「ああ言えばこう言う」リニア妨害の川勝知事に周辺首長続々反発で”いよいよどうにもできない”…「稚拙な交渉術で経済成長を阻害」の指摘

小倉健一
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 リニア中央新幹線の静岡県内の工事がなかなか始まらない。作家の小倉健一氏がその理由や背景を解説する。

周辺首長が相次ぎ反発! もはや四面楚歌

 リニア新幹線の工事をめぐる静岡県とJR東海の協議について、静岡県島田市の染谷絹代市長が「ああ言えばこう言うという状態が続いている」と苦言を呈し、話題を呼んだ。染谷市長だけでなく、山梨県の長崎幸太郎知事も、静岡県が山梨県にボーリング調査を進めないよう通達したことに「大変強い違和感」と批判。静岡市の難波喬司市長も「沿線自治体のほとんどが賛成」などと述べている。

 もはや四面楚歌の静岡県の川勝平太知事だが、一体なぜここまで頑ななのだろうか。そしてなぜ引くに引けないのか――。

民間企業をいじめ、日本の経済成長を阻害するだけの事態

 静岡県内の工区を巡って、いわゆる「大井川の水の問題」と呼ばれた問題は川勝知事の難癖にもかかわらず、実質的な議論は終息しかけているが、川勝知事による「リニア建設」への妨害は執拗に続いている。

 2027年だったリニアの開業も、どんどん遅れていくことになる。明日にでも川勝知事が改心して工事の許可を出しても2030年に間に合うかどうか。

 水問題をさらに長引かせて、今度は現在国の有識者会議で議論中の生態系の問題についても、水問題と同様、その結論にケチをつけるようなことがあれば、すでに3年停滞しているこの問題が5年10年と、長引いていくであろう。

  今でこそ世界最先端の技術である「リニア」が、中国勢などの猛烈な技術開発、模倣などによって、技術が陳腐化してしまうかもしれない。当初は、静岡工区の建設許可と引き換えに、なんらかの譲歩を引き出そうとしていた節があるが、自身の稚拙な交渉術のせいで、ただ単に民間企業をいじめ、日本の経済成長を阻害するだけの事態になってしまった。

川勝知事が政治家としてJR東海から引き出せることは

 例えば「静岡空港駅」なる新幹線駅をJR東海につくってほしいと川勝知事は言っていた。しかし、ただでさえ多すぎる静岡県下の新幹線駅(6駅)を減らすなどの静岡県側の努力が必要だろう。JR東海は民間企業なのである。なんで利用客が見込めない、黒字が見込めない新幹線の駅をつくらないといけないのか意味不明だ。もしも、そこで生じる損失を埋めるべく、JR東海が静岡県下のローカル線を廃止したら、川勝知事は怒るのだろう。JR東海は、ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のコインボックスではないのだから、叩(たた)けばコイン(お金・譲歩)が出てくると考えたら大間違いだ。

 そんなに静岡空港駅をつくりたいなら、静岡県が静岡空港駅をつくり、新幹線掛川駅までの路線をつくって、静岡県が運営すればよいではないか。こうすれば、JR東海は駅をつくる費用もかからず、東海道新幹線の運行ダイヤへの影響もない。ただし、川勝知事がリニアで大騒ぎして、この空港アクセスの話は完全に止まった。ただゴネるだけでは、政治家としての手腕に疑問符がつく。

 いずれにしろ、川勝知事の言葉としても、新幹線の静岡空港駅の着工と、リニアは関係がないと言明してしまった以上、もうこの議論は終わっている。川勝知事はJR東海に新幹線沿線の街づくりに積極的に関わってもらうことを引き出すぐらいしか、何も残っていない。

「リニアは静岡県にメリットない」は本当か

 また、すでにJR東海は、工事用車両の通行の安全確保と地域振興のために、大井川の中流域に位置する井川地区と静岡市街地を結ぶ道路の一つである南アルプス公園線約4.7キロの「県道トンネル」建設費用140億円を負担することにしている。本来であれば、地域振興の恩恵を受ける静岡市が半分は負担すべきだが、JR東海が譲歩して全額を負担することになった。静岡県からは、リニアによるメリットがない、と主張する声が聞こえるが、南アルプスへのアクセスが改善されることで、観光客の増加などが見込め、交通アクセスの悪い過疎地域もリニア建設によって発展するのではないだろか。

 つくづく学者が知事になるというのは、いい面、悪い面があると思い知らされた次第だ。学者や政治家は偉そうにさえしていれば、周囲が忖度(そんたく)をしてくれる職業なのだろう。

 そんなリニア妨害を続ける川勝知事を援護射撃し続けるのが、地元紙・静岡新聞である。静岡新聞は、発行部数が60万部弱あり、県内シェアは60%を超え、静岡市及び大井川流域では80%近くにもなる。同紙しか読んでいない静岡県民も多いことだろう。

 その静岡新聞は「視座(4月17日)JRはけじめをつけよ リニア工事 混迷する『全量戻し』」と題する記事の中で、論説委員長の中島忠男氏が以下のような主張をした。

「今年に入り、全国紙やネットメディアが相次いで誤報を流した」

一体何が誤報なのか…本当に「誤報」と断定できるのか

 デジタル大辞泉には「ご‐ほう【誤報】読み方:ごほう まちがった知らせ。報道されたことが事実と違っていること。『事件は—だった』」とある。

 私の寄稿がその中に入っているのかは不明だが、全国紙、他メディアを「誤報」と断じるのは、極めて異常な事態である。「メディア」の存在意義とは、まさに読者との信頼で成立しており、他メディアから「誤報」との評価を受けることは重大な事件である。「誤報」を流したメディアは通常、信頼が大きく失墜してしまう。他メディアの信頼を失墜させかねない「誤報」という決めつけには、大きな責任がともなう。

 では、静岡新聞は、他紙の何が誤報だと言っているのかが問題だ。これが本当に「誤報」と断定できるものなのか。

 記事では「本県は掘削工事に伴う大井川水系の湧水は工事中と工事後の区別なく、全て大井川に戻すようJRに求めてきた。10年間にわたる一貫した姿勢で、中間報告にも明記された『全量戻し』の基本的考え方だ」として「なのに、着工を止める新たな主張のごとき報道が散見」とある。

他メディアの信頼を全般的に貶めているのでは

 ここが他メディアを『誤報』と断定する静岡新聞の中島忠男論説委員長の主張の核心部分である。つまり「10年間静岡県は大井川へ全量戻せと言ってきただけで、静岡県の新しい意見ではない。それを新しい意見のように報道するのは誤報だ」としているのである。

 しかし、ちょっと待ってほしい。「10年間静岡県は大井川へ全量戻せと言ってきただけで、静岡県の新しい意見ではない」という部分が正しいとしても、「(昔から言われていることを)新しい意見のように報道すること」は(誤報という言葉の意味とは一致せず)けっして「誤報」ではない。紛らわしい記事があったのなら、紛らわしい記事だと評価をすべきではないか。

 中島氏が「誤報」とみなした記事を明らかにしていないため詳細は分かりかねるが、「誤報」の記事が存在したとしても、「全国紙やネットメディアが相次いで誤報を流した」として他メディアの信頼を全般的に貶(おとし)めることこそ、印象操作にあたらないだろうか。

小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact/

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