ガーシー帰国で異次元局面「江頭2:50、NHK党から出馬してくれると思う」決断が招く憲政の大転換

 巷(ちまた)の話題を独占するガーシー(東谷義和)参院議員の除名問題。ひとまず、ガーシー氏が「議場での陳謝」に応じる意向の文書を参議院あてに送ったと伝わったが、ガーシー氏は果たして議員除名に追い込まれるのか。その場合、NHK党はどのような対応をとるのか。未曽有の事態となったガーシー騒動の今後の展開を読む。

NHK党・立花党首「ガーシーが除名になったら全力で戦う」「後継候補も登院させない」

 アパレル企業などを経営していた暴露系YouTuberのガーシー参議院議員が、滞在中のアラブ首長国連邦のドバイから、一時的に帰国する可能性が不透明なママだ。2月27日に、ひとまず「議場での陳謝」に応じる意向を参院あてに示したとのことだが、参院がガーシー氏に求めているのは一時的な帰国でも、ましてや1日のみの登院でもない。もし帰国が実現しても、2度目の懲罰の結果、除名になることが現実味を増している。

 それに対して、ガーシー氏が所属するNHK党の立花孝志党首は、2月24日の国会内での定例会見において、ガーシー氏が除名になった場合でも、繰り上がる副党首・齊藤健一郎氏(比例4位)を国会に登院させない方針を明らかにした。

「国会に来ないことは迷惑行為ではないし、悪いことをしているわけではない。迷惑をかけていない相手に辞めろと言うのは、いじめなんですよ。国会に出てくるのがお仕事と言うなら、国会を休む議員や寝ている議員をかたっぱしから処分していけばいいんじゃないですか」

「ガーシーが除名になったら、全力で問う。齊藤氏が議員会館には来ているし、官僚とも話し合いをしている。YouTubeも発信している。でも、本会議や委員会には出ない。これでクビにするならしてみろ」

「国会に登院しない少数派を排除するために、議決する必要はない。立法してからクビにしろよ。議員が出席するかどうかも、駆け引きの一つ」

「齊藤君が同じことをやって、同じような処分をしないと『恣意的でしょ?』と指摘できる」

 と挑発的な表現で、ガーシー氏除名へと突き進む参議院を牽制して見せたのだ。齊藤健一郎氏は、実業家のホリエモン(堀江貴文)氏の秘書だ。

 鈴木宗男懲罰委員会委員長をはじめとして、参議院側は、この問題の処理を粛々と進め、ガーシー氏を除名にすることでさっさと国会を正常化させたいと考えていたようだが、立花党首のこの決断によって、一挙に泥沼化の様相を呈してきた。

 そもそも国会議員が登院しないと公約し、そして公約通りに国会へ登院しないという事態は、憲政における異次元局面だ。賛成、反対の意見が嵐のように吹き荒れる中、憲政は新しい扉を開けつつある。

 問題は、国会のルールと、国会のルールを破ることを高らかに宣言した、民意の代表である議員とが、真正面からぶつかっていることだ。産経、毎日の社説のように「除名」やむなしと考える新聞社もある一方で、ガーシー氏の「議場での陳謝」処分の採決に加わらなかったれいわ新選組のような立場もある。私は、れいわ新選組にもNHK党にも投票をしたことはないが、やはり民意を得た議員が、多数派の多数決によって身分を剥奪される事態は、いささか乱暴すぎると考えている。

簡単に決めていいのか?…サンフランシスコ条約発効後初の議員除名

 そんな中、日本経済新聞の大石格編集委員が、極めて重大な歴史的事実を指摘している。「ガーシー氏、除名以外の手はないのか 歳費凍結も選択肢」(日経新聞・2月22日)というコラムだ。

 日本では国会議員が「除名」されたことが、歴史上、5回ある。3回は第二次世界大戦前の帝国議会、2回は戦後だ。現時点で、歴史上の最後の除名となっているのは、1951年という戦後間もない時期のものだ。当時、日本はGHQの統治下にあり、サンフランシスコ講和条約(1951年9月8日に締結、1952年4月28日発効)すら発効していない。ここからは、日経新聞のコラムを引用すると、

