頭つかまれ、後頭部や左顎に爪をグサッ…連日報道されるクマ襲撃にクマ大国のロシア「彼らと友達になれ、だが銃を手放すな」

全国各地で連日のようにクマが人間を襲っている。今年4月から9月までにクマによる被害にあった人は全国で109人と過去最悪ペース。北海道環境生活部の調査によると、2021年時点でのヒグマによる農産物被害は北海道だけで2億6000万円にものぼる。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は「日本人は『森のくまさん』などのイメージからクマを『可愛い動物』と捉えがちだが、もちろん本物のクマはそんなものではなく、畏怖の対象だ。そんなクマに出会ったときには気をつけておかなければならないことがある」と警鐘を鳴らすーー。
目次
「森のくまさん」の歌詞に潜む謎
ある日、森の中、クマさんに出会ったーー。そんな歌詞で始まる童謡「森のくまさん」。数ある童謡の中でも「謎歌詞」としての評判が高い。歌の前半で「クマさんのいうことにゃ お嬢さん おにげなさい」とあるにもかかわらず、「お嬢さん」が逃げ出すと、なぜか、くまさんがおっかけてくるという不思議な歌詞である。
実は、この歌詞、お嬢さんにお逃げなさいといったのは、「小鳥」だっという説がある。
証言者は、東京都の山田美智子さん(幼稚園教諭)。昭和60年10月に発行されたチャイルド本社「季刊 どうよう」第三号には、会員からの提言として次のような証言が掲載されている。
Webサイト「池田小百合なっとく童謡・唱歌」より次のとおり引用する。
「十五年以前に覚えたものは“小鳥の言うことにゃ”だった。鬼ごっこではあるまいし、熊が自分で逃げろといっておいて追いかけるのは不自然。詩の内容からいって小鳥であるべきと思うのに、どの曲集も熊となっているのは本当に残念です」(世界の民謡・童謡『森のくまさん 歌詞の意味 原曲の和訳』)
たしかに、小鳥が逃げろと警告したけれども、クマに追いかけられ、実は、クマは白い貝殻の小さなイヤリングをお嬢さんに渡すためだった、というストーリーになれば、納得しやすいファンタジーになる。
「森のくまさん」の原曲には、クマの恐ろしさが克明に描かれている
この日本語の童謡「森のくまさん」には、英語の原曲がある。ボーイスカウトなどがキャンプ場で歌った『The Other Day, I Met a Bear』という曲だ。さらにこの『The Other Day, I Met a Bear』(=ある日、熊にあった)は、『Sippin’ Soda』という原曲(https://www.youtube.com/watch?v=6anmMMzNRyI)がある。『Sippin’ Soda』(=ソーダを飲んでる)の歌詞は、ソーダを飲んで可愛い彼女と恋に落ちると言う歌で、メロディーだけしか共通点はない。では、英語原曲の『The Other Day, I Met a Bear』の歌詞はどんな歌詞だったかをお伝えしよう。
The other day ある日
I met a bear クマに出会った
Out in the woods 森の中で
Oh way out there 道の外れで
と始まり、クマとの緊張の場面が始まる。ここからは、翻訳だけを書いていくが、いろいろな歌詞のバージョンがあるがそのうちの一つだ。
<クマは私を見た 私はクマを見た クマは私を見定めた 私はクマを見定めた>
<クマは私に言った なぜ逃げない お前は銃は持っていない>
<私はクマに言った それはいい考えだ 足で行こう ここから離れよう>
<そして私は走った そこから逃げて でもすぐ後ろに クマがいた>
<そして私は見た 前方に 大きな木が ああ、栄光あれ!>
<一番下の枝は 10フィート上だった 飛び降りるしかない 運を信じて>
<そして私は飛び降りた 空中に でも、あの枝にはとどかない>
<心配するな しかめっ面しないで だって、なんとか枝を捕まえたんだから>
