「これこそ私の求めていた投資法だ」山崎元氏がもっと信頼した個人投資家が、インデックス投資にたどりついた理由

2002年からインデックス投資を始め、2021年に資産1億円を達成した水瀬ケンイチ氏。水瀬氏はチャート分析、ファンダメンタル分析を経て、「インデックス投資」にたどり着く。経済評論家の故・山崎元氏がもっとも信頼したと言われる水瀬氏は、どのようにインデックス投資にたどり着いたのか。その軌跡を振り返った。全3回中の1回目。
※本著は『彼はそれを「賢者の投資術」と言った 水瀬ケンイチのインデックス投資25年間の道のり全公開』(Gakken)から抜粋、再構成したものです。
第2回:長期的なリターンを逃すのは“売買のタイミングを測る”から……億越え投資家「最後はインデックス投資に帰ってくることになる」
第3回:投資にかけたその時間、無駄じゃないですか?億越え投資家がたどり着いた「手間をかけない投資」の魅力
目次
出会った「古典的名著」
投資をやってみるまで、こんなに時間と手間がかかるなんて思っていなかった。ふつうの会社員でも、みんな働きながらこんなことをやってのけているのか。信じられない。少なくとも、私はこんな生活を続けるのは無理だ。そう考えた私は、いったん企業分析作業をやめた。そして、土日に図書館3~4カ所を車ではしごして、金融・経済の棚をかたっぱしから読んでいった。いまの自分に必要なのは「手間がかからない投資法」だ。
そこにはさまざまな本があった。お金についてだけでなく、当時は目的外ではあったが生きることについて、働くことについて、悩みについて、人間関係についてなど、さまざまな情報を乱読することになった。これら人生における諸事情はお金と密接に関係しているということかもしれない。名著もあれば、どうしようもない本もあったが、このときの乱読は、のちの私の人生において大いに役に立った。
地方の図書館で古い本が多い印象だったが、それが幸いしてか、各分野の古典的名著にたどり着くことができた。そのなかの一冊が、私をインデックス投資に導いてくれた『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキール著)である。
「個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンド・マネージャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックスファンドを買ってじっと持っているほうが、はるかによい結果を生む」
チャート分析・ファンダメンタル分析を“こき下ろす”理由
初見のときはそんなバカなと思った。本書の主張は「インデックスファンドへの投資がベスト」というシンプルなものだが、類書と異なる点は、他の投資法と比較した上でのインデックス投資の利点を、データを示してしっかり論じているところだ。過去のデータを鑑み、アクティブファンドの長期リターンが市場平均を下回ることを証明し、「猿がダーツで選んだポートフォリオを運用するのと等しい」とこき下ろすあたりは、読んでいて明快かつ痛快である。
私が「ダマシ」と格闘していたチャート分析については、明確に否定されていた。 「ダウ理論」などのチャート分析は、過去のデータを元に未来の動きを予測しようとするが、これは自己実現的予言の要素が強く、一時的な効果しかない。 過去の株価パターンに基づいて売買のシグナルを出す「モメンタム戦略」や「移動平均戦略」なども、長期的には市場を出し抜くことができない。 統計的に検証すると、テクニカル分析はコイン投げと変わらないことが示されている。
私がすべての時間を捧げて「織り込み済み」と格闘していたファンダメンタル分析(企業の業績や経済指標を分析して株価を評価する方法)についても、懐疑的だった(特にアクティブファンドには批判的)。ファンダメンタル分析は理論的には合理的に思えるものの、実際には市場平均を上回ることは極めて難しいとしていた。
●証券アナリストの予測精度は低い
企業の財務諸表や業界動向を分析しても、未来の利益を正確に予測することは困難。
●情報はすでに市場に織り込まれている
効率的市場仮説によれば、新しい情報が市場に出るとすぐに価格に反映されるため、個別個別の分析によって市場を出し抜くことはできない。
●アクティブ運用は高コスト
ファンドマネージャーが個別株を選定するアクティブファンドは、手数料や取引コストがかかるため、長期的には市場平均を下回ることが多い。
一方で、「ファンダメンタル分析が完全に無意味とは言い切れない」とも述べていた。市場が完全には効率的でない場合(行動ファイナンスの視点)や、一部の投資家が長期的な視点で優良企業を発掘することには一定の価値があるかもしれないと示唆していた。
しかしながら、私はその「一部の投資家」にはなれなかった。なぜなら、私は投資が仕事でも趣味でもないふつうの会社員なのだ。
インデックス投資なら、業界分析も財務分析も必要ない
『ウォール街のランダム・ウォーカー』におけるインデックス投資の評価は、非常に肯定的だ。バートン・マルキールは、本書を通じて「市場は効率的であり、個別銘柄の売買やファンドマネージャーの運用によって市場を上回ることは困難である」と論じ、その結論として「最も合理的な投資戦略はインデックス投資である」と主張している。
●低コストで高リターン
アクティブ運用はコストが高い → アクティブファンドは頻繁な売買を伴い、手数料・税金・運用コストがかかるため、長期的にはリターンが市場平均を下回ることが多い。
インデックスファンドは低コスト → 市場全体(例:「MSCI ACWI」など全世界株式)に連動するだけなので、ファンドマネージャーの分析や売買が不要で、手数料が抑えられる。
●市場の成長をシンプルに享受できる
市場全体に分散投資することで、特定の企業や業界のリスクを抑えながら、長期的な経済成長の恩恵を受けられる。「市場は長期的に成長する」という前提のもと、時間を味方につけた投資ができる。
●アクティブ運用を上回る成績
多くの研究によると、アクティブファンドの大半(約8~9割)は、長期的にインデックスファンドに負けることが証明されている。
マルキールは、この点をさまざまなデータと研究を引用しながら説明し、「プロのファンドマネージャーでさえ市場に勝てないのだから、個人投資家が勝とうとするのは非合理的である」と主張している。
具体的に何をすればよいか。世界の市場全体に投資する。極論すると、ただインデックスファンドを買ってじっと持っているだけ。
あれだけ時間を捧げていた業界分析や企業の財務分析は一切しなくていい。ファンダメンタル分析とはいったいなんだったのだろうか。銘柄選択だけでなく、なんと投資タイミングも見はからう必要もないという。毎月定時定額を積み立てる「ドルコスト平均法」でいい。チャート分析とはいったいなんだったのだろうか。
──これだ。これこそが、いまの私が求めていた投資法だ!
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▽プロフィール
1973年、東京都生まれ。都内IT企業会社員にして下町の個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を執筆、インデックス投資のバイブル的ブログに。インデックス投資の代名詞となった『ほったらかし投資術』(朝日新書)では、経済評論家の山崎元氏(故人)と共著、ベストセラーに。著書に『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)など。著書の累計部数は55万部突破(電子含む、2025年6月時点)。