タブーを叫ぶ若者…なぜワールドカップ「ドーハの歓喜」が中国国民に”決死デモ”を決意させたのか

「中国人で良かった」…当初は国民の支持を集めたゼロコロナ政策

「共産党下台! 習近平下台!(共産党退陣! 習近平退陣!)」

 11月27日未明、上海市中心部の閑静な住宅街「ウルムチ中路」で発生した住民の抗議デモは、瞬く間に中国全土の大都市に広がった。当初はウルムチ火災の追悼を名目に路上に集まった市民たちだったが、その悲しみや怒りはゼロコロナ政策への反対の意思表明となり、ついに共産党や絶対権力者である習近平へも批判が向けられることになった。こうした動きに呼応したのが、北京大学や清華大学、武漢大学など中国の名門大学に通うエリート学生たちだ。当局に摘発の口実を与えないために白紙を掲げるという奇手で、数百~数千人単位で抗議デモを行ったのだ。

 「白紙革命」と称されるようになったこの一連のデモは、国際社会に映像や情報が共有される中、学校側が学生たちを帰省させ、政府がゼロコロナ政策の緩和を発表したことによって、現在は落ち着きを見せている。だが、瞬間的にせよ、国家指導者を名指しで批判するのは、近年の中国では異例のことだ。特に習近平政権では言論統制が強化され、政府批判は重大犯罪「国家転覆罪」として取り締まりの対象となってきたからだ。そして、学生たちが公然と「自由」を求め抗議デモを行ったのは、1989年の天安門事件以来、初めての事態でもある。

 そもそも、なぜ今回のデモが起こったのか。2020年3月、習近平が「新型コロナウイルスを必ず克服し全面勝利する」と宣言し、ゼロコロナ政策を打ち出した時、多くの中国国民は喝采を送っていた。当時、欧米諸国では一日当たり数千人単位の死亡が報じられ、ネット上では「欧米諸国は政府が対策もせず、多くの人が毎日死んでいる。中国人で良かった」「世界中が中国のマスクや防護服を必要としている」「なぜ他国の指導者は中国のように国民の命を必ず守ると言えないのだ」など中国の政策を誇るような声が多く寄せられていた。

「もう我慢できない」…中国の友人から次々に寄せられる悲痛なSNSメッセージ

 だが今年に入って様相は一変する。なんの経済補償もないまま乱暴に実施されてきたロックダウンや外出制限、日常的な核酸検査(PCR検査)に、国民はいつの間にか怒りや不満を募らせていた。10年ほど前、中国・重慶大学に留学していた私のもとには、今年に入り、当時の同級生たちから悲痛なメッセージが届いていた。重慶市内で、家族で飲食店を営む友人は「度重なる外出制限と営業停止で店舗の家賃が払えなくなった。経済補償もなく、これからどうやって生活していけばいいのか分からない。家族みんな絶望している」と落胆を隠さなかった。

 また、別の友人からは「自宅マンションが隔離の対象となり、もう20日以上も外出ができず失業してしまった。自宅付近でも抗議デモが発生している。もう我慢できない。自分もデモに参加したい。もし自分の身に何かあったら日本のメディアに自分が書いた声明文を送ってほしい」という切迫したメッセージが届いたこともあった。私は「くれぐれも短気を起さないように」となだめるのがやっとだった。

 中国の都市部では日本のような一軒家は少なく、マンション型の住居が一般的である。ゼロコロナ政策は、マンション住民に一人でも陽性反応者がいた場合、有無を言わせずマンション全体を封鎖し、全住民が外出制限の対象となる。マンションにはバリケードが設置され、住民は一切の外出が禁止される。これに従わなければ逮捕されることもあるのだ。ゼロコロナ政策を優先するあまり、持病の治療も受けられず多くの人が亡くなっていたことも伝えられていた。

 そんな中、ウルムチのマンション火災が発生し、ワールドカップで世界各国の観客たちがノーマスクで大きな声援を送る様子が放送された。市民の命を守るために実施されていたはずのゼロコロナ政策が人命を奪う一方、世界各国がコロナ共存路線に転換しているという現実を目の当たりにしたのだ。中国市民が立ち上がるには十分な理由だったのだ。

日本でも中国人による抗議デモが…だが実態は

 今回の抗議デモは、海外各国にも広がり、日本でも何度かにわたって抗議デモが行われた。1990年代以降に生まれた若い世代の中国人留学生や社会人がSNSで呼びかけ合ったのだ。

