菅直人<脱原発>政権を支えた元環境相がたどり着いた「原発再稼働」細野 豪志

小倉健一
公開)
原発再稼働細野元環境相インタビュー

自民党二階派に所属する細野豪志元環境大臣が歩んできたキャリアが面白い。3.11の東日本大震災時には、内閣総理大臣補佐官として菅直人政権を支えていた。その後、原発事故担当大臣として東電に常駐しながら事故対応にあたり、その年に、環境大臣に就任。自然エネルギーの推進を図りながら、原発再稼働に向けて、当該地域の知事への説得役も担っている。そして、紆余曲折あって自民党へ入党した。

2022年に入ってからも、地震などが起こるたびに電力需給が逼迫する状況が多発している。日本経済新聞社の世論調査では、「再稼働を進めるべきだ」とする意見が53%で、2021年の調査よりも7%上回っていた。

世論も原発再稼働を求めている中、原発処理を担当した大臣として、自然エネルギーを推進する立場にあった環境大臣経験者として、現在の日本の抱えるエネルギー問題について、イトモス研究所所長・小倉健一氏がインタビューしたー-。

細野 豪志(ほその ごうし)

昭和46年8月21日生まれ、滋賀県出身。京都大学法学部卒業。三和総合研究所研究員 (現三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング)。環境大臣、内閣府特命担当大臣(原子力発電所事故再発防止・収束)、総理大臣補佐官などを歴任。

現場への「感謝・激励」を忘れた、菅直人の自分勝手

ーーーはじめまして。細野元環境相は、自然エネルギーを推進し、また、原発事故対応と3.11後の原発再稼働を担ってきました。原発事故発災当時、民主党政権は東京電力に対して厳しい姿勢で臨んでいた印象があります。世論が背景にあったとはいえ、少々、やりすぎではなかったのでしょうか。

与党にも、政権内部にも、東電バッシングを容認するような空気があったのは確かです。ただ、私は東電本店に常駐して、現場の職員とも接していました。彼らは「自分たちの起こした事故だから自分たちでなんとかしなくてはいけない」という意識が強くあり、私はそんな現場の強い思いを支える選択肢しかありませんでした。東京電力福島第1原子力発電所の所長として原発事故の収束作業を現場で指揮した吉田昌郎さんとも密にコミュニケーションをとっていました。目の前の事故のエスカレートをなんとか避けようとすることで政府と東電は一体になっていました。

事故発災から一年、東電の経営状況はものすごく厳しいものになっていきましたが、その東電に、コンクリートポンプ車を購入してもらったり、水の処理をしたりと、「政府からの指示」に近い形で、事故処理に向けてあらゆる可能性を探ってもらいました。悪化する東電の経営をサポートすべく、金融機関にバックアップをお願いしましたし、綱渡りの経営においても社員の給料を下げないよう経営者に働きかけました。

ーーー2011年3月15日朝5時半、菅直人首相(当時)が東電本店に乗り込んで、3時間滞在。東電社員を前に「テレビで爆発が放映されているのに、官邸には連絡がなかった。一体どうなっているんだ」と不満を爆発させています。迷惑だと思わなかったのでしょうか。

今でも印象に残っているぐらいの強い口調で「あなたたちしかいない。撤退など有り得ない。覚悟を決めてください」と菅首相は話していました。もし、菅首相が東電の幹部だけに、この言葉を発したならよかったのだと思います。確かに、東電幹部は菅首相の厳しい言葉にピリッとなっていました。緊張感を与えたのは間違いない。

問題は、幹部だけでなく、現場で不眠不休で奮闘する職員にまでこの言葉が発せられてしまったことです。また話をしていた位置も、現場の人間にお尻を向けるような形になってしまっていました。

当たり前のことですが、幹部へ怒りを伝える前に、まずは、現場への感謝、そして激励があるべきでした。当時の菅首相の立場からすれば、東電が事故の原因をつくったと思っていたでしょう。菅首相ともう少しコミュニーケーションをとっていれば話し方、伝え方を調整できたのではないかという反省はあります。

