「僕は貨幣がとっても好き。恋人ぐらい」菊地成孔、「お金」について思うこと…精算機に流し込む作業に快感
サックス奏者、作曲家、文筆家、ラジオDJ、大学講師……と、ジャンルを超えて才能を発揮し、その独特の目線と軽妙洒脱な語り口で、ユニークな表現者として存在感を放ち続ける菊地成孔氏。前回の寄稿では氏による「株」にまつわるエッセイをお届けしたが、今回はさらに大きなテーマで「お金」について思うことを明かしてくれた。
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僕は「お金」について考えたことは全くない
編集部の方から「お金について菊地さん、どうお考えですか?」と聞かれたんで、ちょっと考えてみたら、も~う難しすぎて、本当に目が回ってきたので(新調した老眼鏡の度が合ってないだけかもしれませんが)参っちゃいましたよー。
というか、これ、根源的な質問に対する回答としてあまりにクリシェ(=紋切り型)で、ちょっとお恥ずかしいぐらいなんですが、僕は、お金について、何かこう、「考えている」ことは、考えてみたら、全くありませんでした(笑)。
別に難しい経済理論を振り回そうとか(振り回そうにも振り回せないんですけどね)、僕は公定歩合についても、円の高低についても、イン&デフレーションについても何にも……っていうか、未だにあらゆる「ポイント」について、何もわかっていない所に持ってきて、「電子マネー」って初めて言われた時、「ででででで電子!?君、電子のお金を使ったの? 今!?」と、でっかい声が出たような奴なんで、芸術家に独特の経済観念みたいなものを持っているわけでも何でもないんですよ。
どちらかというと「感じるもの」
「労働の報酬」とか「貯めると資産になる」とか「成功者のパラメーター」とか何とか、それこそクリシェがいっぱいある訳ですが、どれも全くピンと来ません。お金というのは、何かこう、考えるものではなく、どちらかというと「感じるもの」ですね。我ながら相当なバカじゃないかと思う訳ですが(笑)。
というのは、僕は貨幣がものすごい好きです。とっても好き。恋人ぐらい好きかな? でもこれは、儲けたいということでもないですし、180度逆の、古銭マニアだとか、そういう意味でもありません。たった今も、財布の中に入っている、お札や硬貨が、電車が好きな人における電車や、バウムクーヘンが好きな人におけるバウムクーヘン、のように好きなんですね。
フランスでは紙幣で紙タバコを作っていた
「ネットで、紅茶でも飲みながら、楽しいエッセイでも読んで、気分転換しよう」とか思っている方に、吐き気を催させる可能性がゼロではないので気をつけて書きますが(笑)、僕は、お金は食べられると思っています。だって金(きん)は食えますもんね。金塊かじったことあります僕。
例えば最近流行りの新札(あれって、発行されてから数日は、絶対に書いてある額に150円ぐらい乗ってますよね? だから、流行りモンだと思うんです)、あれなんて、海苔の代わりにですよ、ちょいと炭火で炙って、ワサビ巻きなんかに使えると思いますし、実際ね、パリのカフェで、隣のフランス人が、ユーロ紙幣に刻みタバコ盛り上げてね、くるくる丸めて、要するに札で巻きタバコ作ってですね、美味そうに喫ってたんですよ。