株価チェックの最適解は「年1回」?行動経済学が教えるもっとも効果的な貯蓄・投資の心得

多くの投資家が、昨今の乱高下する株価に気をもんでいる。明治大教授の堀田秀吾氏によれば「投資家が不安にならずにすむ株価のチェック頻度は年1回」だという。行動経済学からみた人間の「不合理な行動」を、堀田氏が解説する。全3回中の第2回。
※本稿は堀田秀吾『ハーバード、オックスフォード、スタンフォードetc.世界の名門大学が導いた科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』(扶桑社)から抜粋したものです。
第1回:あなたの“お金への意識”をチェック!貯蓄が楽しくなる「お財布マインドフルネス」とは
第3回:「仕組み」にこそ投資せよ!未来の自分を信じるための経済学
目次
株価チェックは「年1回」でいい
株式投資は、ハイリターンを狙えますが、一時的に損をする可能性も高くなります。損を極端に嫌う人にとって、株式は最初から魅力が薄いものになります。
私たちは、お金の増減を見ると、得した喜びよりも、「損した!」というショックのほうを強く感じます。たとえば、1万円もらう喜びより、おなじ1万円をなくす悲しみや痛みのほうが、約2倍も大きいと感じるそうです。
この損に敏感なセンサーは、人間の標準装備のようなもので、行動経済学では、これを「損失回避」と呼びます。
コーネル大学のベナーツィとセイラーの研究では、この損失回避に「見すぎてしまう」というもう一つのクセが重なると、さらに大きな不安や誤った判断を生むことが示されています。
彼らはこれを 「近視眼的損失回避」 と名づけました。
株式市場は、一般的には長期的に上昇する傾向がありますが、日々の値動きはジェットコースターのように上がったり下がったりします。私たちは、損に強く反応するため、毎日チェックすると痛みを味わう回数が増えることになります。そして、毎日気にしていると「損している気」がどんどん積み重なり、「もう怖いからやめよう」に直結してしまいます。
ベナーツィとセイラーの研究が示すのは、投資家が「ちょうど不安にならずに済む」チェック頻度はおよそ1年に1回ということです。毎日見る人より、年に一度だけ見る人のほうが長期の上昇を落ち着いて受け取れるというのです。
残高をチェックするほどメンタルが削られる
この「見すぎ問題」は貯蓄にもそっくりそのまま当てはまります。貯金アプリを毎日開いて「まだこれだけか…」と落ち込むのは、投資家が日々の株価下落で不安になるのと同じ構造です。
毎日見るほど「減っている瞬間」「増えていない瞬間」を拾ってしまい、モチベーションがじわじわ削られていきます。すると節約が続かず、「もういいか」と気持ちが折れ、結局貯まらないという悪循環に陥ります。
だからこそ、貯蓄や投資を成功させるには、「見ないための工夫」も必要になります。たとえば給料天引きの自動積み立ては、「意志力ゼロでも貯まる仕組み」をつくる方法ですし、口座残高を確認する頻度を月1から「年に数回」に減らすだけでも気持ちはぐっと楽になります。
これは怠けているのではなく、自分の脳のクセとうまく付き合っているだけ。行動経済学的には非常に合理的な戦略なのです。
ベナーツィとセイラーの研究での計算では、投資の評価期間を長くするだけで、投資家が感じる怖さが大幅に減り、そのぶんリターンを取りやすくなると示されています。貯蓄も同じで、細かい増減を見るのではなく「去年より増えたか」を見るほうが、精神にも成果にも優しいのです。
お金は「見た回数に比例して増える」わけではありません。むしろ、見すぎるほどメンタルが削れ、続かなくなるもの。だからこそ、「ゆっくり見る」「評価を引き延ばす」ことが、実は、もっとも効果的な貯蓄・投資の心得なのです。
ひとことアドバイス
貯金も投資も観察するより放置するほうがうまくいきます。アプリを毎日開くのをやめて、年に数回だけ「成長を確認する日」をつくってみましょう。
あなたの選択を動かすのは「後悔」
「買うかやめるか」「投資するか貯金するか」といった決断にはいつもドキドキがつきまといます。ハーバード大学のベルは、この決めたあとに感じる気持ち、つまり「後悔」こそが、人間の選択を大きく動かしていると主張しました。後悔はしばしば合理性を超えて、私たちの行動を決めてしまうのです。
たとえば、ベルは、競馬で「迷った末に買わなかった馬が勝ってしまった」という最悪のシナリオを想像すると、人は期待値がゼロの賭けでもつい買ってしまうと述べています。なぜなら「買っておけばよかった」という後悔を避けたいからです。
一方、車の保険に入るときも、万が一事故が起きた場合に感じる「入っておけばよかった」という後悔を避けるために保険を選びます。ギャンブルと保険、正反対の行動なのに、どちらにも「後悔したくない」という同じ感情が働いているのです。
ベルは、決断後に「別の選択をしていたら得られた結果」と「実際の結果」を比較し、その差が後悔を生むと述べます。つまり、人は手に入れたものだけでなく、「手放してしまった可能性」も評価しているのです。
これを数式に組み込むと、従来の「期待効用理論」では説明できなかった矛盾がうまく説明できます。たとえば、「確実なお金を選ぶ一方で、別の場面では大胆に賭けに出る」といった不思議な行動です。
では、貯蓄や投資ではどうでしょうか? たとえば、「貯金だけして投資をしない人」は「もし値下がりしたら後悔するかも」という未来の痛みを避けているのかもしれません。一方で 「投資を始めたのに、上がったところですぐ売ってしまう人」は、「利益が減る後悔」を避けようとしているのかもしれません。
このように、どれだけ合理的に考えても、最後のひと押しは感情がものをいうのです。その感情の中心にあるのが「後悔したくない」というごく人間的な願望です。ベルは、後悔を前提にした意思決定モデルのほうが、実際の人間の行動をずっとよく説明できると述べています。
ひとことアドバイス
後悔をゼロにすることはできません。
「どんな後悔なら許せるか?」を考えると、ぐっと選択はラクになります。
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