「法律的には再稼働できるが、政治的にできない」

ーーー菅内閣が退陣し、野田佳彦内閣が誕生、細野さんは、環境大臣に就任しました。ここで持ち上がったのが「原発ゼロ」政策です。新しい原発はつくらず、フェードアウトさせていく政策です。細野環境大臣は、原発政策にどのような立場だったのですか。

原発事故の直後でしたから、新しく原発をつくることは、とてもではないけどできない状態でした。「フェードアウトやむなし」とメディア、与野党、世論の誰もが考えたのです。ただ、私は「いつまでにフェードアウト」と、期限を区切るのはおかしいと思っていました。政権として「30年以内にフェードアウト」ということになるのですが、現実的にそれができるかは当時でも相当に不透明な状況でした。国家がギャンブルのような政策をするのは良くないことです。そこで期限を区切ることに反対しました。

2012年に入ると、電力需要の逼迫が大問題になっていきました。震災直後で原発再稼働には、大きな批判が出るのは分かっていましたが、夏になってブラックアウト(大停電)することはなんとしても避けなくてはなりません。政権内で、原発事故処理がいかに大変かを知っていたのは、私でしたので、大飯原発の再稼働をすべく、私が関西の首長たちへ説得に回ることになりました。

ーーー2012年当時の関西の首長といえば、橋下徹大阪市長(当時)ですね。当時、橋下市長は、「原発の依存度を下げるべきだ」(自然エネルギー協議会)と発言したり、関西電力にも厳しい姿勢で臨んでいます。LNGを使った発電効率の良い新型の火力発電所を「脱原発依存の要」と位置付けるなど、原発に代わる電力供給源を探し歩いていました。そんな橋下市長に、どう説得を試みたのですか。

当時の関電は、原子力の依存度が高く、大飯原発を再稼働せずに火力だけに頼ると、電力需要に追いつかず、夏にブラックアウト(大停電)してしまうリスクがあった。このことは、非常にはっきりした数字で出ていました。そして、当時は原子力規制委員会が存在せず、「法律上は再稼働できるけど、政治的に再稼働できない」状況でした。

橋下さんが世論に与える影響は大きく、原発依存に反対していることも知っていました。しかし、橋下さんは物事を決めたらきっちりやり切ることができる人です。科学的には安全であるがどの自治体も受け入れを拒んでいた「被災地のがれき処理」も、東京の石原慎太郎知事、そして大阪の橋下さんが真っ先に手をあげてくれた。世論の反発を受けることも厭わない姿に感銘を受けました。

橋下徹の説得には「義」より「理」を尽くした

橋下さんを説得するには「義を尽くす」というよりも「理を尽くす」ことが大事だということです。はじめてお話をしにいったときには、凄まじい勢いで反対されましたが、その後でこちらの用意した資料を読み込んでいただいたのでしょう。2回目の話し合いでは「暫定的基準として認める」と再稼働へ向けて動いてくれました。

ーーー世論の反発を受けてまで原発再稼働の最前線に立っていたのはなぜなのですか。

気持ちとしては、原発事故対応で、政治家としては一回死んだと思っています。世論から厳しい視線が注がれているのはよく理解していましたし、何かあれば、私が責任をとらなくてはいけなかった。正直に告白すると、2012年当時、原発の再稼働になど関わりたくなかった。しかし、関西の首長に対して、説明ができるのは政権内で私しかいなかった。安全面でも何がクリティカルなポイントなのかを分かっていましたから。


世論を恐れず仕事をするという意味では、菅義偉前首相が「処理水の処分は、福島第一原発の廃炉を進めるにあたって、避けては通れない課題だ。基準をはるかに上回る安全性を確保し、政府をあげて風評対策の徹底をすることを前提に、海洋放出が現実的と判断した」と述べられましたが、これは英断でした。誰かがやらなくてはいけないことは、やらなくてはいけない。世論の交通整理だけが政治家の仕事ではない。「世論が賛成なら、私も賛成。世論が反対なら私も反対」では、政治家は要らない。その世論が違う方向に流れていきそうなときに、「ちょっと違うのではないか」と踏ん張り、説得していくのが政治家の使命なのだと思います。

ジワジワ上がる電気代…高騰を防ぐには再稼働しかない

細野豪志

細野 豪志氏(撮影:小倉健一)

