菅義偉が死ぬ覚悟で「岸田増税」と闘いを始めたのだから、石破茂は黙りなさい…日本の潜在的国民負担率は56.9%

 菅義偉前総理大臣が岸田文雄政権の安易な増税路線に異を唱えた。不景気+インフレで生活が厳しくなっている中で、多くの国民の声を代弁した。ジャーナリストの小倉健一氏が「なぜ今、岸田下ろしが起きないのか」「菅義偉氏の公然批判の意図は何か」を解説する――。

この状態で、そもそもなんで岸田下ろしが起きないのか

 なぜ、自民党はこの人を首相の座から引きずり下ろし、岸田文雄氏を首相の座に就けたのか。私が、自民党に対して強い不信感を持たざるを得ないのは、この点だ。

 普段は「自民党は懐が深い」だの「国益のためには不人気な政策をも実行する」などと言いふらしておきながら、自民党国会議員たちは、自分たちの選挙が近づくと、菅義偉氏という有能な指揮官をすぐさま引きずり下ろした。今、支持率が超低空飛行の岸田首相を下ろそうという動きがほぼ皆無なのは、4月に実施される統一地方選挙では、改選となるのはあくまで地方議員であり、自分たちの地位が脅かされないためだ。

 「岸田を下ろすと次は河野太郎氏か、茂木敏充氏という永田町や霞が関から支持を得ていない人になるから、岸田下ろしが起きていない」などとする風説が、まことしやかに出回っているが、完全に出鱈目(でたらめ)。岸田首相が増税政策を連発する中、自民党国会議員で減税を訴えた人は100人以上いるが、とにかく国会議員という椅子にしがみつきたいから、何もしないのだ。

総理大臣にあと一歩となったところで、増税を一旦封印した岸田氏

 岸田首相はこれまで、筋金入りの増税主義者として政治家の道を歩んできた。政調会長時代には「財政健全化の道筋を示すことが、消費を刺激して経済の循環を完成させる」「財政出動が将来への不安を増大させかねない」「最優先の課題として消費税引き上げが必要」と発信していた。つまり、増税すると世間は安心して消費をするようになる、増税が消費を刺激して景気が良くなる、という摩訶(まか)不思議な理論を、政治において実践してきた。

 それが総理大臣にあと一歩となったところで、増税を封印。その後、衆議院選挙、参議院選挙を経てから、何事もなかったかのように、昔の自分を取り戻し、増税を推進しはじめたのだ。

 最近の例では、国が二酸化炭素(CO2)の排出に課金してその削減を促す「カーボンプライシング(炭素課金)」の導入だろう。「課金」という言葉で誤魔化(ごまか)しているが、要するに「税金」のことである。昨年の防衛増税に続いて、また国民負担を増やす。

日本の潜在的国民負担率は、56.9%

 財政赤字を加味した日本の潜在的国民負担率は56.9%だ。「重税だが福祉が手厚い」ことで知られるスウェーデンでさえ56.4%である。米国は40.7%、英国は49.7%だ。日本ほど国民負担率が高い国はなかなかない、というのがファクトだ(財務省「国民負担率の国際比較」<2022>。数値は日本が2022年度見通し、他国は19年)。

「あらゆる国民負担を消費税で賄ったら」という試算をしたが、現在の日本人の実質消費税は115%だ。第一生命研究所の調査(2005)によれば『主要OECD諸国に関するパネル分析を行った結果、国民負担率と家計貯蓄率は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が0.28%ポイント低下する」『また、国民負担率と潜在成長率との関係についても同様に分析を行ったが、両者は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、潜在成長率が0.06%ポイント低下する』ことがわかっている。「炭素課金」「社会保険料」など、どんな名前をつけようともそれは国民負担であり、国民負担が増えれば経済は失速し、家計にダメージを与えるのだ。

 今、増税などをしたら、日本の景気が失速するのは誰の目にも明らかであり、岸田政権が増税を政策の中枢に置き、妥協を許さないのであれば、引きずり下ろすことでしか、日本の経済成長に活路は見出せないということだ。

公然と批判をしはじめた菅義偉前総理の狙い

 萩生田光一政調会長が中心になって増税を回避する動きに期待したいところではあるが、どこまで頑張ることができるのか。ガス抜きで終わるのではないかという疑念は拭えない。

 岸田首相は今年初めに「異次元の少子化対策」なるものを発表したが、この具体策・財源が決まるのが6月だという。これもまた統一地方選挙では増税を言わずに、終わった後に増税と言い出す腹積もりなのであろう。2021年の総裁選で、岸田首相が「10年は上げない」と約束したはずの消費税の増税が見えてきた。

 そんな閉塞感漂う自民党で、一人声を上げたのが、菅義偉前首相である。

 菅前首相は、1月18日のラジオ日本の番組で、岸田文雄首相の増税方針表明について「突然だった」「特に増税については、丁寧な説明が必要だ」「例えば行政改革でいくら(財源を捻出した)とか、いろんなことを示した上で、できない部分は増税させてほしいとか、そういう議論がなさすぎた」と指摘した。さらに、岸田首相が表明した「異次元の少子化対策」に関しては「思い切った少子化対策は必要だ」「一時、消費増税の話が出たが、まずは少子化対策のメニューをきちっと出すことが大事ではないか。まだそこが見えていない。これだけの物価高で、何をやるかのメニューが出ていない中で消費税の議論というのはあり得ない。現実的ではない」と公然と批判をしたのである。

そんな菅前総理にのっかろうとする石破氏

 それでは、なぜ、改めてこのタイミングで、菅前首相は声を上げたのだろうか。はっきり言って、狡猾な考えに立つなら、今はおとなしくしておいて、国会議員たちが浮き足立つ国政選挙の前のタイミングで批判を始めたほうが良かったはずである。時の政権を批判することで、冷や飯も覚悟せねばならない。菅前首相は相当な覚悟、恐らく自民党内の自分の立場など、どうなってもいいぐらいの決死の覚悟で、「このまま増税ばかりが先行しては日本経済がダメになってしまう」、そんな思いに駆られて今回の発言を行ったのではないのだろうか。

 そんな菅前首相に乗っかろうと企むのが、石破茂氏(自民党元幹事長)だ。石破氏はメディアや世論からの評価は高いが、自民党内では著しく評判が悪い。なんで評判が悪いのかわからないので、私自身、石破氏の発言を調べてみたが、はっきり言って、ズルいの一言だ。例えば、石破氏は赤字のローカル線を税金(補助金)で維持しろという持論を持っているが、メディアの前では「そもそもお客様を増やす努力をせずに、補助金に頼る経営姿勢そのものも問題です」などと、聞こえのいいことをこれでもかと主張する。本音では鉄道維持に補助金が必要であることがわかってるくせに、それをひた隠しにして、ライバルたちを攻撃・批判するのである。デタラメもいいところだ。

岸田政権によって追い詰められる日本経済

 そんな石破氏は増税派でありながら、反岸田というポジションを得るために菅前首相の行動を高く評価しはじめた。理由は、菅前首相が岸田首相に対し「(これまでの自民党政権の慣例通りに)派閥のトップをやめなさい」と苦言を呈したことだった。

 はっきり言って、迷惑だ。菅前首相の強い思いも、そんな石破氏と一緒にされることで、弱体化する。石破氏が味方になることで、離れていく人たちは多い。石破氏は、自分が疫病神であることを自覚して、言動を慎むべきではないか。大人なのだから、それぐらいの分別は身につけてほしいものだ。

 日本経済は、岸田政権によって追い詰められつつある。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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