愚かな国税庁に教えたい「若者のアルコール離れ」問題を解決するたった一つの方法…5億円の「酒飲めキャンペーン」に絶望する国民

国税庁の「頭の悪さ」に開いた口が塞がらない

 行政とは、なぜこんなに愚かなのだろうか。税金を使って「若者のアルコール離れ」を止めたいのだという。税金を使う側というのは、税金を取られる側に対して、ここまで無神経でいられるものなのか。唖然としてしまう。

 国税庁は、若者を対象に日本産酒類の需要喚起に向けた提案を募るコンテスト「サケビバ!」を開催するという。同ニュースを報じた時事通信の記事では、「(国税庁は)新たなサービスや販売戦略について若者目線のアイデアを引き出し、人口減少などで縮小傾向にある国内市場の活性化につなげたい考えだ」という。

「酒類業振興に係る取組(補助事業)について」(国税庁)によれば、「酒類振興関連予算」として、2021年度に26億8000万円、2022年度に28億円を計上していて、同キャンペーンもこの中の予算から5億円程度が投入されていると思われる。

 国税庁の同キャンペーンのホームページには、運営事務局は人材派遣のパソナグループの

「株式会社パソナ農援隊」で、開催趣旨は「少子高齢化等の人口動態の変化、新型コロナウイルス感染症の影響によるライフスタイルの変化等により、国内の酒類市場は縮小傾向にあります。 本事業では、若年層自身にビジネスプランを提案してもらうことで、若年層へ日本産酒類の発展・振興に向けた訴求をするとともに、 優秀なプランの公表により、業界の活性化を図ることを目的としています」なのだという。

日本人が飲む酒量が15年で25%減少…もっと

 背景には、酒類消費の落ち込みがある。成人1人当たり酒類消費数量は1995年度に100リットルだったが、2020年度は75リットルまで減少したのだという。

 しかし、このキャンペーンは、いくつかの致命的な問題をはらんでいるように思える。

 まず、第一に「飲酒」による健康被害、および社会的損失だろう。過度の飲酒が健康に甚大な悪い影響を与えることはこれまでも知られてきた。2009年のデータによると、米国におけるがん死亡の推定3.5%がアルコール関連死だ。「1日1杯しか飲まない人でもいくつかのがんのリスクはやや高くなる」「1日1杯しか飲まない女性は、全く飲まない女性に比べて乳がんになる確率が5~9%高くなる」(いずれも米国国立がん研究所)という。「適度な飲酒は健康にいい」などという過去の「医療神話」をいまだに信じている人(医者)もいるようだが、最近の研究では、飲酒は少しであっても健康を害する可能性がある報告は多い。

タバコよりも多いアルコールによる社会損失と犯罪誘発性

 飲酒運転や家庭内暴力など、飲酒はさまざまな社会的損失を生み出している。アルコールは、脳の情報伝達経路を妨害し、脳の見え方や働き方に影響を与える。人間の気分や行動を変化させ、明瞭に考えることができなくなり、協調して動くことを困難にさせてしまう。

 2013年の厚生労働省研究班の調査によると、社会的損失は年間4兆1483億円という結果になった。内訳は、日本では飲み過ぎによる病気やけがの治療に年間1兆101億円、労働損失と雇用の喪失は年間推定3兆947億円、自動車事故・犯罪・社会保障によるその他の社会的損失は、年間約283億円だ。中でも問題は、暴力事件だろう。「飲酒とDVとの関連性には諸説ありますが、刑事処分を受けるほどのDV事件例では犯行時の飲酒は67.2%に達していたという報告があり、激しい暴力においては飲酒との相関がより強いようです。とりわけ日本においては、飲酒をして暴力が発生することが男性に多いという特徴が指摘されています」(厚労省eヘルスネット「飲酒と暴力」中山秀樹・著)という。厚労省「健康日本21」には、「アルコールに起因する疾病のために、1987年には年間1兆957億円が医療費としてかかっていると試算されており、アルコール乱用による本人の収入減などを含めれば、社会全体では約6兆6千億円の社会的費用になるとの推計がある」との記載もある。ちなみに、タバコによる社会的損失は、4兆3264億円とされる(注1)。タバコよりもアルコールは、犯罪を誘発する上に、社会的損失が遥かに大きい。

 国税庁が今悩んでいる「酒類から得られる税収」は、令和2年度で総額1兆1300億円だ。税金を取ろうとして、お酒を国民に飲ませると、かえって社会的損失を増やすことになる。「税収」を増やすことしか考えていないお役所仕事、縦割り行政の末路といえよう。

ひろゆき「日本酒の販売促進って国税庁がやる仕事?」

 そもそも、社会的損失を拡大させるかもしれないアルコール摂取を行政が積極的に行うのは避けるべきではないだろうか。

 次の問題点は、これは国の税金によって行われるべきキャンペーンなのかということだ。

 当該キャンペーンのホームページには、募集テーマとして、「酒類業界の活性化や課題解決に資するプラン」として、条件が「日本産酒類(日本酒、焼酎、泡盛、ビール、ウイスキー、ワイン、リキュールなど、酒の種類を問わない)に関連するものであること」とある。そのプランの具体例としてこう記載されている。

  • 若年層の需要喚起に向けた新たなサービスやプロモーション手法
  • コロナ禍における新しい生活様式や嗜好の変化を踏まえた製品やデザインの提案
  • AIやメタバースを活用した新しい販売手法の確立
  • 地理的表示(GI)等を活用した酒類のブランド価値向上など

 多額の税金が投入されるこのキャンペーンだが、集まった提案をもとに、事業を実施するようだ(それにしても、オワコンのメタバース内で何をするというのだろうか)。

 ネットからも「日本酒の販売促進って国税庁がやる仕事?」(ひろゆき氏)、「無責任で常識はずれの飲酒キャンペーン」と指摘し、「国税庁の元締めは財務省で、要するに若者の健康よりも酒税がほしいという国民などどーでもいい緊縮財政の姿を現していると思います」(経済学者の田中秀臣氏)、「カツカツのヤング世代に『酒をもっと飲め!』と刷り込む前に『アルコール離れ』で実現する健康寿命の延伸、労働生産性上昇、医療費削減等で財源稼ぎにフォーカスした方が良くね?」(ロバート・キャンベル氏)などの疑問が呈されている。

なぜ、国税庁はタバコだけを袋叩きにするのか

 ネット上からは批判的な声も上がっているが、この程度のバッシングでよく済んだなというのが正直なところだ。これが「タバコの消費増キャンペーン」だったら、袋叩きどころではなかっただろう。みんなが飲んでいるアルコールだからこそ、この程度で済んだのである。同じ健康問題を抱える酒とタバコだが、酒には優しいこの国の風土がよく表れているようだ。私は酒もタバコも未成年以外は自由にやればいいという立場であるが、もし、規制をかけるなら、タバコと同程度の規制をしなくては不公平だ。少なくとも税金を使ってお酒だけを応援する理由が見当たらない。だったらタバコの応援もしなくてはならない。

 もし「若者のアルコール離れ」問題を解決したいのであれば、国税庁がやるべきことはシンプルだ。キャンペーンなどやらず、税金を下げることに尽きる。ビール350ミリリットル缶換算の酒税は70円もする。この税金を無料にすればよい。末端価格で200円で販売されているときもあり、その場合、割引率は30%を超える計算になる。普段飲んでいるビールが30%引きで買えるのであれば、税収はなくなるが、消費は増えるだろう。

 国税庁は恥を知るべきだ。

注1:https://www.ihep.jp/wp-content/uploads/current/report/study/26/h20-9.pdf

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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