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昔からコオロギは人類のそばにいた!すでに証明されている食料としての“安全性”と“有効性”

 コオロギと人間の関わりは深い。元徳島大学学長でコオロギ研究の第一人者である野地澄晴氏によると、コオロギは蚕に次いで家畜化された昆虫であるという。コオロギ食について世論の賛否が分かれる中、コオロギと人間の歴史と、そんなコオロギを食べることによる安全性や効果を野地氏の著書を基に考える――。全4回中の2回目。 

※本稿は野地澄晴著『最強の食材コオロギフードが地球を救う』(小学館)から抜粋・編集したものです。本著は2021年8月に発売されたものであり、記載内容は当時のものです。 

第1回:前・徳島大学長「なぜあなたはコオロギを食べるべきか」…世界を救うのは”やっぱりコオロギ”と語るワケ

1200年前からコオロギを家畜化していた中国 

 人類を含む動物の最大の課題はいつも、いかに食料を確保するかである。 

 人類は昆虫も有効に利用してきた。蜜蜂が花の蜜を集めてくるように家畜化し、食料ではないが、蚕が絹糸を作るように家畜化してきた。蚕は、今から5000〜6000年も前に中国の黄河や揚子江流域で、繭を作る野生の蛾クワコを家畜化し、農家で飼育しやすい蚕にした。 

 それをやり遂げた昔の人々に敬意を表する。シルクロードができるほど、絹は繊維として貴重であった。 

 次に家畜化される昆虫は、コオロギである。中国の清朝は、1616年に満州において満州族の愛新覚羅により建国され、1644年から1912年まで中国とモンゴルを支配し、最後の王朝になった。その最後の皇帝は愛新覚羅・溥儀であった。 

 1987年、彼の一生を映画化したベルナルド・ベルトルッチ監督製作の「ラストエンペラー」にコオロギが最初と最後に登場する。小林理研ニュース98号(2007年)の山下充康氏の「コオロギ容れ」からそのシーンの記載を引用する。 

 山下氏は、上海の骨董店でコオロギを入れる奇妙な容器を入手する。そのコオロギの容器からラストエンペラーのコオロギが登場する場面を思い出す。 

「はじめに登場するのは溥儀が2歳10か月での即位式。荘厳を極めた即位式。静まり返った広場、甲冑に身を固めて兵士が整列している。すると、一人の兵士の懐で突然コオロギが鳴き出す。幼い溥儀は即位式の緊張の中でコオロギの声に救われたように幼児の表情を取り戻し『コオロギだ!』と叫んで兵士に駆けよる。 

 兵士が懐から取り出すのが中国独特のコオロギを入れる容器。そこから大きなコオロギが這い出してくる。二回目に登場するのは約60年後、最後の場面で、紫禁城の玉座の後ろから、年老いた溥儀がコオロギの容器を取り出して少年に手渡す。少年が蓋を取ると溥儀の姿はスクリーンから忽然と消えている」 

 「邯鄲の夢」ということわざがあり、はかない人生のことを意味する。邯鄲はコオロギ科の虫の名前であり、そのことわざの意味を象徴したとも言われている。 

 ところで、中国にはなぜコオロギを入れる容器が骨董店にあるのか?中国ではコオロギを食べる地域もあるが、遊びの道具として発展した。「コオロギと革命の中国」を出版した竹内実氏によると、2000年以上前から、中国ではコオロギが蟋蟀(シツシュツ)という名称で呼ばれていた。 

 唐代(618〜907年)にはコオロギを戦わせる「闘蟋(とうしつ)」が盛んになった。闘蟋では、2匹のオスコオロギを同じ容器の中に入れると、「喧嘩鳴き」をして威嚇し、激しい攻撃を始める。負けたコオロギは逃げて、勝敗が決する。この闘蟋は、1200年以上中国で継続されており、賭博の対象になっている。 

日本では「カエルの餌」として普及 

 一方、コオロギは、主に東南アジアで自然食品として食べられてきた。遊び道具か食料品かを左右したのは、気温であろう。実際、タイのバンコクでは、一年を通して気温は22℃から35℃に変化するが、18℃未満または37℃を超えることは滅多にないので、食用のコオロギにとっては最適である。 

 中国や日本は東南アジアより北に位置し、食用のコオロギは、低い温度が続く冬には死滅するので、食料品にならなかった。現在、日本での食用コオロギの飼育は30℃の環境で行っている。 

