「1社年間50万円」の上限撤廃 「特定投資家制度」導入のFUNDINNO・向井CMOに聞く

FUNDINNO執行役員CMO・向井純太郎さん

 2022年1月29日に施行された株式投資型クラウドファンディングに関する法改正では、「1年間で1億円未満」とされている実施企業の有価証券による資金調達額について、他の資金調達との「通算」ではなく、株式投資型クラウドファンディング「単体」で「1億円未満」とすることになったほか、一部投資家に関しては「1社あたり年間50万円」の投資額上限が撤廃されました。

 これを受けて、株式投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「FUNDINNO」を運営するFUNDINNO(東京都品川区)は9月7日、保有資産や年収など一定の条件を満たした個人投資家と法人投資家を「特定投資家」とし、「年間50万円」の上限をなくす新制度の導入を発表しています。

 同社執行役員CMOの向井純太郎さんに、その意義などを聞きました。

英米では「年収」「資産」に応じた上限額

Q. そもそも、なぜ「1社あたり年間50万円」の投資額上限が設けられているのでしょうか。

向井さん「投資家保護の観点からです。これまでは、1人の投資家が1年間で1社に対して投資できる上限は50万円でした。一方で、複数社への投資の累計については、上限は特に決められておらず、当局としては分散投資を推進する意味合いがあったのだと思いますが、今回、一部の特定の投資家に関しては、1社50万円の上限が撤廃されることになりました」

Q. 上限撤廃の意義や業界に与えるインパクトはどのようなものですか。

向井さん「インパクトは大きいと思います。50万円以上の投資ニーズは常に頂いているところです。また、これまでは法人投資家にも上限50万円の制限がありましたが、今回、法人投資家も特定投資家への移行が可能となり、登録も始まっています」

Q. 米国など、日本よりも株式投資型クラウドファンディングの市場規模が大きな国では、どのような規制が行われているのでしょうか。

向井さん「日本に先行して、株式投資型クラウドファンディング市場が広がっている英国や米国では、日本よりも規制が緩くなっています(下表参照)。今回の規制緩和の対象となった投資家の年間投資上限額(銘柄ごと)は英米では上限がなく、その代わり、年間投資額については年収や資産に応じて、上限額が決められています。また、ベンチャー企業側の年間調達上限額に関しても、日本は1億円とかなり低い額であることが分かります」

先行する海外事例

 米国では株式投資型クラウドファンディングで、月に4000万ドル規模の資金調達が実施されている(FUNDINNO注)。

Q. 日本では、今後もこうした規制緩和のトレンドは継続していきますか。

向井さん「そのように考えています。岸田政権下で『新しい資本主義』の計画が進められるなど、スタートアップに関する制度改革が検討されています。投資家保護の観点を念頭に置きつつ、各種規制緩和が進められる可能性は十分にあると考えています」

Q.FUNDINNO」における今回の「特定投資家制度」導入は、投資総額その他において、どの程度の影響があると見ていますか。

向井さん「参加いただく投資家の方が増加することを期待しています。また、特定投資家への移行は法人も可能であるため、法人投資家の参加も期待しています。これまでは法人投資家も50万円の規制があったため、そのニーズを満たすことができず、登録を控える法人投資家もいました」

Q. 法人の、特定投資家への移行条件について教えてください。

向井さん「一定の財務条件や売上高、法人の設立目的が投資や資産管理であること、代表の投資経験などが条件となります。ぜひ一度、お問い合わせください」

Q. 企業側の調達額の規制(1年間で1億円未満)はそのままです。今後、この面での改正も見込まれるでしょうか。

向井さん「企業側の調達金額として、1億円が上限というのはあまりに低すぎる要件ですので、改正を望んでいます」

Q. 企業の調達額に関して、今回の改正では、他の資金調達との「通算」ではなく、株式投資型クラウドファンディング「単体」で「1億円未満」とすることが認められました。これについては、どうお考えですか。例えば、2億円の資金調達ニーズがある企業が、うち1億円の調達を終えており、追加を株式投資型クラウドファンディングで調達する、といったことも可能になります。

向井さん「はい、その通りです。例えば、ベンチャーキャピタル(以下、VC)などから1億円以上を1年以内に調達している会社はそもそも、株式投資型クラウドファンディングが全く使えなかったということです。合算要件が緩和されたことによって、例えば、VCなどから、過去1年以内に既に調達していた分があっても、それとは切り離して、さらに株式投資型クラウドファンディングで1億円調達ということが可能になりました。

 この規制緩和のいいところは、これまでは、VCと株式投資型クラウドファンディングによる『協調投資』がなかなかしづらいという問題があったのですが、両者を切り分けて考えられるようになったことで、今後は協調投資がしやすい環境になりました。これはベンチャー企業にとっては非常に大きなメリットであると考えています。

 例えば、VCから5億円調達した後で『それでもやっぱり1億円足りないから、追加調達したい』となった場合なども、株式投資型クラウドファンディングの仕組みを使うことができるので、比較的自由な調達の枠組みを設計できるようになったと言えるでしょう」

Q. その他、日本における株式投資型クラウドファンディング市場の成長の足かせとなっている規制等があれば教えてください。

向井さん「繰り返しになりますが、資金調達額の上限1億円は厳しい規制だと思います。大事な論点は、投資家保護の観点と開示情報バランスの問題だと考えています。未上場企業が大型の資金調達をする際には、詳細な情報開示を求めていくというのが国のスタンスで、その大型の資金調達の基準が1億円に置かれているのが現状です。 この情報開示のために、未上場企業には、開示ための届け出書類の作成コストと監査法人への報酬支払いが発生します。これらは、やっと調達した1億円から支払うことになるわけです。『新しい資本主義』の政策において、この1億円の基準が適正とする考え方の是非について、改めて検討してほしいと思っています」

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この記事の著者
向井純太郎

株式会社FUNDINNO CMO。日本HP、ライフネット生命などで、エンジニア、プロジェクトマネージャー、WEBマーケティング、カスタマーサクセスを担当し、現在はB2C、B2B問わずマーケティングを専門に。エンジニア出身の広報という変わった経歴。グロービス経営大学院卒業。

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