 11月27日に新宿駅西口で行われたデモには200人ほどが集まり、主に「ウルムチ火災追悼」「ゼロコロナ政策を堅持する共産党及び習近平政権の退陣」「自由」という3つの主張が行われた。間近で見ていても、彼らの切実さや強い団結力が伝わる内容だった。だが続いて11月30日に新宿駅南口で行われた抗議デモは、参加者の数こそ大きく増えていたが、違和感を覚えることも多かった。主義主張が入り混じった団体が参加していて、まったく一体感が感じられなかったからだ。

 新疆ウイグル自治区の独立を求め、共産党政権前に存在した「東トルキスタン共和国」の国旗を掲げるグループもいれば、中国で新国家「大蜀民国(中国出身の歴史思想家・劉仲敬が主張する民族独立国家)」の設立を目指す政治団体もいた。中国政府からカルト教団指定を受けている世界最大の反共組織・法輪功メンバーの姿も目立ち、デモに参加する中国人同士の口論も見られた。

 雑多な勢力が久々のデモに便乗して参加しているようで、これでは政治的な力を持つことは難しいだろう。この反省を受けてか、12月2日に池袋で行われたデモでは「ウルムチ追悼」のみの集会にトーンダウンした。

民主化の夢を追い求めた父親世代…夢は若者たちに引き継がれたのか

 1987年に留学生として来日し、現在、翻訳会社を営む傍らジャーナリストとして活動している周来友氏は、一連の出来事についてこう分析する。

「今回の国内外の抗議デモで中国政府が最も恐れていることは、国際的な孤立です。天安門事件のように抗議デモを武力鎮圧すれば、再び国際的孤立を深めることになると判断しています。共産党体制や習近平政権の存在そのものには影響はないと考えられますが、抗議デモがゼロコロナ政策の緩和のきっかけとなったことは間違いなく、抗議デモは一定の成功を収めたと言えるでしょう」

 これまで、声を上げることが無かった人々が、行動に移したことによって、政府を多少なりとも動かすことができた。このことは評価したいという。だが、すでに中国では新たな問題も発生している。

「実はいま、懸念されているのが、急にゼロコロナ規制が緩和されたことによる市民生活の混乱なのです。政府は国民に対し、無症状患者や軽症者については常備薬やパルスオキシメーターを用意した上で、自宅療養を基本方針とする通達を発表しました。ところが、政府が指定する常備薬の在庫が不足しており、都市部の薬局では連日、市民たちの行列ができています。また、これまでコロナの危険性を散々煽(あお)られてきた市民たちが、発熱外来に殺到するなどの混乱も見られています。急速な規制緩和に対応できない市民からは政府への不満の声も寄せられており、一部の地域では再び抗議デモが突発的に発生するかもしれません」

 周氏は、ゼロコロナ政策は緩和されたが、今度は緩和によって混乱が起き、これ以上続けば、再び違った目的の大規模な抗議デモが発生し、習近平政権の政権運営にも大きな影響を及ぼす可能性があると指摘している。膨大な人口を抱える中国で政策を急転換することの難しさを表しているのかもしれない。

 ともあれ、今回の「白紙革命」によって、中国政府がゼロコロナ政策の規制緩和を進めざるを得ない状況となったことは、「デモの成功体験」として、中国の若者の記憶にも深く刻まれることになったのではないか。それは日本にいる中国人でも同様だろう。私はこれまで中国の友人が積極的に政治の話をするのを聞いたことがなかった。彼らは意識的に政治の話をすることを避けていたようだった。そうした姿勢がひょっとしたら変わってくるのかもしれない。

 実際、新宿のデモ参加者の一人は「父親が天安門事件の民主化運動参加者で、これまでも家の中では民主主義についてよく父親と議論はしていた。だが、自分が実際にデモに参加してみて、ようやく父親の言っていることの実感が湧いてきた」と語っていた。

 周氏の言うように、一連の動きが、即、中国の政治を変えるような大きな力となるとは考えられない。少なくとも現時点では。だが、今回のデモをきっかけに、かつて90年代当時、「民主化の夢」を求めながら、果たせなかった多くの若者たちの想いが、新たな世代に引き継がれた、とは言えるかもしれない。

この記事の著者
廣瀬大介

1986年、東京都生まれ。明治大学農学部を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年帰国。以後、語学教育事業などに携わり、現在はフリーランス記者として週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人のアンダーグラウンドの実態などについて情報を発信している。

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