「戦後の2例目もそれ(筆者注、国策に疑問を投げかけただけでクビになった戦前の事例を指す)に近い。共産党の川上貫一衆院議員が本会議で『国民の大多数は(中略)占領軍の早期撤退を望んでおります』と訴えたところ、吉田茂内閣の与党だった自由党などが『議院の品位を傷つけた』として懲罰を要求した。『議場での陳謝』を命じられた川上氏はこれを拒否し、最終的に除名となった。明確な証拠はないが、反共姿勢を鮮明にしつつあったGHQの意向(いわゆる逆コース)が何らかの形で働いたと見る向きが少なくないようだ」

 という。この指摘は、大きな重みを持つと考えられる。また、ガーシー氏が、今、辿(たど)っている「陳謝を拒否→除名」という処分コースも全く同じである。「国民の大多数が占領軍の早期撤退を望んでいる」と訴えただけで、議場での陳謝を要求され、拒否すると除名というのは、今日の感覚からして、あまりにも乱暴であろう。こんなことが許されれば、少数派が多数派の意にそぐわない正論を吐くことができなくなってしまう。

 逮捕の危険があるから帰国しないというガーシー氏の立場には全く賛成できないが、やはり、サンフランシスコ講和条約発効後初の「除名」という先例をつくる上では、開かれた民主主義国家として、冷静な議論を求めたいところだ。

「国会議員は発信力が最も重要」…批判を浴びつつ注目を集めるNHK党の候補者戦略

 それにしても、なぜ、NHK党は、わざわざ物議を醸すであろう候補を次から次へと政治家にさせようとしているのだろうか。みんかぶマガジン(11月21日)のインタビューで、立花党首はこんな話を打ち明けている。

「私はこれから、そのような『クリーンなイメージで売っていない人』を中心に政治家としてスカウトしていきたいと考えています。ヒカルくん、朝倉未来さん、江頭2:50さんなどです。江頭さんが立候補したら、面白いでしょ。立候補するメンバーを見てくれたら、江頭さんもたぶん出馬してくれると思うのです」

 コメント中の「そのような」とは、悪いイメージがついてしまっていて、スポンサーがつかずCM出演のオファーがないような有名人のこと。立花氏は、テレビや新聞などの既存のメディアを通さずに、YouTubeを通して有権者に直接アクセスできる新しいタイプのタレント議員を誕生させようとしている。そんな立花氏だが、「(江頭2:50氏などを立候補させて)あなたは何がしたいのか」と問われ、次のように回答している。

「なぜ、そんな著名人を集めようとしているかといえば、政治家に必要な最大の資質が『発信力』だからです。この国の政治家にないものは、一言でいってしまえば、『発信力』です。しかし残念なことに、今の日本では発信力がある優秀な人は政治家をしません。本来、政治家は言葉によって国民を誘導することが役割のはずなのに、日本の政治家の発信力は低すぎて『どんぐりの背比べ』をしているような状態です」

「トップYouTuberは『新しいものを視聴者に提供するためにはどうすればよいか』と常に頭を悩ませ続けています。選挙というのは、一種のお祭りなので、常に新しいコンテンツになりますよね。例えば江頭さんとヒカルくんが同じ選挙カーで何かしゃべるだけでも面白いですし、きっとたくさんの人が集まってくるし、動画も観られるでしょう」

 立花氏によれば、選挙にかかる費用はNHK党が出し、選挙になると「選挙ブースト」がかかって、再生回数が伸びるのだという。選挙に当選できなくても「収益」が得られる計算なのだろう。4月の統一地方選挙も近く、もし江頭氏が立候補するなら、間も無く、決断の瞬間(とき)を迎えることになる。

 NHK党への激しい批判が国民の一部から起こっていても、世間の注目を集めることに成功し、繰り上げ当選での立ち回りを含めて、立花党首の戦略どおりに事態が推移しているようにも感じられる。この先、日本の国会はどうなっていくのだろう。

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