イーロン・マスク「ロケットをロシアに買いに行ってみた」…SFオタクがロケットの設計図を書いてみたら凄かった
諦めが悪い──。イーロン・マスクの性格をよく表した言葉だ。普通であれば聞こえの悪い言葉ではあるが、しかし、諦めが悪いがゆえにイーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業のスペースXは数多くのロケット打ち上げに成功したといっても過言ではない。なぜインターネット分野から「宇宙開発」へビジネス領域を広げたのか? マスクの根底にある「人類を救いたい」という決意に迫る。(第2回/全3回)
※本記事は、桑原晃弥監修・著、ループスプロダクション株式会社著、ちゃぼ(漫画)『マンガでわかる イーロン・マスクの起業と経営』(standards)より抜粋したものです。
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エネルギー資源の枯渇を危惧したマスクは「宇宙開発」参入を決意
欲しいものがないなら自らがつくればよい
人類を救うため、宇宙開発を行うことを決意したマスクだったが、当初は自らロケットをつくるつもりはなかった。既成のロケットを購入し、それを打ち上げようと考えていたのだ。
だが、アメリカのロケット市場を見てみると、ロケット2機で1億3000万ドルと、とてつもない値段がつけられていた。そこでマスクはロシア市場に目を向ける。当時ロシアが所有していた液体燃料式ミサイル「SS-18」は、戦略核兵器削減条約(START)によって処分されようとしていた。マスクはこのミサイルをロケットに転用すれば、すぐに打ち上げられると踏んだ。
いずれ処分されるものなら、アメリカよりも安く、簡単に手に入れられるだろうと見込みを立てた。ロケット科学者のジム・カントレルとマイケル・グリフィン、マスクの友人を迎え、マスクは早速ロシアへ旅立った。
4人は4カ月の間にロシアを3回訪問し、ロシア中を歩き回って数々の企業とロケット購入の交渉を重ねたが、結局何の成果を得ることもできなかった。
当時、マスクはまだ30歳と若かったことから、「火星移住を目指して宇宙開発ビジネスを行う」という、マスクのビジョンを真剣に受け止めてくれる人はいなかったのだ。
それだけではなく、交渉を重ねる度、ロケットの値段をどんどん吊り上げられたという。マスクは打ち上げを失敗したときのために2機は必要だと考えていたが、最終的に1機で2000万ドルを要求された。マスクが出せるのは900万ドルが限度であったため、ロシア軍を通じてどうにか買えないかと交渉を重ねたが、購入の書類にサインする前に大幅に値段を吊り上げられたのだ。こうしたことから、マスクはロシア側を信用できなかったとも話す。
また、実際に莫大な値段でロケットを手に入れても、1機2000万ドルではコストがかかりすぎる。マスクが掲げていた「火星移住」は、人が1人火星に行ければよいというものではなく、多くの人が火星に移住することを意味していたため、地球と火星を何度も往復しなければならないと考えていた。それには、ロケット本体も、打ち上げ費用も、低コストであることが必須条件であったのだ。
マスク一向は、ロケット購入を断念せざるを得なかった。3回目のロシア訪問からの帰り、4人の雰囲気は絶望的なものだったが、そのなかでもマスクは1人、パソコンとにらめっこをしていた。
「低コストでロケットを購入できないのであれば、自分で低コストのロケットをつくればよい」と考えたマスクは、自らロケットの設計図を書いていた。
ロケットに詳しいカントレルやグリフィンと時間をともに過ごし、ロシアでの交渉を重ねるなかで、マスクはロケットに関する知識をぐんぐん吸収した。出来上がった設計図を見たカントレルは、まだ見立てが甘いところはありつつも、おおむね理にかなった設計と、試算に驚きを隠せなかったと話す。
マスクの本気度に俄然やる気になったカントレルは、ロケットエンジンを製造するトム・ミューラーを紹介した。そして、マスク自らがロケットをつくるため、スペースXを立ち上げたのだった。
目標達成に必要なことは何でもやる
マスクのすごさは「誰もやろうとしなかったこと」を、アイデアだけで終わらせてしまうのではなく、実際に形にして成し遂げてしまうところだ。
ロシアで安くて信頼のできるロケットを購入できなかったマスクは、自分でロケットをつくることを決意した。それは無計画にただ願望を口にしたのではなく、現実的な小型ロケットの設計図を作成したうえでの決意だった。
また、NASAは年々膨らむ宇宙開発の費用が問題で、苦渋の決断によりスペースシャトルの打ち上げから退いた。だが、そんなNASAとは裏腹に、マスクは「従来のコストの100分の1でロケットを打ち上げる」と公言し、実際に宇宙業界の常識を覆すような方法で大幅にコスト削減をしている。その破格な値段から、スペースXは世界中から人工衛星の打ち上げ依頼を受注する企業となった。