独占:竹中平蔵「今後は”テツ”に戻って旅もしたい」…なぜこのタイミングでパソナ会長を辞めたのか
なぜ、今、パソナ会長をやめるのか
私は、死ぬまで仕事をしたい。
しかし、私は若いうちからたくさんの老害を見てきました。能力が落ち、判断力も落ちているのに、重要な役職に居続けている人たちです。自分で自分の能力を見抜けなくてはいけないのですが、見抜けないから老害になっている人がすごく多い。
一方で、「何歳になったら辞めてください」、と年齢で区切るルールもおかしいと思いますし、そんなものはなくすべきです。それは年齢による差別であり、男女による差別と同じレベル。こんなことをやっているのは先進国でいえば、日本と韓国くらいではないでしょうか。進退は自分で判断しないといけないのです。
ですが、組織の中で人に影響を与えるような仕事、つまりは組織の意思決定に関わる仕事については、一定の年齢で辞めたいともずっと思ってきました。
私は上の先輩から可能性やポジションを譲ってもらい、成長する機会を得てきました。今、年長の自分が、若い人にそういう機会を渡していくのも、やっぱり大切な仕事なのです。2009年にパソナグループの会長に就任した際も「長くて10年」とは思っていました。そして10年がたち自分が68歳になり、「70歳になるまであと2年間だけ」と続けてきましたが、それがまぁ、延びてしまって……。今71歳、会長になって13年になったわけですね。ここでもう辞めるべきだと。
TikTokよりYouTubeが見やすいと思ってしまう、感性の衰え
私は意思決定をする仕事はまだやれると思っています。だからこそ、やれるうちに譲らないといけないのです。
ただ、やっぱり私も衰えを感じないわけではありません。階段を上れば昔より息があがるのが早いですし、若い人が持っている感性と自分の感性は違うとも思っています。例えばTikTokなどのショート動画を見て、YouTubeの方が見やすいと思ってしまう。年をとったということなのでしょうね。
「一定の年齢で組織の意思決定からは離れるべきだ」、というのが私の考えですが、例外もあります。例えば、ソフトバンクの孫正義さん。孫さんが辞めたらソフトバンクはソフトバンクではなくなります。SBIの北尾吉孝さんが辞めてもSBIではなくなりますし、パソナの南部靖之代表が辞めてもパソナではなくなってしまいます。そういうレジェンドたちは別です。でもそうではない人は一定の年齢から組織の意思決定を退くべきなのです。
ちなみに、安倍晋三元総理が亡くなった直後に私の退任発表がなされたことで、「何か関係があるんじゃないのか」とインターネットを中心に憶測を呼んだようですが、全く関係ありません。今年の春から決まっていたことです。
若い人へ:「先が見えない」ことに恐怖を抱くな
さて、私が席を譲るこれからの若い人たちに対しては、正直「もっと頑張れ」と言いたいです。「先が見えない」と嘆く人もいますが、先が見えた時代なんてそもそもありませんでした。「年金が心配だ」という人もいますが、そうしたら個人年金に入ればいいのです。
どうも今の若い世代の一部は、自分がまだ見ぬ世界、領域、体験などの未知のものを異様なまでに怖がっているように見えます。そんなに不安なら自分の10年後、20年後の履歴書を書いてみればいいのではないでしょうか。そうするとその未来を実現するためには、今自分が何をするべきなのか逆算できるのです。
私は銀行に勤めていた当時、自分の本を出すという夢がありました。そのために同僚との飲み会を断ったり、寝る時間を削ったりして、毎日ちょっとずつ文章を書き溜め、一冊の本を書きあげました。海外出張をするようになってからは、東京からニューヨークに行くフライトの13時間、ずっと仕事をしていました。
ただそういう仕事ができるのは30代……、せいぜい40代までです。若いうちだからできることはたくさんあります。あなたがもし、給料をあげたいのであれば、昨日と同じことをしていても一生あがりません。
日本はコロナによりDXが一気に進んでいます。一方でインフレにより生活形態が大きく変わろうともしています。これからこの国は大変革期を迎えることになります。大きな混乱が生じますが、何か新しいことへのチャレンジもしやすくもなります。つまり、これまでよりも「大きな可能性がある」時代になるのです。若い人たちは今こそ、大いに挑戦をするべきだ、と思っております。
少年時代のように、「時刻表」を読みながら、妄想旅にふけりたい
私はパソナの会長からは退きますが、一人でやる仕事は今後も続けていきます。政策研究、コメンテーター、本の執筆などですね。健康である限り続けたいと思います。今はベーシックインカムに関する英語の本を翻訳していますが、これはとても面白いものになりますよ。また、元気な自治体の首長らと一緒に、新しいことにも挑戦しようとも考えています。(次回詳術)。
とはいえ、自分の自由な時間も増えるでしょうね。私は大臣のとき、何があっても呼び出されれば国会に行かないといけない状況にありました。ということで「病気になれない」恐怖から、健康のため毎日6時間は寝ることを決めました。そしてコロナ以降は、免疫力を高めるため、もう1時間長く眠ることにしました。パソナの会長を辞めたあとは、さらにゆっくり眠ろうかな、と思います。
私は「テツ」(鉄道好き)です。少年時代は時刻表が大好きで、時刻表の本を読みながら、妄想の鉄道旅にふけりました。妄想の中では、東京までを7時間半で結ぶ「急行『よど』」に大阪から乗って、時計を観ながら「お、今名古屋だな」なんてつぶやいていました。
大人になってからは妄想旅をしていませんが、もう一度昔を思い出して時刻表を読んでみましょうかね。また本物の旅にも出たいです。富良野、釧路、沖縄、京都……。ゆっくり街を散策したい。もちろん鉄道にも乗りたいです。観光列車に私は乗ったことがないですが、五能線を走る「リゾートしらかみ」(青森駅-秋田駅)なんて素敵ですねぇ。海外にも行きたい。フランスのパリからストラスブールまでの電車旅も憧れです。
そう考えると、これ以上睡眠時間を増やすのは難しいかもしれません(笑)。