ガーシー以外の「国会こない議員」…鈴木宗男「やましいことないなら堂々と歳費を頂け」発言に国民疑問

 相変らず、注目を集める続けるNHK党のガーシー(東谷義和)議員問題。参院での議場陳謝を受け入れ、一時帰国の意向を示したと伝わるが、ここで改めて問われるのは「政界の常識」、つまり国会議員のモラルである。果たしてモラルを問われるべきなのはガーシー議員だけなのだろうか。

ガーシー氏に下された「議場での陳謝」の処分

 一昔前、迷惑駐車のおばちゃんが「みんな止めているやないの。なんで私だけ言われなあかんの」と関西弁で逆ギレするCMが注目を浴びた。最近の国会を眺めていると、レベルの違いはあるにせよ、長期の国会欠席で注目を集めるガーシー(本名・東谷義和)参院議員の根底には似たような不満が鬱積しているのかもしれない。法律やルールは守られなければならないのは当然だが「政界の常識は非常識」と言われるようなシーンがあまりに目立つからだ。ガーシー騒動で問われる「常識」は、国民に範を示すべき政治家全体に問われている。

 2022年夏の参院選で初当選以降、一度も国会に登院していないガーシー氏は2月27日、参院本会議に出席して「陳謝文」を朗読するとの文書を石井準一参院議院運営委員長に提出した。参院はUAE(アラブ首長国連邦)に滞在し、長期欠席を続けるガーシー氏に4段階のうち3番目に重い「議場での陳謝」という懲罰処分を決定し、ガーシー氏も応じる意向をようやく示した。

 参院懲罰委員会が協議した陳謝文は「参議院議員として、国会に登院し、審議に参画すべき立場であるにもかかわらず、議院運営委員会理事会の了解を得ないまま海外に滞在し、国会法や参議院規則に違反して召集に応じず、議長から『招状』を受け取った日から7日が経過したにもかかわらず、故なく本会議に出席しなかった」「院内の秩序を乱し、本院の信用を失墜させたことは誠に申し訳なく、深く自責の念に堪えません。ここに謹んで陳謝いたします」という内容だ。

少数政党の一議員を袋だたききにする国会風景に感じるシラけ

 確かに、国民の代表者である国会議員として重要な役割である「国会での活動」を果たせなければ、国民の負託に応えていくのは難しい。国会法は「正当な理由がなくて召集日から7日以内に召集に応じないため……議長が、特に招状を発し、その招状を受け取った日から7日以内に、なお、故なく出席しない者は、議長が、これを懲罰委に付する」としている。守るべき法や規則を考えれば、ガーシー氏の行動が許されないというのは理にかなっている。同じような議員が続出すれば国会の機能は果たせず、緊急事態にも対応できなくなるのは言うまでもない。

 ただ、ガーシー氏は “公約” として帰国や登院をしないとうたってきた。逸脱しているのは事実だが、政治家として守るべき公約は貫いていると見ることもできる。米軍普天間飛行場の移設先を「最低でも県外」と主張しながら断念した首相や、マニフェスト(政権公約)になかった消費税増税の道を決めた首相が猛批判を浴びた点を踏まえれば、一票を投じた有権者との約束に応えているようにも映る。

 繰り返すが、法や規則をはみ出す言動は批判を免れない。関係者によれば、その点はガーシー氏も理解の上で、熱心な支持者から公約通り帰国する必要はないとの声があがったものの、「このまま帰国せず除名処分となれば、選挙で自分に投票してくれた約29万人に申し訳ない」「自分が陳謝して済む話なら、みんなのためにもやる」と処分を受け入れることにしたという。

 とはいえ、ガーシー騒動を眺めて何かシラけてしまう人は少なくないのではないか。公約通りの言動を貫かない政治家が多い中で、少数政党の一議員を袋だたきにするようなシーンは異様に映るからだ。

