竹中平蔵「日本がこんな国になってしまったのは誰のせいなのか。国民のせいなのか」
参議院選挙の投開票日が迫っている。自公の圧勝が公示前から”約束”されていたような無風の選挙戦となっており、各党の政策よりもタレント候補者などに注目が集まっている。しかし、しかし本当にそんな選挙にしてしまっていいのだろうか。経済学者の竹中平蔵氏は、あまり知られていない、日本国民の生活かかわる歴史的転換が「ここ数年で起きた」と指摘している。なぜ、日本人は心の豊かさより、物の豊かさを求めるようになったのか。そうなったのは誰のせいなのか。日本人が今回の選挙で本当に決めるべきことは「決められるリーダー」を選ぶことなのではないのか――。
心の豊かさより物質的豊かさを求める人が急増
終戦から今年で77年になります。戦後のモノ不足の中、日本は著しい経済成長を遂げ、今や世界を代表する経済大国となりました。「日本は物質的に豊かな国である」――誰もがそう信じていることでしょう。しかし、政府の統計を見てみると、その”常識”が壊れつつあることがわかります。
内閣府の国民生活調査によると、「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と回答した人はここ2年で9%減少しました。一方で、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」と回答した人は15%も増加しています。それぞれ平成初期から数大きな変動はありませんでしたが、ここ2年で急激に動き出しました。つまりは、物的な豊かさを求める人が急増しているのです
この背景の一つには、若年層の賃金の低さもあることでしょう。しかし、若い人の給料は昔から低かったはずです。なぜ今になって問題が顕在化しているかというと、経済が停滞して将来に希望が見いだせなくなったからです。昔は日本経済全体が上向いていたから、「今がまんすれば、将来豊かになれるはず」という希望があった。だから、給料が安くても貧しさを感じなかったのです。
今は経済が停滞しているうえに、物価上昇という打撃もある。4月の輸入物価上昇率は前年に比べて45%。そのうちの3分の1が円安の影響です。今、さまざまな要因が重なって、日本人は非常に「貧しさ」を感じやすい状況に陥ってしまっています。
失われた30年に誰も何もしなかった
国民全体が貧しくなると、構造的な格差が持っている矛盾が浮き彫りになり、「心の豊かさ」より「物の豊かさ」を求める人がさらに増えるでしょう。日本がここまで貧しくなってしまった原因は、「失われた30年」の間に手を打ってこなかったからです。例えば労働市場の改革です。それができなかったから、企業の新陳代謝が進みませんでした。それから、コーポレートガバナンスをより強化し、駄目な経営者たちを辞めさせるシステムがないといけません。安倍晋三内閣が同一労働同一賃金の法律をつくり、かなり手を付けましたが、実体化しておらず不十分なままに終わりました。
では、いったい誰が改革を阻止していたのか。