 日本の食用コオロギであるフタホシコオロギの歴史は、1967年に創設された広島大学の両生類研究施設から始まっている。この施設では、研究のため当然多くの種類のカエルなどを飼育しなければならなかったが、問題はその餌であった。 

 当時、私は広島大学の大学院生で生体高分子研究を行っていたが、研究室にハエが多いことに気がついた。その理由を同僚に尋ねると、「両生類研究施設でカエルの餌として飼育しているハエが逃げ出しているためだ」とのことであった。しかし、ある時からぱったり、そのハエがいなくなったのである。その理由はカエルの餌をハエからフタホシコオロギに変えたからであった。 

 フタホシコオロギは、アフリカや南アジアで最もポピュラーであり、一年を通じて産卵し、過密飼育にも耐える理想的な餌である。同研究施設の西岡みどり博士は、コオロギに詳しい松浦一郎氏のアドバイスに従い、1973年からカエルの餌として使用できるかテストを開始した。 

 西岡博士らがフタホシコオロギを石垣島で採取し、本州に持ち帰ってカエルの餌として人工的に飼育したことが、日本全土にフタホシコオロギが普及するきっかけとなった。 

 たまたま、私が広島大学でコオロギに関する講演をした時に、西岡博士が会場にきておられ、講演の後の質疑応答の時に、「そのコオロギは私が最初に飼育を始めたのだ」とおっしゃった。今や、そのことが、世界を救うことに貢献している。 

 フタホシコオロギの食料としての安全性と有効性は、西岡博士によりすでにカエルで証明されていた。 

コオロギは栄養素豊富なスーパーフード 

 昔から食されてきたコオロギは、他の動物性食品と同様に適切に処理されていれば、一般的に安全である。それを科学的に裏付ける研究が世界で行われている。 

 例えばポーランドのルブリン医科大学のM・モントフスカ博士、E・フォルナル博士らの2019年の論文「食用コオロギ・パウダーの栄養価、タンパク質とペプチドの組成」が報告されている。 

 「本報告書は、パウダー状のコオロギに関する知識の向上を目的とした。基本的な栄養素性を分析した結果、コオロギのパウダーはタンパク質に富んでいた。ミネラルでは、カルシウム、マグネシウム、鉄などに加え、銅、マンガン、亜鉛の含有量が特に高かった」と報告している。 

 ケニアの大学のマガラ博士らの論文では、ビタミンについても記載しており、「食用コオロギには、ビタミンB群やビタミンA、C、D、E、Kなど、必要なビタミン類も豊富に含まれています。コオロギは、多くの国の経済や生活に貢献する貴重な役割を果たしており、薬効や社会的利益もあります。この総説により、世界における食料、飼料、その他の利益の源としてのコオロギの認識を高め、持続的な利用のためにコオロギを大量に養殖することが期待されます」と記載している。 

 韓国の安東大学のJH.キム教授らは、フタホシコオロギの研究によって、アルコールの過剰摂取による肝炎症などの症状に対して、コオロギの水抽出物を飲むことで予防できると報告している。 

 彼らは、韓国食品医薬品局が食用昆虫として認めているフタホシコオロギで、マウスの急性アルコール性肝障害に対する保護効果を調べた。抽出物をアルコール投与前に投与したところ、アルコールによって誘発された肝臓の症状が減少することを発見した。 

 ハンガリーの大学の研究者であるB.ビロ博士らは、2020年に科学専門誌「Foods」に、コオロギ・パウダーを入れたオート麦製のビスケットに関する分析と食べた感触について報告している。 

 「サンプルの栄養組成を推定したところ、欧州連合の規則では、10%及び15%のコオロギ・パウダー入りのビスケットは、タンパク源として表示することができることが分かった。色や触感を評価したところ、15%よりも10%のコオロギ・パウダー入りのビスケットが消費者に好まれた」と報告している。 

野地澄晴著『最強の食材コオロギフードが地球を救う』(小学館)
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この記事の著者
野地澄晴

元徳島大学長。1948年、愛媛県松山市生まれ。1970年、福井大学工学部応用物理学科卒業。1980年、広島大学大学院理学研究科修了(理学博士)。1980年、米国衛生研究所・客員研究員。1983年、岡山大学歯学部助手。1992年、徳島大学工学部教授。2012年、徳島大学理事、2016年、徳島大学学長。専門分野は、発生・再生生物学。

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