リニア妨害の川勝知事”静岡県職員のモチベーションは?”自殺者、全国平均の4倍の年も

元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は「リニア着工妨害を続ける静岡県の川勝知事の下で働く静岡県職員のモチベーション低下が心配だ。実際、過去には静岡県職員の自殺率は極めて高い状態で推移したという報道も」と指摘するーー。
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静岡県にメリットがまったくないのに、川勝知事はリニア着工妨害を続けている
やっと今年後半になって、静岡県知事の川勝平太氏の言い分が、本当に静岡県の大井川の水量や農業に対して、何か懸念があってリニアに待ったをかけているのではないということが、明らかになってきた。
口先ではリニア着工を応援しているなどと言いながら、実際は、ありとあらゆる機会を用いて、あるときはゼロから問題をつくりあげて、リニア着工を遅らせようとしている。
問題は、それによって、川勝知事が何を得ようとしているのかが判然としないことだが、リニア着工が遅れることで静岡県が得られる経済的なメリットはまったくない。
静岡県の職員の自殺率は極めて高い
私が、心配していることの一つに、この川勝知事という県庁のトップが、平然と二枚舌、英語ではダブルバインド(二重拘束・矛盾した指示のこと)、ダブルフェイス(2つの顔)を用いていることである。県庁の職員は、面従腹背というか、それこそ、民意で選ばれた代表である県知事に従うしかないと、いうのだろうが、このダブルバインドによって、組織は腐っていくのである。
過去には、静岡県の職員の自殺率が極めて高い状態で推移したという報道もあった。
<知事部局の職場環境を巡り県は昨年、16年度までの8年間に17人の自殺者が出たと公表している。千人当たりの自殺死亡率(15年度)は、各都道府県や政令指定都市の平均に比べ約2倍と多かった。>(朝日新聞・2018年3月19日)
<1000人当たりの自殺率は、全国平均(各都道府県と政令指定都市職員)と比べて14年度は約4倍、15年度は約2倍という>(毎日新聞・2017年12月19日)
2019年に起きた職員の自殺では、男性幹部が職員の面前で<「役に立たない」「ばかだ」「元々この程度なのか、それとも調子が悪いのか」などと侮辱する発言を重ね、精神的な苦痛を与えた>(静岡新聞・2019年1月19日)のだという。
直接的なパワハラが原因のケースもあるが、自殺の原因は様々であり、誰のせいということではないのだろうが、一体、静岡県庁では何が起きているのか心配になる。
組織においてダブルバインドが横行すると何が起きるのか
組織においてダブルバインド(矛盾した指示)が横行し、現場が何をしていいかわからないというのもモチベーションを落とすきっかけとなろう。組織のトップが例えば、「自由に意見を言え」などと言っているにもかかわらず、実際に自由に意見を言うと、組織からネガティブな評価を食らうというようなことである。
どこの組織にも多かれ少なかれそういうことがあるが、静岡県の場合、ここまで公然とトップである知事が、ダブルバインド(矛盾した指示)を出し、組織に強要することは相当なレアケースであろう。一般に、このダブルバインドが組織で横行すると何が起きるだろうか。
職場で人々が表向きには合理的な決断をしようとしているように見えるが、実際には権力争いや個人の利益追求のような別のゲームが行われていることはよくある。例えば、取締役会では表向きには組織のための最良の決断を模索する議論が行わるが、参加者の中には社長からの寵愛を得たい、他の同僚より優位に立ちたい、自分のアイデアを押し通したいといった隠された動機があったりする。このような状況に気づいても、それを指摘するのは難しい。組織の非公式のルールを破ることになり、自分が罰せられるかもしれない。自分もそのルールに従うしかないと考えてしまう。
リニア着工妨害の問題で、静岡県の職員は変化への対応力を失いつつある
