親の顔が見てみたい…岸田の「ドラ息子秘書官」の欧州お土産騒動に大物政治家が「おれはもらってない」
世襲議員は珍しくないが、親から継ぐ前にこれほど目立つ人物はレアだろう。岸田文雄首相の長男で首相秘書官(政務担当)に就いている翔太郎氏の“奇怪”な行動が批判にさらされている。1月に首相の欧米5カ国歴訪に同行した際、閣僚らへのお土産を公用車で買い回っていたと国会で追及されているのだ。首相秘書官と言えばトップリーダーに寄り添い、あらゆる情報にアクセス可能な“右腕”として多忙を極めるはずだが、32歳で年収1000万円を超えるという翔太郎秘書官の役割とは。ジャーナリストの佐藤健太氏が語る―。
舛添要一はダメだったのに、なぜドラ息子秘書官はOKなのか
「本来業務に含まれ得る。公務だ」。1月26日発売の週刊新潮が翔太郎氏による公用車を用いた観光や買い物を報じたことを受けて、父親の岸田首相は31日の衆院予算委員会でこのように説明した。翔太郎氏は首相のポケットマネーで全閣僚に土産品を購入していたとし、「公務」のため問題はないとの認識を示している。
公用車を使って買い物をしたことには、政権ナンバー2の松野博一官房長官も記者会見でこのようにカバーする。「各々の業務が円滑に遂行できるよう、不測の事態にも適切に対処できるよう必要に応じて官用車を配車することとしている」。要は、土産物の購入は私用目的ではなく、外遊時に「不測の事態」が生じることも想定すれば公用車の利用はOKということだ。
国会での議論を聞いていると、ある人物の主張を思い出す。「公用車は『動く知事室』」「運転手には守秘義務もあり、セキュリティーも確保されている。これはタクシーではできない」。2016年4月、公用車で毎週のように神奈川県湯河原町にある別荘に通っていたことを問題視された当時の舛添要一都知事はこう主張した。15年4月からの約1年間に計48回、100キロほど離れた別荘まで送迎させていた舛添氏は「ルールに従ってやっている」として公用車の利用は問題ないとの考えを強調している。
「重要ポストを君だけにプレゼント」岸田総理の親心
もちろん、国と自治体、リーダーと秘書官の違いはあるだろう。ただ、舛添氏が「公私混同」と猛批判を浴びて最終的に辞任まで追い込まれただけに、翔太郎氏が公用車で買い物などに向かう姿勢には疑問を感じざるを得ない。立憲民主党が「税金を使う公用車で行き、税金で雇われた大使館員が随行している以上、説明責任が必要だ」(山井和則衆院議員)、「プライベートのお土産を買うことは公務なのか」(後藤祐一衆院議員)と指摘するのはもっともだろう。
翔太郎氏は、総合商社を経て岸田氏の公設秘書に就き、昨年10月に首相秘書官へ就任している。2021年10月の政権発足時は元経済産業事務次官の嶋田隆氏を筆頭格の政務秘書官に起用し、岸田事務所の山本高義政策秘書と6人の事務担当秘書官の計8人態勢で周りを固めていたが、山本氏と入れ替わる形で政務秘書官に就いたのが翔太郎氏だ。
政治経験に乏しく、霞が関官僚とも通じていない翔太郎氏の抜擢には当時から「公私混同」との声が漏れていたのは事実だ。もちろん、自民党の石破茂元幹事長が「首相自身が最も信頼する方、その方が秘書官である。それがご子息ということであって、ご子息だからダメという話にはならない」というのは一理ある。ただ、祖父や父親が衆院議員を務めた「3世議員」である岸田首相が自らの跡継ぎとして、翔太郎氏に重要ポストを経験させておきたいと“親心”を抱いたのは間違いないだろう。
飯島勲、今井尚哉…なだたる政務秘書官で驚異的な仕事っぷり
かつて首相を務めた自民党の麻生太郎副総裁は「どす黒いまでの孤独」と宰相の座を評したが、政争が常に生じる永田町で首相が「最も信頼する人物」として誰を選ぼうが自由だ。我が子であれば心も通じていることだろう。しかし、最高権力者に最も近い政務担当の首相秘書官は単に「精神安定剤」としての役割を発揮していれば良いわけではない。特別職の国家公務員である以上、首相の事務所にいる秘書とは明確に異なる。
