50歳代は“住まいを選び直すべき世代”だ──高騰する不動産市場と人生後半の攻略法。その家、まだ住み続けますか?

 「第二次ベビーブーム世代」を取り巻く環境が大きく変わっている。物価は上昇し、税・社会保障負担は重くなり、マンションの管理費や修繕積立金もインフレに押されて上がり続ける見通しだ。さらに役職定年や賃金カットが目前に迫る一方、住宅市場は高騰し、都心タワマンにはかつてないほどの含み益がつきはじめている。では、50歳代はこれからの人生と住まいをどう考えるべきなのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は「不安の多い時代だからこそ、“住まいの選び直し”が幸福度を左右する局面に入っています」と語るーー。

 みんかぶプレミアム連載「牧野知弘 不動産を斬る!」

目次

バブル崩壊と就職氷河期──団塊ジュニア世代が経験した“試練”

 日本の人口は2024年10月1日現在で1億2029万人。これを年齢別にみると50歳代は1795万人と全体人口の約15%を占めています。これはどの年代(10歳刻み)と比較しても最大のボリュームゾーンとなります。50歳代の中でもとりわけ50歳から52歳は各年齢で190万人を超えています。

 この世代の特徴は1971年から74年にかけての「第二次ベビーブーム」と呼ばれた世代であり、団塊ジュニア世代とも呼ばれています。そしてこの世代はそのボリュームの多さゆえに、受験でも就職でも熾烈な競争を繰り返してきました。

 特に彼らが就職を迎える1993年から96年は平成バブルが崩壊。日本が未曽有の不況に陥った時代。就職氷河期ともいわれ、多くの学生が満足な就職先を確保できない経験をしました。

“働き盛りの終盤”に訪れる不安──下がる給与、上がる物価と住宅価格

 何とか職を得た人たちも社内の厳しい競争にさらされ、経営状況が良くない企業が多い中、所得水準もなかなか上がらない環境下で毎日を過ごしてきました。そして、死に物狂いで仕事をしてようやく課長、部長になった現在、社会は空前の人材難。新入社員の給与を思い切り上げて、優秀な社員を確保しようとする企業が増えています。ところが肝心の自分たちはこれだけ会社に貢献してきたのにもかかわらず、そろそろ役職定年を迎える時節。今後給与は上がるどころか大幅に下がる可能性まであるのが現実です。

 なんとなくもやもやする日々を過ごす中、さてこれからの人生をどう過ごしていけばよいのでしょうか、不動産の価格は上がっているというけれど、自宅を今さら売ってもどこに買えばよいのだろう。いろいろな想いが交錯していることでしょう。

 50歳代は人生の一つの分岐点です。子供の成長にも目途が立つ。夫婦の関係にもあきらめと落ち着きが生まれる頃。人生100年時代を迎え、これまで住んできた家は本当にあなたの良きパートナーとして存在しているでしょうか。住宅ローンさえ完済すればよいのでしょうか。そもそも自分はあと何年生きられるのでしょうか。

物価高・増税・管理費上昇…50歳代を直撃する“生活インフレ”の現実

 すでに生活物価は厳しい値上げラッシュ。給料の半分は税金と社会保障費に吸い取られる時代。マンションの管理費や修繕積立金もインフレ社会の到来でこれからはどんどん値上がりすると言われています。定年退職後に年金だけで生きていくにはあまりに不安が多い時代です。

 ただ考え方を少し変えてみると、何も今の家でずっと過ごさなければいけない訳でもありません。サラリーマンであれば、自分の職業を子に引き継ぐ必要も、心配もありません。家だって先祖伝来の家で相続して受け継いでもらわなくてもよいでしょう。

 健康には気を使っているし、今のところ身体の不具合も限定的。定年後も働かなくてはならないかもしれないけれど、これからはもっと自由に自分の生活設計をしたい。我慢してきたのだから、自分のやりたいことをやってみたい。

 そんな50歳代にとって、不動産マーケットの高騰は気になることかもしれません。10年前にタワマンを買った人たちはそれなりの含み益が実現できているはずです。ところがこの利益を手にしようと売却しても、近くのマンションに買い替えようにも買い替える先のマンション価格が高騰していて、さらに借金を重ねなければなりません。人生は思うようにならないと言いますが、まさに自宅マンション含み益を享受することは意外に難しいのです。

視点を変えれば“ワクワクする老後設計”は描ける

 でも少し発想を変えてみるとわくわくの日々が創造できるはずです。

 まず自分自身は現在、勤めている会社に何か期待されているでしょうか。ごく一部の役員レースで疾走している人を除いて、ほとんどの人はあまり期待されている状態にはないはずです。さすがに40歳代も半ばを過ぎると、どんなに鈍感な人でも会社の自分に対する評価が期待したほどのものではないことに気が付きます。

 それでも定年までは頑張る。最後に退職金をもらうまでは。では退職後も同じ家、マンションに住み続けるつもりでしょうか。チャンス到来です。もう子供はすでにいなくなっているか、もうじきいなくなるはず。通勤もこれまでのように早朝出社、深夜帰宅を強制されません。60歳以降の契約社員にでもなれば、出社日もまばらになるかもしれません。自身の置かれた状況を冷静に見れば「今まで通り」の勤務形態から徐々に解放されていくことが容易に想像できます。

“会社ファースト”から解放される──50代こそ住まいを再設計する好機

 多くの人は定年退職までその後の人生について特に何も考えずに過ごしてしまうと言います。でも自由の身になる少し前から自身の人生計画を煮詰めておくことが大切です。そこで提案します。

 これまでの家は会社に通勤することを最優先とした「会社ファースト」の家選びだったはず。あるいは子供の進学を優先した選択だったはず。これからは会社からも子供の通学先からも自由の身です。

 ならば、今せっかく含み益のあるマンションを売却して、自分の好きなところに引っ越しましょう。まだ勤務があって地方は無理だとしても、たとえば海や山、自然が好きな人だったら、都心まで1時間以上かかる場所でも気に入ったところを見つけて買換えをすることを考えましょう。

 都心マンションを売って同じようなエリアに買い替えても含み益を実現することはできません。でもたとえば湾岸タワマンを売って三浦半島で海の近くの戸建てを買えば、含み益のかなりの部分を手にできます。この資金でヨットを買ったり、SUVで海や山に繰り出したりすることも容易になります。

 定年までの期間は都内の小さなマンションを借りてもよいでしょう。子供がいなければもうそんなに広い家も必要がないはずです。週末だけ自分の秘密の隠れ家に通う。わくわくしませんか。

欲をかかない選択が人生を安定させる

 忠告めいたことを言いますが、「これから俺も不動産投資をやって儲けよう」とはあまり思わない方が良いです。不動産投資は資金が多額になりがちですので、もし失敗すると50歳代の方ではもはや人生取り返しがつかなくなります。金儲けは若い頃にするもので、50歳代はあまり欲をかかない方が幸せな人生になります。これまで十分に稼いだとあきらめをつけて、せっかくあるはずの含み益を今こそ実現しましょう。

 幸い、好調なマーケットはもう少し続きそうです。でもあなたが定年退職するまで待ってはくれないかもしれません。都心タワマンが大好きで永住すると決めている人は別ですが、いかがでしょう。試してみる価値は十分あるような気がしますが。

 

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この記事の著者
牧野知弘

不動産事業プロデューサー。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て三井不動産勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て、2015年にオラガ総研株式会社の代表取締役に就任。ホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)など多数。

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