<これで話は終わりだ もうこれ以上はない あのクマにもう一度会わない限り>
こちらの歌詞は、ボーイスカウトという、クマに鉢合わせしかねない組織の歌なので、陽気な曲であるものの、クマの危険性が曲の全般にわたって描かれている。
ロシアの諺「クマとは友達になれ、だけど、銃を手放すな」
ところで今、日本中、特に、東北各県で、クマの駆除に抗議する電話やメールが殺到している。思えば、日本人が想像するクマというのは、クマのプーさんであったり、熊本県のマスコット・くまモンのイメージだろう。そして、この白い貝殻の小さなイヤリングを届けてくれる親切な森のくまさんしかいない。
そうなると、クマを殺さず、助けてあげてほしいという気分にもなってしまうのだろう。豚や牛を日常的に食べておいて、人を襲ったり、農作物を荒らすクマだけは殺すなと言うのは、まさに身勝手な発想でしかない。
世界のヒグマの半数が生息するロシアでは、クマは国民的なシンボルだ。そのロシアの有名な諺に、「クマとは友達になれ、だけど、銃を手放すな」というものがある。外見や表面的な友好関係に騙されず、常に警戒心を持って行動することの重要性を示唆しているものだが、実際のクマとの付き合い方として、日本人も見習うべきであろう。
ファンタジーとしてのクマを愛するのは良いが、実際には警戒心を怠るべきではないし、何かあったら射殺しなくてはならないぐらいに、危険な動物であるということだ。
毎週のように起きているクマによる被害
クマによる被害が連日報道されている。
11月6日には、新潟県新発田市で40代の男性が自宅の裏山でクマに襲われ、顔や背中などをひっかかれてけがをし、病院で手当てを受けた。
11月2日には北海道南部の福島町などにまたがる山の中腹でクマに襲われたとみられる遺体が見つかった。
10月12日には、医療従事者の男性(71)がクマに襲われた。
「幅50センチほどの小川を挟んだ向かい側で『カサカサ』とやぶが揺れる音を聞いた。イノシシかと思った直後、突然、目の前に真っ黒い巨体が覆いかぶさってきた。『発見してからは、あっという間。1秒にも満たないくらいだった』という。立ち上がった体長約1・2メートルのクマに頭をつかまれ、後頭部や左顎に爪が食い込んだ。首にかみつこうとするクマの口をとっさに左手で防ぎ、腹に蹴りを入れた。『このやろう。大声を出すと、驚いたクマはやぶに向かって逃げていったという」(読売新聞・11月2日)
クマに出会った時の鉄則。クマに「人間様は怖い」と感じさせるには
他にも数えきれないほど、人間が実際に被害に遭うケースが報道されている。
こうした被害にどう対応していったらよいのであろうか。
NHKニュース(11月9日)では、「捕獲と駆除は必要。でもそれだけでは被害は繰り返される」として、わなで捕獲したクマの首に発信器を取り付けて、いったん逃がす。もし、人間の生活するエリアに発信機をつけたクマが近づいてきことがわかると、「ベアドッグ」と呼ばれる特殊な訓練を受けた犬を連れていき、「大きな声でほえて威嚇します。これがクマに『この場所にいては危険だ』と理解、学習させることにつながる」のだという。
私自身も、今年に入って、10月に山梨県へ、そして11月には岩手県の西和賀へとクマの実態を調べに赴いたが、猟師や町議の話を聞くと、やはりクマの目撃情報は増えていて、地元住民は警戒を強めているのだと言う。その際に聞いた猟師の話が興味深かった。
「猟師はクマを一頭で行動しているときに仕留めるのが、鉄則です。なぜなら、複数いるときに一頭を殺すと、他のクマが、その人間の恐怖を仲間に伝えて、その後の猟がしにくくなる。となれば、人間の生活圏に近づくクマを仲間の前で殺すと、しばらく寄ってこなくなる可能性はある。人間様は怖い、と伝えることで、お互いの生活圏における共存が可能かもしれない」
この証言は、さきのNHKニュースのベアドッグにも通じる教訓といえよう。クマはデカく、怒ると人間を平気で殺そうとしてくる動物だ。マスコットとしてのクマは可愛いということと、分けて考えなくてはならないだろう。