに関する多くの研究があり、彼らの忠誠心の影響も認識されている。多くのファンはフーリガンを避けるが、特に女性は彼らを脅威と感じ、試合観戦を避けることがある」

 阪神ファンが、あまりに阪神を応援することに熱狂し、暴徒化してしまうと、女性ファンやカジュアルなファンが阪神に近づかなくなるということだ。ただ、甲子園の満員のタイガースファンを見る限り、そうした「カジュアルファンなど不要」と感じてしまうのも事実だろう。熱狂的なファンさえいればいいぐらいに考えているのかもしれない。阪神のマーケティングを担当する人がいるなら、熱狂的なファンを遠目に見ているカジュアルファンも居ることに気をつけた方が良いであろう。

WBCに選手を大量派遣してもパリーグ首位のオリックスにこそ賛辞

 それにしても、今年に関していえば、このタイガースのセ・リーグ優勝など参考記録程度のものだろう。そもそも開幕前に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBS)で、大谷翔平をはじめとする日本選手の大活躍で世界一に輝いたわけだが、阪神タイガースの選手はあのときなにか貢献をしていたのをみなさんご記憶だろうか。

 私は一切記憶がないので、選ばれた選手がゼロだったのかもしれないと思い、今回調べてみたところ、投手の湯浅京己と野手では中野拓夢の2人が選出されていた。湯浅投手は2回と3分の2に登板し、中野選手は10打席に出場していた。両選手とも決勝戦には出場しておらず、準決勝では湯浅選手は3分の2インニング、中野選手は代走として打席はなかった。印象が薄すぎたせいでゼロなのかと思っていたが、そうではなかった。他チームの主力級の選手たちが、ボロボロになるまで戦ったことと比べると、ずいぶん楽をしていたようである。

 2023年は、同じチームで3~4選手が主力としてWBCに出場したチーム(オリックス、巨人、ヤクルト、ソフトバンク)は、相当不利なペナントレースだったはずである。この4チームにとっては、今年は参考程度に考えていたほうが良いし、それでもパ・リーグの首位を独走するオリックスにこそ賛辞を送るべきだろう。

 今年の阪神タイガースの優勝は、阪神ファンだけで祝っていれば良いのである。

 と私の阪神に対する嫉妬はここまでにして、最後に……。

 阪神タイガース、阪神ファンのみなさん、優勝おめでとう。来年は、村上宗隆が三冠王を再びとり、ヤクルトが優勝する。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact/

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