「接種した自衛隊員400人死亡」などデマ拡散…”反ワクチンデマ”拡散するインフルエンサーより信じるべきものは

またお前か…デマを拡散する “反ワク・インフルエンサー”
このところ、新型コロナウイルスワクチンに関するデマへの「指摘」が目立つようになってきた。10月24日には、ファイザー社に関する誤情報に言及したニュースがあった。同社サイトにアクセスできないことに気付き、日本法人の入るビルの看板がリニューアルに伴って外されていることに関連付けた一部の界隈(かいわい)が「逃げた」などと騒ぎ、同社が否定する事態となった。
続けざま「接種した自衛隊員のうち400人が接種後に死亡」という情報が拡散され、防衛省がそれを否定。同月27日には河野太郎デジタル担当相が「反ワクって本当に懲りないね」とツイートするなど話題になっていた。
まさにその通りで、この手のデマを流すのは決まって「反ワクチン派」と呼ばれる人々だ。
まず、反ワクチンの定義を考えたい。端的に言えば接種に反対する勢力。詳しく言えば、ワクチンを危険なものとして他人の接種までも妨害し、ネガティブな情報を発して人々を不安にする有象無象の活動家だろう。実社会では駅前などのアジテーションの場面をまれに目撃するのみなのだが、なぜかネット上では強い地盤を持っていることが多い。
筆者は医療関係者でも科学者でもなく専門知識もないが、ツイッター上での陰謀論やワクチンデマを流す界隈の観察だけはずっと続けてきた。明らかな誤情報で盛り上がるそんな一群の中心には、数万フォロワー以上も抱える「反ワクチン・インフルエンサー」がいることを把握している。
そのため、真偽不明な投稿を見ても「こいつが言うならデマだろう」と予測を立ててから内容を精査できるようになった。もはや「またお前か」で済ませて調べる必要性すら感じないことも多い。
もちろん決めつけはよくないが、フォロワー数に反比例して発信する情報の精度が極めて低いのがそうしたアカウントの特徴だ。その投稿のほとんどはデマやミスリード、そして扇動ばかり。主張することは自由かもしれないが、なぜ社会の害になるような活動に勤しんでいるのか理解に苦しむ。
陰謀論は微笑みながら無視しよう
今、これと同じことを巷の記者たちも感じているのではないか。冒頭のようなワクチンデマを取り上げる記事をよく見かける現状を分析すれば、「バズフィード」「ねとらぼ」などの有名ネットメディアが、おなじみのアカウントや配信者らを把握した上で狙い撃ちしていると推察できる。最近では「日本ファクトチェックセンター」なる組織も登場した。ネット上のデマをテーマにして、それに対抗しようとする潮流は大いに歓迎したい。
ただ、そうした報道の力ではデマの蔓延(まんえん)を全ては食い止められない。人の数だけ発信はあり「こんな情報もある」と、アカウントの拡散力の強さだけで信用してしまう人もいる。その中でも個人的に心配しているのが「ワクチン慎重派」のことだ。実は筆者が反ワクチンに対して批判的な投稿をすると、「慎重派」を自称する人たちから「接種しない人は悪いのか」「未接種者への差別では」のような抗議のメッセージがよく寄せられる。
もちろん悪いのは不確かな情報で人を不安にする者たちだ。なのに、被害妄想とまで言っては失礼だが、なぜ「慎重派」の人たちは、反ワクチンへの批判に過剰反応してしまうのだろうか。
それはつまり、慎重派は、反ワクチン側からもたらされる情報を「慎重に考えること」の補強に使っている自覚があるのではないだろうかと考える。そうした慎重派の方々の投稿を確認しにいくと、やはり反ワクチンの発信に加担していて、社会との温度差に苦しんだり嘆いたりしているケースが多いように感じる。
接種は任意で、個人の判断は尊重されるべきだ。接種するかしないかでマイノリティになっても、責められていいはずがない。しかしその判断をするときに誤った情報を受け入れ、ましてや他者にまで伝えていれば話は別である。
さて、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まってからというもの、筆者は「危険だ」と主張をする人たちに、その根拠を尋ね続けてきた。彼らは決まってネット上の怪しげな情報を誇示し、「直感で」「辻褄(つじつま)が合うから」などと言いがちだ。それなら、様々なデータからワクチンに効果があるとしても辻褄が合うだろうに、その事実からは目をそらす。
そうした人はまた、体制側からもたらされたものに不信感があって拒絶しがちなことも分かってきた。彼らが「自分の頭で考えて」などと訴えているのもよく目にする。しかし、公的機関からの情報を受け入れることが即ち「自分の頭で考えていない」ことにはならない。
公衆衛生の知の結集であるワクチン接種においては、公からの情報を信じることが合理的なのは疑いようがないのだ。医療・健康情報に限らず、人々の暮らしに必要な気象や防災などの情報も「集合知」によるものであって、そこには人々を守る義務がある公としての知見が必ずある。
これは至ってシンプルな論理で、既に多方面からの考えが尽くされて最良である可能性が高い選択肢だ。もちろん個人的な事情と照らし合わせて判断するのがベストにせよ、鵜吞(うの)みにしても全く恥ではない。国や厚労省が何らかの悪意を持っているとの主張は単なる「陰謀論」なので微笑みながらスルーしていい。
それでも公が間違っているとするなら、説得力のあるものを提示して覆す必要がある。確固たる反対の根拠があったとしたら、しっかり研究して論文にするなりの手順を踏むことがいくらでもできるはずだ。しかしここまでの期間、いわゆる反ワクチン側からそうした言説が示されることは、ほぼなかったと言える。ネット上で感情的に煽(あお)る手口だけで怒ったり勝ち誇ったりしても、ファクトチェックで弾かれて終わりである。
“反ワクチン” は接種希望者の邪魔をするな
ワクチンに関しては、賛成派と反対派が真っ二つで対立しているわけでもない。そもそも反ワクチン派はごく少数のノイジーマイノリティだ。その思想にも濃淡があって、反省できる人もいると思うので、彼らの言説が信用されない理由を考えてはどうだろう。
肌感覚だけの主張は論外だし、ワクチンのリスクとベネフィットについて理解せずに「一人の副反応被害者も出してはならない」という「0か100か」の考え方に陥っていなかったか。
どこの誰が作ったかも分からない画像や動画を広め、奇天烈な医者や謎の科学者をやけに担ぎ上げてセミナーや講演会を開き、陰謀論を広めて勝手に危険性を導き出して「みんな気付いていない」「自分は目覚めた」などと一方的に勝利宣言する浅はかさがなかったか。
副反応の恐怖を煽(あお)り、逆効果との噂をゴリ押ししたいのか、最近のワクチンデマの主流になっているのが、「超過死亡数、帯状疱疹(ほうしん)の増加」であろう。もちろん、どちらもワクチンとの因果関係は証明されていない。
「命の危険がある」「健康被害も出ている」と言いたいのだろうが、そこでも矛盾が生じている。このコロナ禍にあっては、ワクチンを打たない方が健康リスクが高いとのデータは出揃ってきている。それらを信じないのも無視するのも別に構わないが、ただ打とうと思っている人の判断の邪魔だけはしないでいただきたい。
第8波への警戒感も高まり、季節性インフルエンザが同時流行する可能性もあるそうだ。依然として感染予防の一環として、ワクチン接種は推奨される。医療従事者や専門家だって、特異な人たちを論破することばかりに時間を割いてはいられないので、ワクチンに関して誤った情報が拡散されてしまうことは今後もあるだろう。どうか不安に思ったときには、より公的な情報の方を参照してほしい。