いま、静岡市長である難波喬司氏は、かつてボスであった川勝知事のリニア妨害について批判的な立場を取っているが、県庁にいたときは、リニア妨害チームのひとりであったことを思い出してほしい。無益なゲームのルールに、難波市長自身もつきあっていたのだ。
公式の場で、建前のルールが強要され、それが度を越したものになると、実際の意思決定は非公式な場で行われるようになる。組織論の研究では、クリス・アーガリスが「組織の二重性」という概念で、その非公式な場での実際的な意思決定を表現している。組織が問題を直接的に解決する姿勢を見せつつ、実際には問題を隠蔽している状況などがこの状況にあたるのだと、その研究で、アーガリスは説明しているが、これはまさにリニアの問題で起きていることだ。
川勝知事のように、リニアを応援すると言いつつ、実際には妨害をするという二重性を組織が持つと、「組織は問題を特定し、解決するプロセスそのものが意味をなさなくなり、組織は変化に対応する力を失っていく」のだという。民間企業であれば、新規商品開発ができなくなり、時代遅れの製品を作り続けることになる。
組織のメンバー(リニア問題で言えば、県庁職員)は、自己防衛的な行動に重点を置き、本質的な問題に対する反省や学習を避けるような態度をとるようになる。また、独自の前提や理論に基づいて行動し、これらはしばしば曖昧さや矛盾を含み、それが修正されない状態が続くことになる。
10年で1679億円もの経済効果を静岡県内にもたらすリニア着工を妨害している静岡県職員のモチベーションが心配だ
実際に現在の静岡県の職員の立場で考えてみよう。
川勝知事に対して、リニア着工を進めるためにこういうことをしましょうといえば、疎まれることは間違いない。その一方で、住民、メディア、国に対してリニア着工を妨害するためにこういうことをしています、と正直に報告をしては袋叩きにあうのである。
となると、リニア建設を実際には妨害していながら、表向きはそうではないと言い逃れできるものを探すのが正解ということになる。しかも、この事実は、表沙汰にはできないので、非公式に、文書を残さない形で共有していくしかない。
そして、静岡県の経済に資することもない。国土交通省の調査によると、リニア開通で、静岡県内に10年で1679億円の経済効果がでることがわかった。
ここまでくると、静岡県の職員はどういうモチベーションで、リニア着工を妨害しているのかと心配になってくる。自分たちが、川勝知事の指示を守る以外に、何を目的として、働いているのか。何が正しく、どう行動すればいいかについて相当な混乱をしている可能性はある。しかし、県庁のような権威的な組織にあっては、このような事態が起きたら、トップを変えるか、自分がでていくことしかできないというのが実態だ。こうして、組織の公式な方針と実際の行動の間の矛盾は、それを誰も話題にしたがらない状況も手伝って、組織の問題をより複雑にしていく。
1年あたり160億円もの経済効果を生めるものを、静岡県職員がつくりだすことは今後ないだろう。静岡空港も巨額の赤字を垂れ流し続けている。
県庁のような組織では、現場からトップに変革を求めることはできない。結局、川勝知事を追い出すしかない
ノルウェービジネススクールのビョルン・ヘネスタッド教授は、『ダブルバインド(矛盾した指示)・リーダーシップの象徴的影響ダブルバインドと組織文化のダイナミクス』(2007)で、こう結論づけている。
「ダブルバインド(矛盾した指示が出ている)状況では、組織のメンバーはしばしば明確でないコミュニケーションに直面し、それが彼ら自身の行動にも反映されることになります。彼らは言葉とは異なる行動を取るか、または異なる状況で異なるメッセージを送ることがあります。これは組織のあいまいさをさらに増加させ、ダブルバインドの状況を自己強化させる可能性があります」
「ダブルバインドが続くと、組織は問題を認識して修正することが難しくなります。これは組織の学習と改善のプロセスに悪影響を及ぼし、悪循環に陥る可能性があります。経営陣やメンバーが送る矛盾する信号や要求に直面した従業員は、このような状況を経験し、結局、混乱と不確実性を増大させてしまいます」
県庁のような権威主義的な組織にあって、現場からトップに変革を求めるようなことはできまい。有権者が悪しき行政をただしていく他ないのかもしれない。