「仕組み」にこそ投資せよ!未来の自分を信じるための経済学

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 しばしば聞かれる「貯金してもお金は増えない。投資をすべきだ」という言説。しかし明治大教授の堀田秀吾氏は、「貯蓄と投資は敵同士ではなく、人生のリズムに合わせて役割が変わるパートナーなのかもしれない」と話す。人の「ライフサイクル」からみた最適な投資法を、堀田氏が伝授する。全3回中の第3回。

※本稿は堀田秀吾『ハーバード、オックスフォード、スタンフォードetc.世界の名門大学が導いた科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』(扶桑社)から抜粋したものです。

第1回:あなたの“お金への意識”をチェック!貯蓄が楽しくなる「お財布マインドフルネス」とは

第2回:株価チェックの最適解は「年1回」?行動経済学が教えるもっとも効果的な貯蓄・投資の心得

目次

人は投資をするようにできている

「老後のため」や「いざという時のため」に貯蓄をすると考える人は多いでしょう。でも、もっと深い人間の貯蓄の仕組みを教えてくれるのが、ノーベル賞経済学者フランコ・モディリアーニの“ライフサイクル仮説”です。

 この仮説は、「人は人生を通して消費のなだらかな安定を目指す」という考え方を軸に、私たちがどんなタイミングでお金を貯め、どんな時に使うのかを美しく説明してくれます。

 モディリアーニは、若い頃は収入が少なく貯蓄額も小さいけれど、年齢を重ねて働き盛りになると収入が増え、将来のために貯蓄が膨らんでいくと述べています。そして定年後は、積み上げた資産を取り崩しながら生活する。

 まさに「山を登って、ゆるやかに下る」ようなお金の流れが人生全体で起こるのです。これをモディリアーニは「らくだのコブ(hump-shaped)」になぞらえています。

 この仮説を投資の視点から見ると、ちょっと面白いことがわかります。実は、人は自然と投資をするタイミングを迎えるようにできているということです。働き盛りになり収入が増えると、将来に備えた貯蓄が大きくなり、そこで初めて「このお金をどう活かす?」という問いが生まれます。

 インフレにも負けず、老後まで資産を持ち越すには、長い時間を味方にできる投資が合理的になるのです。

貯蓄と投資はパートナー

 若い人が比較的リスクを取れるのも、まだ先に長い人生があり、将来の収入という見えない資産が大きいから。逆に高齢になるほど、安全資産を増やすのが安心な理由も、ライフサイクル仮説が教えてくれます。

 結局、貯蓄と投資は敵同士ではなく、人生のリズムに合わせて役割が変わるパートナーなのかもしれません。今の自分にとっての最適な資産の持ち方を考えること自体が、すでにライフサイクル仮説を生きている証拠なのです。

 また、この仮説では、「人は完璧ではない」という現実も取り入れています。本来なら老後に向けてきれいに資産を減らしていくはずなのに、実際のデータを見ると、お年寄りがあまり資産を使い切らないことがわかっています。理由のひとつは「長生きリスク」です。

「もし100歳まで生きたら?」と考えると、保険のようにお金を残してしまうのです。さらに「子どもに残したい」という遺産についての動機も、一部の人の貯蓄額を押し上げています。

 ライフサイクル仮説は、こうした「人間らしい不完全さ」さえ織り込みながら、貯蓄の全体像を描くという、とても温かいモデルでもあります。そして私たちの毎日の貯蓄の選択も、実は「今と未来の自分をどうバランスよく満たすか」という、ごく人間的な試行錯誤の積み重ねなのかもしれません。

ひとことアドバイス
今の自分のステージを一度見つめてみましょう。貯めるべきときか、増やすべきときか——答えはあなたの人生のリズムの中にあります。

自分の「意思」を信用しすぎるな

 私たちは、将来のための貯蓄や投資が大切なことがわかっていても、つい目の前の誘惑に負けてしまいます。ハーバード大学のレイブソンは、この「未来の自分への裏切り」をとても鮮やかに説明してくれています。

 レイブソンは、「人は長期的な利益よりもすぐに得られる小さなご褒美を過大評価してしまう」と述べています。これを「双曲割引」と呼びます。たとえば「10年後に確実に増える投資」より、「今日の飲み会」や「今だけ50%オフ」のほうが魅力的に感じてしまう心理です。

 つまり、未来の自分と今の自分の利害が一致していないのです。

 このギャップを埋めるために、レイブソンは「黄金の卵」という比喩を使い、資産を「すぐに食べられない殻のある卵」にする仕組みが大切だと説明します。

 すぐに食べられない殻のある卵は、簡単に引き出せない年金制度や積み立て投資のような仕組みを指します。お金をカチッと未来にロックしておけば、今日の誘惑につぶされず、未来のあなたがしっかり卵を孵してくれるというわけです。

 この発想は、投資にもよく当てはまります。株式投資やインデックスファンドなどの長期投資は、短期の値動きに惑わされそうになる瞬間が必ずあります。しかし、その不安の正体は、未来より今を重く見てしまう「脳のクセ」です。レイブソンが示したとおり、自分の意思を信用しすぎず、仕組みに頼るほうがむしろ合理的なのです。

 たとえば毎月の積み立て投資、個人年金保険、勤務先で利用できる財形貯蓄制度など、こういったものはすべて「黄金の卵」の仕組みで、私たちの未来の資産形成をそっと支えてくれます。レイブソンは、こうした制度が人々の自己コントロールを助け、長期の富の形成を実現すると強調しています。

 投資は意志の強い人だけのものではありません。むしろ誘惑に弱い普通の人間こそ、レイブソンの研究が背中を押してくれます。未来のあなたを信じるために、今のあなたがちょっとした「殻」をつくってあげればいいのです。

ひとことアドバイス
意志力ではなく仕組みに投資してください。
未来のあなたが、黄金の卵をちゃんと孵してくれます。

堀田秀吾『ハーバード、オックスフォード、スタンフォードetc.世界の名門大学が導いた科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』(扶桑社)

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この記事の著者
堀田秀吾

明治大学法学部教授。法と言語科学研究所代表。1968年生まれ。専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。アイドルのプロデュースから全国放送のワイドショーのレギュラー・コメンテーターなど、研究以外においても多岐に渡る活動を見せている。

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