岸田“ドラ息子”翔太郎の指導係「荒井秘書官」は岸田親子の被害者だった…縁故や世襲を美談にするのはもうやめに

 秘書官だけはオールスター。実力派官僚たちを登用し、一時は岸田文雄首相の意気込みの表れと評価された岸田首相秘書官。だが、長男・翔太郎氏の起用で物議を醸したのに続き、今度は翔太郎氏の教育係とも目される側近秘書官が、性的少数者や同性婚について差別発言をして更迭される、極めて異例の事態が発生した。

オフレコの記者懇談会で「LGBTヘイト」を露呈…事態を重く見た毎日が “掟破り” 報道 

 荒井勝喜首相秘書官(当時)は、オフレコの記者懇談会の場で、性的少数者や同性婚について「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」と発言した。首相秘書官によるオフレコでの発言は「官邸筋によれば」や「政府高官は…」などと、報じられるときも名前を伏せて行われるのが一般的であるから、実名入りで報じられたのは極めて異例のことだ。

 とはいえ、そのオフレコ発言は、実名入りのメモとなって永田町、霞が関を駆け巡るので、本当の意味でのオフレコなど日本には存在していない。それを知らないはずのない荒井元秘書官は、自分がしたLGBTヘイト発言が問題にならないと信じて疑わなかったのだろうが、あまりにワキが甘い。

 オフレコ前提であるはずの、この発言をリークしたのは毎日新聞だった。毎日新聞(2月4日)は、オフレコであるはずの荒井元秘書官の発言を報道した経緯について、こう述べている。

『荒井勝喜首相秘書官に対する3日夜の首相官邸での取材は、録音や録画をせず、発言内容を実名で報じないオフレコ(オフ・ザ・レコード)を前提に行われ、毎日新聞を含む報道各社の記者約10人が参加した。首相秘書官へのオフレコ取材は平日はほぼ定例化している。3日の取材では、岸田首相が1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化について「社会が変わっていく問題だ」と答弁したことについて記者から質問があり、荒井氏は首相答弁の意図などを解説した。その中で「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと発言した。―― 中略 ―― 本社編集編成局で協議した結果、荒井氏の発言は同性婚制度の賛否にとどまらず、性的少数者を傷つける差別的な内容であり、岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断した。ただし、荒井氏を実名で報じることは、オフレコという取材対象と記者の約束を破ることになるため、毎日新聞は荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、3日午後11時前に記事をニュースサイトに掲載した』

 この記事が伝える文脈から察するに、首相を守るつもりで、荒井元秘書官は、LGBTに対しヘイトスピーチをしたようだ。擁護するつもりが、火に油を注ぐ結果となり、その余波は「寝た子を起こした」(自民党中堅議員)となって、メディアで延々と報じられることになった。統一地方選挙を前にして、支持率の低空飛行が続く岸田政権にとって「選挙までに挽回はムリだろう」(同議員)というぐらい大きな痛手だ。

 読売新聞は、今回、毎日新聞がオフレコの内容を報道したことについて「読者が得られる情報は増えたことになる。一見、問題はないようにも思える。だが、今回の一件を機に、秘書官や官房長官、官房副長官といった首相官邸の中枢、与党幹部らは、オフレコでも本音をなかなか語らないことになる可能性もある」という舟槻格致氏(読売新聞調査研究本部主任研究員)の意見を紹介している。ときどき起きる、この「掟破り」については、今後も議論が続きそうだ。

なぜ、不器用で知られる荒井氏が話さざるを得なかったのか

 ところで、そもそも首相秘書官に、若手を大抜擢した菅義偉前首相と違い、岸田首相は事務次官(省庁の事務方トップ)経験者を多数集めた「オールスター秘書官」の布陣で臨んだはずだった。事務次官出身は、嶋田隆政務秘書官(旧通産省入省)、秋葉剛男国家安全保障局長(外務省)、栗生俊一官房副長官(警察庁)、森昌文首相補佐官(旧建設省)と4人もいる。他の秘書官も岸田首相が一本釣りしていたという報道もあり、秘書官への思い入れは非常に強かったはずだ。

 首相秘書官には、2つの種類がある。政務秘書官と事務秘書官だ。事務秘書官は首相を支えながらも省庁との調整役も兼ねる。政務秘書官は、それら事務秘書官を束ね、首相に何があっても、命の限り吠え続ける忠実な番犬のように、政敵たちをときに恫喝(どうかつ)し、ときに懐柔する役割を担ってきた。

 過去の強い政権には、必ずと言っていいほど剛腕の政務秘書官がいたことで知られている。橋本龍太郎首相の江田憲司氏、小泉純一郎首相の飯島勲氏、安倍晋三首相の今井尚哉氏らだ。先の自民党中堅議員は、現在の官邸内の政務秘書官の役割についてこう話す。

「現在の岸田首相には、政務秘書官が2人います。嶋田隆氏と岸田首相の長男・翔太郎氏です。政権発足時には、岸田首相の政策担当秘書だった山本高義氏が政務秘書官をしていましたが、翔太郎氏が31歳になったことで、山本氏と交代しました。ただ、翔太郎氏は、首相に同行してお土産のアルマーニのネクタイを買ったり、各国首脳と記念撮影をしたりというかなり限定的な役割しか与えられていません。そもそもオフレコの記者懇談会は、主に政務秘書官がやるものです。これによってメディアをコントロールするわけですから、歴代の剛腕秘書官たちはオフレコを利用してきた面があります。翔太郎氏は、政治や政策のことが何もわかっていないので、メディアをコントロールするなど絶対ムリ。そこで、不器用な性格であることはわかっていたはずの荒井勝喜氏が話していた。どうしようもない発言とはいえ、ある意味、彼は岸田親子の被害者ですね」

政治の役目が分かっていないレベルの低いスポークスマンしかいない岸田首相に同情

 それにしても岸田政権は、メディアに付け入るスキを与えてしまった。岸田首相の求心力を高め、長期政権にさせることは秘書官たちの目的の一つであるはずだ。世論がどう考え、世論をどう動かすかという観点から戦略を練るとするなら、あの発言はあり得ない。

 今回のオフレコ懇談会は、岸田首相が「(同性婚を法制化すると)社会が変わってしまう」という問題発言になりかねない答弁をしたことが発端である。その状況で、荒井氏は「オレは同性愛が嫌いだから岸田首相の発言に賛成だぜ! 官邸もみんな同じ考えだぜ」という発言をしたわけだが、記者がそこから得られるものは、ヘイトを除くと「首相への忠誠心」だけだ。メディアの前で首相への忠誠心を示す意味は全くない。当然だが、首相の発言は、同性愛を差別したものでないなどと、軌道修正を図るべきだろう。本来の役目がわかっていないレベルの低いスポークスマンしかいない岸田官邸に、同情を禁じ得ない。

 さらに、本来の役目すらなく、海外では観光、国内では官邸内で他の秘書官が炎上するのを傍観していることしかできない翔太郎氏は、税金泥棒ではないか。オンラインメディア『ファイナンシャルフィールド』によれば、「内閣総理大臣秘書官の年収の一例として計算すると、1348万2600円」(「内閣総理大臣秘書官の年収はどのくらい?」2022年5月13日)だという。自民党の友党・公明党では、議員が自分の身内を秘書にすることは原則行っていない。政治日程の調整などを担う政務秘書官には、とりわけ豊富な経験や人脈が求められるわけで、さっさと翔太郎氏は辞めさせるべきではないだろうか。いずれにせよ、縁故や世襲を美談にするのはもうやめにしたい。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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