ーーー現在にも通じる話ですが、災害の頻発する日本列島において原子力発電所を再稼働することに安全面での心配はなかったのでしょうか。安全面の備えは、きちんとしていかなくてはいけません。ただし、日本という資源がない国にとって、エネルギー供給が厳しくなってきている現状は国家的危機と捉える必要があります。

電気代は高騰しています。生活困窮者が真夏にクーラーを切って、熱中症で体調を崩し、さらには死に至るリスクがあります。また、産業面でのリスクもあります。電気代の高止まりは、日本経済の競争力を奪っていくものです。競争力を失えば、国は貧しくなります。

原発にリスクはありますが、現在の原発が守っている安全基準から考えれば、原発はリスクの低い発電方法だと思っています。電気代の高騰を防ぐには再稼働しかありません。

ーーー震災前まで、原子力保安院という経産省内部の機関が、原発の安全性を管理していました。震災後に新設された原子力規制委員会は、政治的に高い独立性を持った「三条委員会」です(「三条委員会」とは、日本大百科全書によれば、<一般に行政委員会とよばれ、府省の大臣などからの指揮や監督を受けず、独立して権限を行使することができる合議制の機関。国の行政機関の名称や機構などを定めた国家行政組織法第3条に規定されているため、三条委員会とよばれる>)。 

エネルギーの安定供給において、政府の責任は重いです。現在のエネルギー政策の問題は、先が見通せないこと。将来がわからないので、具体的なエネルギー政策が立てられません。具体性がないとすべては「絵に描いた餅」になってしまう。政府として、原子力規制委員会の独立性は尊重しながらも、言うべきことは言わなければなりません。

私たちは次の段階へと進んでもいい

ーーー規制委員会は、原発を「特定重大事故等対処施設」として、「故意による航空機衝突」などのテロ対策を求めています。再稼働の条件とされているのが「3つのS」です。これらは「セキュリティ」「セーフティ」「セーフガード」の頭文字の「S」を示します。

「セーフティ」については、震災を受けて、日本の安全基準は世界でも類をみないレベルまで高めています。例えば、「津波がくる」という想定も個別かつ具体的に対策が施されています。ここについては問題はない。

「セーフガード」とは、核不拡散の話です。これも、日本は核兵器をつくることはありませんから、優等生と言ってもいい。

問題は、「セキュリティ」です。「特定重大事故等対処施設」として「故意による航空機衝突」などのテロ対策を求められています。具体的には原発施設内の「中央制御室が破壊」されても外で遠隔操作ができることです。場所によっては1000億円もの費用がかかり、これが一番のネックになっています。

しかし、考えてみてください。飛行機が突っ込んでくるレベルの国家的危機の対応を原発にだけ求めるのは、本来おかしな話なのです。もし、官邸に突っ込んできたらどうするのか。変電所、送電線を破壊するテロに対応しなくていいのか、など、国全体でテロ対策は進めていくべきです。

3.11以後も、規制委員会ができるまではこの「セキュリティ」は軽視されていました。ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機下で、「セキュリティ」に関する条件の適用時期を猶予することを検討しても良いのではないかと思っています。

ーーー規制委員会が再稼働を止めているという状況なのですね。

規制委員会が止めているというか、委員会発足当初の議論を積み上げてきているということなのでしょう。これまでの規制委員会の指摘によって、日本の原発が世界で一番災害に強いものになったのは事実です。規制委員会は「原発をなくすこと」が目的ではなく、「安全に動かす」ことが目的です。それにあたって、事業者ともコミュニケーションをとることが必要になります。震災からもう10年以上が経ちました。私たちは次の段階へと進んでもいいのではないでしょうか。少なくとも、津波・地震などの災害対策と、テロ、戦争対策を同列に論じるのはいかがなものかと思っています。

今起きているこのエネルギー危機を解決する策は、原発再稼働しかありません。ブラックアウト(大規模停電)リスク、産業リスク、低所得者がエアコンを切ることによる熱中症、健康リスクなど、一刻も早いエネルギーの安定供給を図るべきです。今すぐにやれることは、「原発再稼働一択」といって過言ではありません。

小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact/

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