「会社を辞めてよ」…年収650万、40代会社員を襲った「退職勧奨」への最終防衛策
給料の上がらない時代に「優しい労働環境」などない
「あなたなら、どうする~♪」。人はパニックに陥ると、訳もなく歌うことがある。働き盛りの40代男性会社員Aさん(年収650万円)が歌手・石田あゆみさんの名曲「あなたならどうする」を口笛で表現したのは、夏本番を迎えた頃の昼下がりだった。
「どうでしょう、この辺で環境を変えて、若い人たちに任せてみるというのは」。人事担当者から唐突に与えられたのは、思いがけないプレッシャー。エネルギーに満ちあふれていた20代、30代のような勢いはないものの、業務の経験や知識は重ねてきたはず。上司や部下たちとも自分なりに交流を深めてきた。それがいきなり―。
1997年11月、サッカー・ワールドカップのアジア最終予選。悲願の初出場を賭けたイランとの試合が脳裏をかすめる。後半18分、日本代表を不動のエースとして牽引する「キング・カズ」こと三浦知良選手がまさかの途中交代を告げられたシーンだ。右の人差し指で何度も自らのユニフォームを指し、「えっ、おれ?おれ?」と繰り返す。そして、交代した若手はピッチを駆け回って勝利に貢献し、日本は初のワールドカップ出場権を獲得した。だが、フランス大会の本番直前、岡田武史監督が発表した出場メンバーにカズの名はなく、まさかの「落選」を経験している。
退職勧奨とはいかないまでも、思いもしない人事異動を迫られるサラリーマンには、その心境が痛いほどわかるだろう。成果や効率が重視され、給与がほとんど上がらない時代に労働者を待ち構えるのは、決して「優しい労働環境」とは言えないものだ。
労働者・事業主間の「いじめ・嫌がらせ」は9年連続最多
厚生労働省が2021年6月に公表した「2020年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を見てみよう。労働基準法違反などの疑いがあるもの、法制度の問い合わせといった「総合労働相談件数」は129万782件に上る。13年連続で100万件を超え、高止まりしている状況だ。