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反発が多いコオロギフードは本当に地球を救うのか…実際のところどのような可能性があるのか

 食用としてのコオロギに注目が集まっている。ひろゆきや中川翔子など、各界の著名人もコオロギ食について反応。「コオロギは救世主になりえる」と訴える推進派と「コオロギなんて食べたくない」と拒否反応を示す否定派の意見が反発し合っている形だ。では実際のところ、コオロギにはどのような可能性があるのか。元徳島大学学長でコオロギ研究の第一人者である野地澄晴氏の著書を基に考える――。全4回中の1回目。 

※本稿は野地澄晴著『最強の食材コオロギフードが地球を救う』(小学館)から抜粋・編集したものです。本著は2021年8月に発売されたものであり、記載内容は当時のものです。 

確実に訪れる「世界食料不足

 地球には様々な課題があり、それを解決する必要がある。2015年の国際連合サミットで、地球規模で解決しなければならない目標として、貧困の根絶、飢餓をなくす、地球環境の保全など17の分野を掲げ、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として採択された。 

 特に急がれているのが、やはり環境悪化の問題と人口増による食料不足の課題である。世の中は急速に変化しており、未来を予測することは困難であると言われている。 

 しかし、現在のデータから確実に未来を予測できるデータがある。それは人口変動に関するデータである。オランダのヴァーヘニンゲン大学のA.ヴァン・ハウス博士らが2013年に発表した報告書によると、2050年には地球上の人口が97億人に達する。 

 そうなると当然、様々な問題が生じてくる。特に深刻なのは食料の問題である。2013年でも約8億人(世界人口の9人に1人)がいまだに空腹を抱えたまま毎晩眠りについている。さらに、世界食料計画によると3人に1人が何らかの栄養不良に苦しんでいるという。飽食の時代と言われる日本でも、空腹を抱えて寝ている子供がいる。 

 国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界的な人口増加が加速する中で、2020年以降の人口の増加に伴う動物性タンパク質の不足量は2050年には1億トンに上ると予測されており、天然資源に依存しない高効率な動物性タンパク質生産技術の開発は喫緊の課題である。 

 しかし、食用動物性タンパク質の大部分を供給する既存の畜産・水産業は、生産される動物性タンパク質の数倍から10倍もの飼料が必要であり、効率性の面で大きな問題を抱えている。また、飼料となる大豆やトウモロコシなどは、ヒトの食料とも競合するので、大きな問題となる。 

 さらに水産養殖では、配合飼料の主要な原料である魚粉の生産量が、海洋環境の変化や過剰な漁獲により減少傾向にあり、持続性への危機感が高まっている。このような状況から、世界の食料不足は確実にやって来ると予測されている。 

 特に、食肉の需要は世界全体で約1.7倍に増加すると予想されている。しかし、ブラウン博士らが指摘するように、地球の環境の悪化を促進する原因となる従来の畜産による食肉生産の経済的、環境的コストは大きく、規模の拡大による対応は困難である。 

世界130か国、20億人以上が昆虫を食べている

 この事態に危機感を覚えた国際連合は、食肉問題解決のために昆虫資源の積極的な活用を提唱した。その根拠が報告書「食用昆虫(Edible insects)」に掲載されている。 

 昆虫食の推進は、SDGs目標2「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」及び、SDGs目標3「あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」を達成するために、一つの重要な取り組みとして取り上げられている。 

 実際、世界の中では昆虫を食している国は多く、例えばタイなどは、昆虫食の国である。国際連合食糧農業機関のレポートによると、世界で130か国以上、約20億人が1900種以上の昆虫を常食している。 

 日本で昆虫食にあまり嫌悪感を示さないのは長野県民であろうか。長野県も海に面していないことが昆虫食文化を発展させた理由の一つであろう。実際、イナゴや蜂の幼虫などは、現在も食べられている。 

 昆虫は非常に重要な食料源であるとは言え、社会受容性が低いのも事実である。「昆虫を食べる」ことに嫌悪感を持っている人も多い。私自身がそうであった。しかし、実際に料理されたコオロギを食べてみると美味しいのである。 

