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混乱続ける世界経済…プーチンが戦争を辞めるための条件

100日経過しても攻めきれないロシア

ロシア軍がウクライナへの侵攻を始めてから6月3日で100日になった。ロシアへの制裁が強化される中、ロシア軍はウクライナでゆっくりと、しかし実質的な前進を遂げている。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシア軍は現在、同国の約20%を支配している」と述べた。続けて「北東部のハリコフから南部の黒海に近いミコライフの郊外まで、およそ620マイルに及ぶ前線で戦闘が続いている」と指摘した。

ロシアのプーチン大統領は、ロシア軍が紛争初期に首都キエフの占領に失敗した後、ロシアと国境を接する重工業地帯であるドンバス地方を軍事作戦の焦点にしている。この作戦の変更は、ウクライナ軍の奮闘の結果、ロシアがウクライナの防空システムを破壊することができなかったことが原因だと多くの有識者から指摘がされている。ロシア軍は航空優勢(制空権)は獲得できなかった結果、ウクライナのドローンが自由自在に飛び回り、ロシア軍の攻勢を完膚なきまでに叩き潰したのだ。

ウクライナ侵攻をめぐっては「ロシアには数があったが、ウクライナには、適応的な指揮スタイルと戦術があった」という教訓が生まれた。ウクライナの現場指揮官には、ロシア軍よりもはるかに多くの意思決定権が与えられ、「高い士気と地元の知識」で勝利を収めたのだ。

ロシアの戦術的成功で対応を軟化させるNATO諸国

敗走に敗走を重ねたロシアであるが、戦争の第2段階において、誘導ミサイルや無誘導ミサイルの攻撃を支援するために航空戦力を展開した。ロシア軍は、電撃戦を行わず、砲撃などの遠距離攻撃を行う伝統的なドクトリンに戻っているという。当てずっぽうに思えるぐらいにミサイルを撃ちまくり、相手が弱体化したところへ地上部隊が進出していくのだ。

英国情報機関の報告書では、最近のロシア軍の攻勢について「忍び寄る前進」と呼ばれるようになった。同報告書では「空爆と砲撃の併用は、この地域におけるロシアの最近の戦術的成功」が作戦の重要な要因であると述べられている。

この「忍び寄る前進」の成功によって、ロシアは「遅かれ早かれ、アメリカやヨーロッパはウクライナへの援助に飽きるだろう」と強気の姿勢を見せているという(BBC・6月3日)。今年3月には、プーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼び、ロシアの政権交代の必要性を示唆したバイデン大統領だが、「ロシアを攻撃できる」ロケットシステムを送ることはしないとした。

米国のベテラン外交官であるキッシンジャー氏がダボス会議で、「ウクライナはロシアとの和平のために領土の割譲を検討すべきだと提案した」ことも記憶に新しい。「(再び隣国に侵略できない程度まで)ロシアが弱体化することを望む」と発言したオースティン国防長官はその後、ショイグ露国防相と電話会談を実施し、対話を模索し始めている。

ブリンケン国務長官が「ウクライナがロシアの侵略を退け、独立と主権を完全に守れるよう、戦場でも交渉の場でも、できる限り強い手を与えることに集中する」としたが、この「できる限り強い手」という言葉の具体的中身は「ウクライナの望むような強力な武器」でないことは明白であろう。

今後も、ウクライナが負けないまでも、勝ちすぎない程度の武器供与と外交努力が続けられていくということだ。戦争の長期化は避けられない。

強硬になるロシア国内。プーチンの高笑いが聞こえてくる

対するロシア国内だ。ロシア国内ではウクライナ侵攻を正当化するプロパガンダに成功し、高い支持率を維持している。

ロシアのラブロフ外相は6月4日、インタビューで「現在の国際的なエネルギー価格の水準を考慮すると、われわれが予算上の損失を被ることはない。逆に今年は、エネルギー資源の輸出による利益が大幅に増えそうだ」と述べた。

萩生田光一経済産業大臣が「サハリンの権益を手放すとロシアの利益になる」としたが、実際に、そうなのであろう。中国とインドがロシア産の原油の購入をしており、エネルギーに関して、制裁はあまり意味をなしていないことがわかる。今日本がサハリンの権益を手放したところで、ロシアは痛くも痒くもない。むしろ、日本企業が権利を手放せば、より利益を得ることになる。

ロシア経済は、欧州向けの石油・ガス販売による1日8億ドル以上の収入に支えられていて、表面的には安定している。中央銀行が輸出企業にハードカレンシー収入の8割を売却させる政策により、ルーブルの大暴落を防いだ。経済制裁による「ロシアへの短期的な打撃」は、あまり与えられなかった模様だ。

しかし、部品や材料をほぼ輸入に頼っているロシアの製造業は、制裁によって輸入がストップし、深刻な供給不足に悩まされている。厳しい経済制裁の効果がこれからジワジワと、しかし明確に出てくる。

政治家は「ウクライナ全土を完全に解放し、非軍事化し、非国有化しない間は、どうにもならない」(ロシア下院のピョートル・トルストイ副議長・朝日新聞・6月5日)と強硬発言が続いているものの、相変わらず、現場の士気は低い。ウクライナ行きを拒否した兵士が続出し、徴兵手続きのための入隊事務所で放火事件が相次いでいるといった報道が国内外で続いている。侵攻が長期化するほどに兵士の不満はさらに高まる。

この戦争はいつ終わるのか

ここまで各国の現在の動きを追ってきたが、今後の焦点は、2つある。

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