FPが暴露「なぜFPはいらない投資商品を押し売りするのか」…資産8千万60代女性「外国株投信を薦められました」

「人生100年時代」ということで、各金融機関による資産運用商品の売り込みが盛んな昨今。だが、そもそもこうした商品を購入する必要がない人もいる。今回は、相談したFPたちに金融商品を盛んに勧められているものの、「リスクを取った資産運用はしたくない」と相談に来た60歳代の女性のケースをご紹介しましょう。
*ご相談が必ず回答されるとは限りません。編集部と深野さんが実際に回答する答えを選びます。
すべてのFPが「顧客利益の最大化」を考えているわけではない
筆者のところにはファイナンシャルプランナー(FP)に相談に行ったものの、アドバイスに納得できなかったことから、改めて相談に来られる人が意外と多いです。余談ですが、筆者が所属する日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会)の全国資格認定者は約18万7000人。そのうちFP事務所・士業事務所に属している人数は7%に過ぎないのですから仕方ないのかもしれません。大多数は企業系FPなので「顧客利益の最大化」を目指すよりも、所属する企業の利益を最大化するアドバイスになっている可能性があるからです。でなければ筆者のところにセカンドオピニオンではなく、改めて相談に来るケースは少ないはずですから。
話がややそれてしまいましたが、複数のFPに相談(金融機関に属するFPらしい)したものの、納得する回答が得られなかった木下さん(仮名)のケースをご紹介しましょう。
肉親は姉ひとり…心穏やかに余生を過ごしたい木下さんは投資商品に手を出すべきか?
木下さんは10年近く前にご主人を亡くされた60代前半の女性。子どもはなく、身内は5歳違いの姉が1人いるだけです。既にリタイアされており、収入は遺族年金と自身の公的年金のみ。慎ましやかに生活されていることから、毎月の家計収支は数万円の黒字です。若いときに海外を含めてさまざまな地へ旅行したことから、旅行に行くことも年に1~2回あるかないか。本人曰く「物欲が無いため買いたいものがあるわけでもなく、とにかく心穏やかにストレスなく過ごすことができればよい」というのが希望でした。
金融資産は約8000万円保有されているものの、投資などを行おうとは考えていないそう。にもかかわらず「先日相談に行ったFPは、資産寿命を延ばすためと言って変額個人年金保険を進めてきたり、物価の上昇に負けないようにするため外国の株式で運用する投資信託を持ちましょう等々、次々に元本が保証されていない投資商品を勧めてくる」とボヤいて、ため息をつかれていたのを思い出します。
木下さんの相談内容を聞くと「リスクを取って資産運用でストレスを貯めるくらいなら、リスクを取った運用はしたくない。物価の上昇と同程度の収益が上がらなくても構わない。物価の上昇が続き、購買力が低下しても人生100年時代に対応した生活はできますよね?」というものでした。
以下が木下さんに回答した筆者のアドバイスのあらましになります。
木下さんは購買力の低下を心配されているものの、身内がお姉さん1人ですから、万が一お姉さんより早く亡くなれば、残った資産はお姉さんに相続されるものの、順番から言えばお姉さんが先に亡くなるはずです。お姉さんが先に亡くなると相続人は誰もいないのですから、残った資産は国庫に納めることになります。そこで「国庫に納めるのはもったいないですから、なるべく金融資産は使い切りましょう」とまずはアドバイス。
資産を増やす運用をしてしまうと資産を使い切れない可能性が高くなります。しかも木下さんは「リスクを取った運用はしたくない」「購買力が低下しても心穏やかに過ごせるなら構わない」と話されているのですから、物価が上昇して保有する金融資産を取り崩しても、人生100年時代すなわち100歳前後まで十分に資産を維持できれば何ら問題ありません。
5%のインフレが続いても十分な余裕。最後に残る問題は「使い切れない」資産をどうするか
木下さんの相談時の家計収支は数万円の黒字でしたが、物価が毎年2%ずつ上昇していくと4年目から年間の収支は赤字になります。2%の物価の上昇が木下さんの人生が100歳まで継続した場合、赤字総額は500万~600万円に過ぎませんでした。
同じように3%の上昇、4%の上昇、5%の上昇と上昇率をアップさせて行っても、赤字総額は最大で1500万円程度。上昇率をもっと高くしてもよいのですが、物価が上昇しない状況が四半世紀も続いている日本の物価が5%を超える上昇となり、しかもその状況が30年以上も継続するなんて非現実的です。このためキャッシュフローの試算は物価の上昇5%までで終了しました。
そして木下さんには「物価の上昇が継続しても金融資産から取り崩す金額は最大1500万円。元気なうちに毎年旅行に行くこと、その他医療費などを考慮しても、生活費以外に1500万円くらいを考えておけば十分ではないでしょうか」とお伝えしました。生活費の不足分1500万円、予備費1500万円を差し引いても、金融資産は8000万円もあることから5000万円残ります。家電の買い替えやトイレ(温水洗浄便座)、ガスコンロの入れ替えなどを考えても、100歳の時には4000万円前後は余裕で残るものと考えられます。
以上を木下さんにお伝えすると、木下さんは物価の上昇が継続しても十分、金融資産で賄うことができることに納得され、「前に相談したFPが、何で変額個人年金保険などを勧めてくるのか全く分からない」と述べていたことが印象的でした。
試算結果などから、木下さんはこれからストレスを貯めずに穏やかに過ごすために安全確実な運用に徹したいとのことでしたが、もう1つだけ問題が残ります。現状のまま生活していけば、木下さんがお亡くなりになる時に多額の金融資産が残ってしまうことです。しかも、持ち家(マンション)ですから、自宅も残るのです。木下さんがストレスを貯めてしまうのは良くないものの「これまで頑張ってきたご褒美と思ってお金を使ってください」と伝え、また亡くなられた後に国庫に取られてしまうのは納得できないでしょうから「世の中のために寄付をされてはいかがですか?」ともお話ししました。
ただ万が一、木下さんの生活スタイルが今後、大幅に変化したり、試算で想定した以上の物価の高騰が起こり、金融資産の取り崩しが発生したりするケースもゼロではありません。そこで「生前に行う寄付はほどほどにして、木下さんが亡くなった時に多額の寄付がいくように『遺贈』にされたらいかがですか?」とも付け加えました。木下さんは現在、健康でお元気に過ごされていますから「遺贈を含め寄付に関しては時間をかけて考えてください」と念を押したのは言うまでもありません。