【独自入手】総合経済対策の政府案 現金給付なし、電気・ガス代対策も期待薄…失望売り加速の恐れ
岸田政権「経済対策の原案」を独自入手したっ!
岸田文雄首相が10月末に策定する経済対策の原案を独自に入手した。急速な円安進行や物価高・資源高に国民が苦しむ中、注目される経済対策は「物価高騰への対応と賃上げの加速」「円安を活かした地域の『稼ぐ力』の回復・強化」「『新しい資本主義』の加速」「国民の安全・安心の確保」の4本柱だ。政府は28日にも閣議決定し、その裏付けとなる2022年度2次補正予算案を編成、提出する。
筆者は、昨年10月の岸田内閣発足直後に決定された経済対策も独自に入手し、オンラインメディアを通じて報じた。だが、あれから1年後の経済対策においても、原案を見る限り岸田首相が唱える「新しい資本主義」の中身は不明確だ。その場しのぎの弥縫(びほう)策という感が否めない。急速に円安が進み、国民が家計の負担増に頭を抱える中、今回の経済対策も「不発」に終われば、支持率が続落する首相への逆風はさらに強まる可能性がある。
それでは、首相が経済再生に向けて決定する経済対策の中身を見ていこう。第1弾は足元の「物価高騰と円安」対策の中身をお伝えする。
岸田政権が自画自賛「我が国経済は回復の動き」に失笑
まず、岸田政権は経済の現状認識として次のように自賛している。
「我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年春に大きな落ち込みを経た後、感染症の特性を踏まえたメリハリの効いた対策を講じる中で、今年春先以降は社会経済活動の正常化が進みつつあり、サービス消費を中心に回復の動きがみられる」
ただ、ロシアによるウクライナ侵略を背景とした国際的な原材料価格の上昇に加え、円安の影響などから日常生活に密接なエネルギー・食料品の価格上昇が続いている。そのため政策原案内では、実質所得や消費者マインドの低下を通じた消費への影響、企業収益の下押しによる設備投資への影響などを懸念している。
その上で、欧米の中央銀行がインフレ抑制重視の姿勢を鮮明にする中、金融緩和政策を採用する日本との金利差が拡大していることや、中国の「ゼロコロナ政策」による経済下振れが懸念されていることを踏まえ、「世界的な景気後退懸念が高まっている」と指摘。国民生活や事業活動を支え、日本経済を持続可能で高い成長経路に乗せていくためには「新しい資本主義」の下で、「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」を重点分野とした総合的な対策が求められるとの認識を示している。
「前例のない、思い切った負担緩和対策」ってなんなんだ
そのためには、物価高騰の主因であるエネルギー、食料品に重点を置いた効果的な対策が必要とする。特に23年春以降に予想されている急激な電気料金の上昇によって影響を受ける家計や、価格転嫁が難しい企業の負担を直接的に軽減する「前例のない、思い切った対策」を講じ、国民生活と事業活動を守り抜くと宣言している。
また、発電時に二酸化炭素を排出しない「ゼロエミッション電源」の最大限の活用や省エネルギー投資への支援強化、肥料や農産物などの国産化の取り組みを強力に支援。化石燃料や肥料原料、食料などの海外依存度を引き下げ、「危機に強い経済構造への転換を図っていく」としている。
中小企業向け補助金においては、賃上げのインセンティブを一段と強化する。同時に、取引先との価格交渉・転嫁が定期的に行われる取引慣行の定着に向けた、独占禁止法や下請代金法のより厳正な執行に取り組む構えだ。
さらに「同一労働・同一賃金」の順守徹底、男女間賃金格差の是正などを通じて賃上げを促進していくという。
燃料価格の高騰については、本来ならば1リットル当たり200円程度に上昇するガソリン価格を激変緩和措置によって170円程度に抑制してきた。補助上限を調整しつつ、来年1月以降もこれを引き続き実施する。
その上で、急激な電気料金の上昇によって影響を受ける家計や企業の負担を直接的に軽減するため、小売電気事業者などを通じ、毎月の請求書に直接反映するような形で「前例のない、思い切った負担緩和対策」を講じるとしている。家庭には、電気料金の上昇による平均的な負担の増加に対応する額を支援し、企業より手厚い支援とする方針だ。
ただ、脱炭素の流れに逆行しないよう激変緩和の幅は段階的に縮小するものとし、電力の構造改革をセットで進める。来春に先駆けて着手し、23年1月以降に開始を目指す。
ガスについては値上がりの動向や事業構造などを踏まえ、電気とのバランスを勘案した適切な措置を講じるという。
株式市場で失望売りが加速する恐れ
食料品については、これまで輸入小麦の政府売り渡し価格の据え置きや、配合飼料負担の上昇を抑制する措置を講じてきた。そこからさらに、食料品価格の上昇抑制や農林漁業者の経営への影響緩和の観点から必要な措置を講じる。
中小企業・小売事業者に対しては、資金の借り換え支援の強化や官民金融機関に対する柔軟な条件変更の要請により、資金繰り支援を実施するという。
22年度第2次補正予算案の編成においては、現在の超低金利状況を生かし、財政投融資の手法を積極的に活用する方針だ。加えて、規制・制度改革、税制改正といった政策手段を活用した総合的な対策とする。
物価高騰により予期せぬ不足を生じた必要な経費には、予備費の執行によって迅速・機動的に対応し、財政の単年度主義の弊害是正にも取り組む。
政府は、日本銀行と経済情勢に関する認識を共有し、財政政策と金融政策の「適切なポリシーミックスの下で緊密に連携」をうたう。また日銀には、金融資本市場の変動の影響を十分に注視しつつ、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向け適切な金融政策運営を行うことを期待するとしている。6月の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)に記していた表現よりも円安進行に対する警戒感を強めた。
ただ、日銀が10月27、28日に開催する金融政策決定会合では、円安進行の要因とされる現在の金融緩和政策が維持される見通しだ。
経済対策を裏付ける補正予算案の規模は原案に記されていない。ただ、自民党内からは「最低でも20兆円規模は必要で、規模次第では株式市場で失望売りが加速する」との声が広がる。日本経済全体の総需要と供給力の差である「GDP(国内総生産)ギャップ」は15兆円程度の需要不足とされており、それを少なくとも埋める必要があるためだ。
今回の経済対策原案について、経済アナリストの佐藤健太氏は「言葉は躍っているものの、国民の中に期待があった現金給付などは見送られた。電気料金やガス料金の値上げについても十分な手当てがなされることはないのではないか。スタグフレーションにより、とくに低所得者がダメージを受ける中、対策の中身が注目されていただけに、今回のメニューは期待が失望に変わる可能性もある」と指摘する。
首相は「聞く力」を自らの特長に挙げるが、国民の悲鳴はどこまで届いているのだろうか。