ガーシーはダメだが「よんどころのない事情」での国会欠席はOK

 国会欠席という点で言えば、ガーシー氏が初当選した2022年7月の参院選で6選を果たした自民党の山崎正昭元参院議長は「本会議の半数超を欠席」と報じられたことがある。同年8月3日に朝日新聞デジタルが配信した記事によると、山崎氏の議長退任後に開かれた計18回の国会(通常・臨時・特別)の出席状況を同社が調べた結果、計264回の本会議のうち約3割にあたる77回を欠席していたという。

 投票日翌日の記者会見で、欠席が多い点を問われた山崎氏は「できるだけ出るのが当たり前。しかし、よんどころのない事情も個人にはあるわけだから」と話した、としている。この「よんどころのない事情」とは、財団での業務や成田山新勝寺の奉賛会長としての仕事などを挙げたということだが、「これはOK」「それはNG」という基準がわかりにくい。

 直近では、選挙違反事件で逮捕された河井案里参院議員(当時)に対し、国会に登院していない約8カ月間に歳費など計2100万円が支払われていたことが問題視された。後に有罪判決が確定し、当選は無効になったものの、この歳費は返納する義務がないという。1997年に詐欺事件で逮捕された友部達夫参院議員(同)には約4年4カ月間、国会に出席していないにもかかわらず約1億5000万円もの血税が支払われた。

 ガーシー氏の処分案を決めた参院懲罰委員会で委員長を務め、2002年に東京地検特捜部に逮捕されたことがある鈴木宗男参院議員は、2021年2月16日に配信されたNHK記事の取材でこのように答えている。

「逮捕されたから歳費が無駄だというのは、あまりにも短絡的過ぎると思いますよ。捕まった以上、何も仕事が出来ないと思っている人が多いと思いますが、実態は濃淡があるんです」

「私の場合は逮捕されても、議員会館や地元事務所はしっかり機能していました。事務所には陳情する人たちが訪れ、秘書たちが要望を受ける。私の判断が必要な時は、秘書が拘置所に面会に訪れて的確に指示を出していました」

「政治活動をしているか、していないかというのは議員本人がいちばん知っているわけです。自分がやましいことをしてないと思うのなら堂々と戦え。堂々と歳費を頂いて仕事をやれ。もし自分にやましさと曇りがあるなら出処進退判断しろと言いたいですね」

政界の「みんなの常識」は一般人の常識に当てはまっているのか

 ガーシー騒動を踏まえ、立憲民主党は正当な理由がないまま長期にわたって国会を欠席し懲戒処分を受けた議員について、歳費を4割減額する法案を国会に提出する方針という。ただ山崎元参院議長の「よんどころのない事情」などはOKで、逮捕や起訴もされていないガーシー氏はNGというのは、少々わかりにくいのではないか。

 言うまでもなく「常識」とは人々が共通に持つ知識や判断力などを指すが、ガーシー氏はともかく「政界の常識」も、一般のものからかけ離れているように見えてしまう。

 物価上昇で国民が生活苦にあえぐ中、参院議院運営委員会は麹町議員宿舎南棟(東京・千代田区)の家賃を4月から減額することを決定。3月1、2日にインドで開かれた20カ国・地域(G20)外相会合には国会対応優先のため林芳正外相が出席できず、ゼレンスキー大統領から呼びかけられた岸田文雄首相のウクライナ訪問は国会に事前承認を諮るルールがあるため、安全上の理由から実現できていない。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い政府が推奨したオンライン化は民間レベルで進んだが、国会はほぼ「アナログ」のままだ。ネット選挙もオンライン投票まで進んでいない。法や規則、慣習は守られる必要があるが「不磨の大典」ではない。時代に合わないもの、国益にそぐわないものは、変えていくことも国会の役割だろう。

 迷惑駐車のように、みんながやっているとしても法や規則の逸脱は許されるわけではない。政界における「みんなの常識」が今日に即したものなのかは再考してみる必要がある。

 国会での発言が初めてとなるガーシー氏は、3月8日にも予定される参院本会議で陳謝する意向を示している。鈴木宗男委員長は「やましいことをしてないと思うのなら堂々と戦え。堂々と歳費を頂いて仕事をやれ」と言及していたが、ガーシー氏はこの言葉を今、どのように受け止めるのだろうか。

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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