国民がインフレに苦しんでいるのに「原発再稼働」にケチをつけないと気が済まない朝日・毎日新聞の病気

岸田首相が方針転換…次世代原子炉の建設を指示

 岸田文雄首相は、8月24日、次世代型の原子炉の建設の検討を指示し、新増設はしないという従来までの方針を転換した。背景には、ロシアのウクライナ侵攻にともなう、原油高がある。日本は、エネルギー資源が乏しく、また今後のDX社会を見据えれば、経済成長にはエネルギーと電力の安定供給は不可欠だ。海外政府の動向を見ても、反原発世論が強く、原発を停止させることを決めていたドイツでさえ見直しの動きが加速している。

 では、日本のエネルギー政策は、どうなっていくのがベストなのか。大手全国紙(朝日、読売、産経、毎日)の社説から、読み解いていきたい。

朝日、毎日は依然と原発稼働反対の意見を曲げず

 まず、朝日新聞だ。

 立憲民主党が新執行部になって動き出したときにも「防衛力の抜本的強化や原発の新増設など、岸田政権が安全保障やエネルギー政策の転換に動き出した今、野党による行政監視の重みは一層増している」(8月30日)などとして、「原発」というテーマでない社説のときもわざわざ俎上に上げることなどから考えても、原発への否定的なニュアンスが随所に見られている。

 直近の原発政策そのものを扱った「原発政策の転換 依存の長期化は許されない」(8月26日)の社説では、「脱炭素の加速化や、ロシアのウクライナ侵略に伴うエネルギー不安を前に、電力の安定供給策の検討は必要」だが、「原発依存を長引かせ、深める選択はやめる」よう求めている。「即座にゼロにはできないとしても、原発に頼らない社会を着実に実現していく」としているところから、即ゼロにはできないことはわかっているようだ。

 原発リスクとして、(1)放射能が十分に下がるまでに数万~10万年かかる高レベルの放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないこと、(2)地震や津波、噴火などが頻発する国土への立地は、他国と比べ高いリスクがあることの2点をあげている。

 同じく原発の稼働に否定的なのが、毎日新聞だ。

 5月8日の社説では、「太陽光や風力は、どこにでもふんだんにある。それらを活用すれば、エネルギーを他国に依存するリスクを回避できる」という橘川武郎・国際大副学長の発言を引用しつつ、再エネ拡大を主張しているが、同社説内では「高性能蓄電池の開発や、供給量不足を補う手段の確保など、技術革新も欠かせない」としていて、現時点でそれが不可能なことも愚直に吐露している。

 原発活用に反対する根拠として、(1)核のごみ問題が解決されていない、(2)「ウクライナ侵攻では、原発が武力攻撃を受けるリスクも明らかになった」として、武力攻撃を受けるリスクをあげている。

各紙とも原発への武力攻撃は重大なリスクと認識

 読売、産経、日経は、原発の活用に賛成している。

 読売(6月3日)に「ロシアのウクライナ侵略で、国のエネルギー戦略が問われている。安定的な電源確保に向け、原子力発電所の再稼働を着実に進めるべき」とはっきり述べている。毎日が活用せよと叫ぶ再生可能エネルギーについては「太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候に左右されやすい」と指摘した。

 また、毎日新聞がリスクとしてあげている原発への武力攻撃について、「原子力施設への攻撃は取り返しのつかない大惨事を招きかねない。人類と文明社会に対する許しがたい暴挙である」「人道に対する犯罪」(読売・3月5日)と強く批判、「原発の安全維持には、戦闘停止とロシアによる制圧の解除が不可欠だ。ウクライナやIAEA、各国の専門家が管理し、原発が戦闘の影響を受けていないかどうかを点検、監視する必要がある」(読売・3月5日)と解決策を述べているが、これにはロシアの協力が前提となる。

 産経新聞(8月30日)もロシアの原子力発電所の不法占拠に怒りを隠していない。「(ザポロジエ)原発や周辺への着弾が続く中、一時的ではあったが、8月25日には外部電源喪失という非常事態が発生した。非常用ディーゼル発電機の起動で事なきを得たものの、背筋が寒くなる」とした上で、「国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長らによるザポロジエ原発の現状確認が急がれる。中立的な調査を通じて、原発からのロシア軍の退去を促す道筋をつけてもらいたい」とした。

原発活用のネックは「地元の同意」と「厳しすぎる原子力規制委」

 産経(8月25日)は、「原発・エネルギー政策の大きな転換だ。政府は電力の安定供給のため、今後も原発活用を着実に進めてもらいたい」として、岸田首相の方針転換を歓迎している。

 「これまで国内では、規制委の安全審査に合格して10基の原発が再稼働を果たしている。ただ、これらはすべて西日本に位置し、原発が稼働していない東日本では電力不足が深刻化している。政府が早期の追加再稼働を主導し、電力の安定供給に努めてほしい」と指摘。「原子力規制委員会の安全審査に合格しながら、地元の同意が得られていない原発」について、政府が前面に立って理解を求めろと主張している。産経は、原発の安全への懸念については、朝日や毎日のように社説において言及はなかった。安全については、規制委員会の安全審査が担保する前提であるように読み取れる。

 読売は、その規制委員会の安全審査が厳しすぎると主張している。社説(6月3日)において、原発再稼働が遅々として進まない現状に苛立ちのような雰囲気も漂わせていて、安全審査が9年にも及んでいる北海道電力泊原発の例をあげて、「再稼働が進まない背景には、原子力規制委員会による安全審査がはかどらないことがある」と断罪している。

いま求められるのは原発リスク低減の方法論を確立すること

 ここまでの話をいったんまとめてみたい。

 原発のリスクは、「最終処分場がない」「武力攻撃に対応できない」「地震大国の日本では危険」というものだ。そして、現状で、原発の活用を邪魔しているのは、「厳しすぎる原子力規制委員会」と「地元の同意」だ。

 現在、日本の抱える原発問題が何かを顕在化できたように思う。では、どうするかだ。

 使用済み核燃料の地層処分の候補地選定を急がねばならないのは当然だが、これについては原発を即ゼロにしたところで、これまでにできた使用済み核燃料をどうするかについて、同じ問題が起きる。原発を動かすか否かの議論に組み入れるべきではない。

 地震対策については、規制委員会の安全審査にまずは委ねるべきであろう。東日本大震災当時と比べて、現在の日本の原発は、世界ではありえないぐらいのレベルの安全対策をしている。

 武力攻撃、テロ対策については、完璧な対応ができないのは事実だ。今後もこのことが争点になっていくのは間違いない。そもそもウクライナでは、15基中7基の原発が稼働しており、発電量の約7割を原発が賄っている(5月12日時点)。戦争でエネルギー供給がままならなくなっても原発が頼りにされている現状がある。

 長岡技術科学大学の山形浩史教授は、NHKの取材に対し「攻撃に対してできるだけ被害を抑える有効な方法は、国の命令で原発を緊急停止させること。緊急停止の手順や誰が対応するのかなど、日頃から国や電力会社、自衛隊などが連携して訓練を行い、備えておくべき」(6月22日)と指摘している。現実的に、原発を動かす前提であれば、求められるのはリスク低減の方法論を確立していくことだろう。

 温暖化ガス削減とエネルギー安定供給を両立させるうえで、原発の役割は無視できない。一方で、東京電力福島第1原発事故以来、原発への国民世論が厳しいのも事実だ。原発がなぜ必要なのか。代替手段があるならどう確保するのか。政府は、エネルギー・電力政策について競争から安定供給に重点をおいた政策に早急に見直し、中長期的視点にたって国民を説得すべきだ。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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