最近の政務秘書官で辣腕を振るったのは、小泉純一郎首相時代の飯島勲氏や安倍晋三政権の今井尚哉氏が有名だ。小泉氏の初当選とともに秘書に就いた飯島氏は、官僚やメディア関係者と太いパイプを築き、「ベテラン議員を優に上回る情報網を持っている」とされた。通商産業省(現・経済産業省)の官僚だった今井氏は、2006年の第1次安倍政権で事務秘書官に就いた後、資源エネルギー庁次長などを経て12年末の第2次政権発足に伴い政務秘書官に就任した。両者が仕えた宰相に忠誠心を見せていたのは当然だが、翔太郎氏との違いは政官財、メディア界に情報網を張り巡らせる努力を惜しまなかった点だろう。
昼夜を問わず、毎日何件ものアポイントを入れて意見を交わし、信頼できるネットワークを構築する。相手が大物であっても丁々発止の議論を行い、あらゆる情報を収集して首相に進言する。電話やメールに加え、秘書官同士の情報交換などを終えれば帰宅が深夜になることは珍しくない。
元閣僚「お土産なんてもらったことないんですけど…」
主要省庁から集まる事務の首相秘書官、議員事務所の公設・私設秘書とは求められる役割が異なるのだ。面会や連絡といった調整だけでなく、政務秘書官は自らが「プレイヤー」となることも要求されるポストといえる。対外的には首相の「右腕」として重要視され、時にトップの代わりに秘密交渉の舞台に立つことすらある。
あらゆる情報にアクセス可能で、各種調整や交渉に臨まなければならない政権の最重要人物は、本来であれば「観光」や「土産品の買い物」などをしている暇はないはずだ。首相に近い自民党の遠藤利明総務会長は1月31日の記者会見で「外遊に行き、日ごろ付き合いのある先輩や同志に名産品を買ってくることもある。決しておかしいことではない」と述べているが、そのような“前例”があったとしても職責の重みを認識してストップをかけるのが周辺の役割ではないのか。
舛添氏も1月31日、自らのツイッターに「私は4つの内閣で、3人の総理に大臣として仕えたが、総理外遊の帰国後に総理からお土産をもらった記憶はない。いつから、こんな習慣ができたのだろうか。いずれにしても、お土産など国会で議論すべきなのか。物価高騰、ウクライナ戦争など、もっと大事な問題が山積しているのに、国会の良識を疑う」とつづっている。
ドラ息子が撮影した街の風景やランドマークの写真を見てみたい
外務省は、翔太郎氏が国際機関やシンクタンクの訪問、対外発信に使うためのランドマークなどの外観撮影、首相の土産購入を目的として外遊時に行動していたと説明し、“観光動機”を否定した。首相側近の木原誠二官房副長官も1月27日の記者会見で「首相の対外発信に使うための街の風景やランドマークの外観撮影」を公務の1つとしてあげている。
ただ、「対外発信に使うための外観撮影」を政務秘書官が行う必要があるのかという点も疑問だ。内閣官房のホームページには、内閣広報室の業務として「内閣の重要政策に関する広報の推進」とともに、「首相官邸からの情報発信」が明記されている。土産物の購入は省庁の事務秘書官や他の官僚にさせるわけにはいかないと判断したとしても、内閣総理大臣として欧米を訪問した岸田首相の情報発信は「首相官邸からの情報発信」に位置づけられるはずだ。何も政務秘書官である翔太郎氏が首相とは別行動で行う必要がないだろう。
松野官房長官は1月30日の記者会見で、翔太郎氏が撮影した写真について「現時点で対外発信に使用していない」「後日に一連の活動記録として対外発信に使うこともある」と説明しているが、なぜ広報担当職員ではなく翔太郎氏が担う必要があるのかは答えていない。これも「政治家・岸田文雄」のための行動だとすれば、それは「公務」と言えるのだろうか。
民主党政権で首相を務めた鳩山由起夫氏は1月27日、ツイッターに「本来外遊の際は常に首相に随行していなければならない秘書官が離れて公用車で遊んでいたとは言語道断である。政務秘書官として役立たずの息子を任命した総理の責任が問われる」と投稿した。首相や閣僚、国家議員が出張や旅行の機会に土産を購入することは「儀礼上、一般的に行われている」(松野官房長官)のかもしれないが、そのような永田町だけで通用する“悪しき慣習”はなくすべきで、ましてや首相の「右腕」が担う必要はないだろう。
タイトな外交日程の隙間に翔太郎秘書官が撮影したという、首相の対外発信に使うための街の風景やランドマークの外観はどのようなものなのか。その力作を早く見てみたい。