 日本国内においても、2016年に農林水産省と農研機構の共催による国際シンポジウム「昆虫の新たな用途展開の可能性を探る」が開催され、昆虫の食飼料化について議論がなされた。 

 昆虫資源の食用利用への関心は、ヨーロッパや米国で高まっている。もともと昆虫食の文化のない欧米において、昆虫食に関するスタートアップ企業が多数設立され、資金調達に成功している。 

 また、2018年以降、欧州連合(EU)で昆虫は「新規食品(ノヴェルフード)」と規定された。それまでは、各国が独自に販売を認可していた食用昆虫だが、新規食品と規定されることで、一度認可が下りれば、EU全域で流通が可能になるため、市場の拡大に期待がかかっている。フードテックの流れは、確実に昆虫食の世界にも来ている。 

フードロスもなくせる「何でも食べる」コオロギ

 昆虫がタンパク資源として優れている点について、スカンジナビア航空の機内誌(2018年9月号)から引用する。 

  1. 昆虫はCO2の排出量が牛などの家畜を飼育する場合よりも100倍少ない
  2. 多くの動物性食材の中で、昆虫は餌の量が最も少なく飼育できる
  3. 100gの生鮮昆虫には100gのステーキと同じタンパク質が含まれている
  4. 昆虫には、タンパク質だけでなく、繊維、脂質、ビタミンなどが含まれている

 食べられる昆虫は多いが、その中でなぜコオロギが食料難を解決するのに最も適した昆虫なのであろうか? 

 国際連合食糧農業機関の報告書「食用昆虫(Edible insects)」では、高効率な動物性タンパク質の供給源としてコオロギの積極的な活用を推奨している。 

 昆虫食として日本人に馴染のあるのは、イナゴである。蚕もコオロギも非常時には食べたであろう。多くの昆虫は食べるものを限定する傾向があり、例えば、絹を産生する蚕は桑の葉しか食べない。その点、コオロギは雑食性であり、飼料の入手が容易であることが長所の一つである。 

 つまり、コオロギはヒトが残した食料や使用しなかった食材の大部分を餌として使用できる。日本国内においては、近年、国外から約3000万トンもの大量の食料を輸入しているにもかかわらず、食品ロスが年間646万トンあり、輸入量の約20%にもなっており、その処理が社会的な問題となっている。 

 徳島大学の三戸太郎博士らの研究で、コオロギ飼育において、飼料の一部を食品残渣(ざんさ)で置き換えることが可能であることが明らかになりつつある。 

 この研究をさらに進め、栄養価や安全性を確保し、完全に食品残渣に置き換えることに成功すれば、循環型動物性タンパク質生産システムを構築できる。この研究を発展させることで、食品残渣処理の社会ニーズ解決とともに低コストなコオロギ飼料という産業ニーズの解決にもつながる。 

 高効率なコオロギ養殖を実現できれば、動物性タンパク質の持続的な安定大量供給手段が創出されることになる。このことは世界的な食糧難を回避する食料安全保障の状況を一変させる可能性があり、社会・経済インパクトは非常に大きい。また、コオロギは高密度に飼育可能であり、品種改良の技術が徳島大学において確立されていることも有利な点である。 

 さらに、コオロギが推奨されるのは、東南アジアでの実績による。コオロギは東南アジアの食文化に深く根付き、例えばタイには約2万軒のコオロギ農家が存在する。 

野地澄晴著『最強の食材コオロギフードが地球を救う』(小学館)
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この記事の著者
野地澄晴

元徳島大学長。1948年、愛媛県松山市生まれ。1970年、福井大学工学部応用物理学科卒業。1980年、広島大学大学院理学研究科修了(理学博士)。1980年、米国衛生研究所・客員研究員。1983年、岡山大学歯学部助手。1992年、徳島大学工学部教授。2012年、徳島大学理事、2016年、徳島大学学長。専門分野は、発生・再生生物学。

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